21
「一緒に猫ちゃんを探してくれたお礼」と小の花は言った。
木の葉は小の花が鉢植えを両手に持って木の葉に差し出す、という行動をしている間に、いつの間にか小の花の胸のあたりから肩の上に移動していた黒猫の顔を見た。それから小の花のすぐ近くにいる三人組の大人たちの顔を見た。みんな、「受け取ってあげて」とでも言いたげな優しい顔をしていた。年老いた太った男性も、双子の女の人たちも、みんな、みんな、そんな顔をしていた。唯一普段と変わらない表情をしていたのは、黒猫一匹だけだった。木の葉がもう一度黒猫に目を向けると、黒猫は木の葉を見ながら大きなあくびをしていた。木の葉はその贈り物を受け取ることにした。
「ありがとう」と木の葉は小の花にお礼を言った。
「どういたしまして」と嬉しそうに小の花は言った。
木の葉がこうして誰かのお願いを聞いて行動したり、その見返りとして、誰かから贈り物をもらうという経験をしたことは、今日が初めてのことだった。木の葉はベンチから立ち上がると、両手を使って、その贈り物をしっかりと大切に受け取った。……その小さな鉢植えを受け取ったときに、木の葉は危なく、小の花の前で泣きそうになってしまった。小の花から手渡された小さな鉢植えはとても軽かった。……だけど、そこには確かに『命の重さ』が感じられた。
それから小の花はなんだか木の葉の前でもじもじとし始めた。
「どうしたの?」と木の葉が聞くと、小の花は木の葉に「名前を教えて」と恥ずかしそうな顔で言った。
木の葉はそんな小の花に「僕の名前は木の葉だよ」と自分の名前を教えた。
すると小の花はとても喜んで「私は小の花って言うの。猫ちゃんを一緒に探してくれて、ありがとう!」と木の葉に言った。
「どういたしまして」と木の葉はさっきとは反対に小の花に言った。
「小の花ちゃん。そろそろ」と女の人の一人が言った。
その言葉を聞いて小の花は「じゃあね。さようなら」と木の葉に言った。
「うん。さようなら」と木の葉は言った。
そしてそのあとで三人組の大人たちも木の葉にきちんとさようならを言ってくれた。木の葉は三人組の大人たちに向かって、きちんと「さようなら」を言った。三人組の大人たちは年老いた男性、双子の女の人たち、の順番でバスに乗り、そして最後に小の花が腕の中にいる猫と一緒に大きな青色のバスの中に乗り込んだ。その間、黒猫はずっと黙ったままだった。言葉を持たない黒猫は木の葉にさようならを最後まで言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます