13
それと同時に木の葉の頬になにか冷たいものが当たって、ぱん、と音を立てて弾けた。
それは小さな雨粒だった。弾けた雨粒はまるで涙のような跡を残して、木の葉の頬を伝って消えた。空を見上げると、晴れ渡る青色の中からぽつり、ぽつりと透明な天気雨が降り出してきた。春の季節特有の晴れた日に降る不思議な雨だ。木の葉の見上げる空には確かに青色と白い雲が浮かんでいた。雨はそこから真白たちの居る大地に落っこちてきている。それは理解できたけど、それでも太陽の輝く青色の空から雨が降ってくるのは、とても不思議な経験だった。だから木の葉は思わず空を見てにっこりと笑ってしまった。
「雨だね!」と女の子が言った。
「うん。雨だね」と木の葉は女の子に答えた。
それから木の葉は後ろを振り返った。すると三人組の大人たちは木の葉たちのかなり側まで迫ってきていた。小さな女の子の速力と年老いた男性の速力では、どちらが速いのかは微妙なところだけど、今回は男性の勝ちのようだ。女の子もそれがわかっているのか、焦った表情をしていた。
「これは、……追いつかれるね」と息を切らせながら木の葉は言った。
「こっち」と女の子が言った。「こっち?」木の葉がそう言うのと同時に、女の子は橙色の煉瓦造りの道を飛び出して、緑色の芝生の上に足をつけた。
木の葉は女の子に引っ張られるようにして、橙色の煉瓦造りの道からはみ出して、緑色の芝生の上に女の子と同じように足をつけた。女の子はそれから緩やかな丘の斜面を下るようにして、芝生の上を走り出した。どうやら女の子は橙色の煉瓦造りの道を飛び出して丘の上の高いところから低いところに向けて、その走るコースをショートカットしようとしているようだ。それに気がついた三人組の大人たちは急ブレーキをかけて立ち止まると、それからその場で少し迷ったようにあたふたしてから、やがて急いで方向転換をして、せっかく走ってきた橙色の煉瓦造りの道の上を引き返すように走り始めた。木の葉はそんな大人たちの行動を不思議そうな目で見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます