12 虹の架け橋 独唱。……合唱。 思い出して欲しい。私のことを、あなたに思い出して欲しいの。
虹の架け橋 独唱。……合唱。
思い出して欲しい。私のことを、あなたに思い出して欲しいの。
木の葉は少し迷った。本来なら、このままこの場所であの三人組を待って、女の子を引き渡すことが木の葉の務めだろうと思った。ここからさらに先の道の上に逃げたとしても、猫が見つかる保証はないし、だいたいこの場をうまく逃げ切れたとしても、バスに乗るという予定がある以上、それほど長い時間、木の葉は女の子のわがままを聞き続けるというわけにもいかなかった。この場合、木の葉は悪人で、正義はあの三人組の大人たちの側にあるのだ。それくらいは木の葉にもすぐに理解できた。
「ね、お願い。一緒に逃げよう」と女の子は言った。
「逃げてもいいけど、一つだけ僕と約束してくれる?」と木の葉は言った。「なに?」と女の子は言った。「猫が見つかったら、今度は大人しくあの人達と一緒にバスに乗ること。それを僕と約束できる?」と木の葉は言った。すると女の子は「うん、約束する!」と言って嬉しそうに頷いた。
「わかった。じゃあ行こう」と木の葉は言った。
「うん!」と小さなひまわりの花のついた子供用の麦わら帽子を片手で押さえながら、女の子はそう言ってにっこりと笑った。
約束を確認したあとで、木の葉は女の子の手をとった。女の子の手をとって、そのまま三人組の大人たちとは反対の方向に向かって橙色の煉瓦造りの道の上を急いで走り始めた。後ろを振り返ると、三人組は走り出した木の葉たちを見て、三人とも、とても驚いた顔をしていた。それから先頭にいた男性がすぐに怒ったような顔になって、木の葉たちのあとを必死になって追いかけてきた。慌てた様子で女性二人も男性のあとを追いかけるようにして、木の葉たちのあとを追ってきた。
木の葉は女の子の手を引っ張りながら、ある程度、女の子の走る速度に自分の歩調を合わせるようにして、橙色の煉瓦造りの道の上を走り抜けた。
あまり運動をしない木の葉の息は、はぁはぁ、とすぐに上がってしまったけど、久しぶりの『走る』という行為は、それなりに楽しかった。木の葉は走りながら女の子の顔を見た。女の子は小さなひまわりのついた子供用の麦わら帽子を片手で懸命に押さえながら、地面の上を見つめて、一生懸命に小さな両足を動かしていた。
女の子が自分を見つめる木の葉の視線に気がついて、木の葉を見た。そして女の子はまたにっこりと笑った。
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