まるで自分のよく知っている世界によく似たまったく別の世界の中にでも自分が迷い込んでしまったかのような変な気持ちに木の葉はなった。

 橙色の煉瓦造りの道は大地の上に緩やかなカーブを描いていた。木の葉と女の子はその道に沿って、自然公園の中を移動した。

 ……そもそも、ここは本当に公園なのだろうか? という疑問を木の葉が抱いたのは緩やかなカーブを曲がり、それから先にあった少し小高い丘のような場所を歩いているときだった。そこから木の葉たちがいた猫探しの出発点である白いベンチとその後ろにある大きな木を眺めていたときに木の葉はそんなことを強く思うようになった。

 ……そもそも僕はどうしてこんな場所にいるのだろうか? なぜ僕は白いベンチの上で居眠りなどしていたのだろうか? それらの理由を木の葉はどんなに考えても思い出すことができなかった。


 丘の途中には石造りの階段があった。上と下に続く階段だ。

 木の葉はどっちに行こうかと一瞬迷ったが、女の子が上に向かって足を進めたので、木の葉も同じように階段を上に向かって上って行った。

 木の葉は丘の上で立ち止まった。すると女の子も、木の葉の隣で立ち止まった。

 木の葉たちの周囲を暖かい風が吹き抜けた。気持ちの良い風。自由で気ままな春の四月の風だ。

「猫ちゃんいないね」と女の子がとても小さな声でつぶやいた。見ると女の子は下を向いていた。きっと今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。木の葉は落ち込んでいる女の子に「大丈夫。すぐ見つかるよ」と声をかけた。「本当?」と顔をあげて女の子が言った。女の子はやっぱり悲しそうな顔をしていた。「うん。本当」と木の葉は言った。本当と言ってしまった手前、本当に猫を見つけないわけにはいかなくなった。

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