16
黒猫を抱きかかえた女の子は木の葉のほうを振り返った。
「ありがとう。猫ちゃん、見つかったよ」と女の子は嬉しそうな顔で言った。だけど木の葉はそんな嬉しそうな女の子に笑顔で「よかったね」と一言、言ってあげることができなかった。木の葉は遠慮がちに女の子に笑顔を返した。
目的の猫を捕まえて、三人組の大人たちから逃げる理由を失った女の子は猫を抱きしめたまま、木の葉の前までやってきた。女の子の腕の中でじっとしている黒猫はその二つの緑色の瞳をじっと木の葉に向けていた。
「……じゃあ、雨が止むまでベンチのところで雨宿りしようか?」と木の葉は言った。
「うん! そうする!」と女の子は言った。
木の葉は嬉しそうに猫を抱える女の子と一緒に白いベンチの上に座って、三人組の大人たちがここまでやってくるのを待つことにした。
一度、強まった天気雨は今度はすぐにその勢いを弱めていき、……やがて雨は上がった。空は元の気持ちの良い青色をした春の四月の空に戻っていった。空には綺麗な二重の虹があった。
「あ、バスだ!」と女の子は言った。
女の子は遠いところをその小さなひとさし指で指差している。
木の葉がその指の先に目を向けると、確かにそこには女の子が木の葉に説明してくれた通りの大きな青色のバスがあった。バスはこちらに向かって移動しているようだ。
「あのあたりにバス停があるんだよ」と女の子が木の葉に教えてくれた。
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