「ねえ、なにしてるの?」と女の子が言った。木の葉は「なんでもない」と女の子に答えてから、再び橙色の煉瓦造りの道の上を歩き出した。

「猫ちゃーん。出ておいでー。一緒にお家に帰ろうーよ」と、女の子は片手を口の横に当てながら大きな声でそう言った。木の葉は流石に女の子のように大きな声を出すことはできなくて、黙ったまま猫を探した。

 公園を覆う緑色のほとんどは短い芝生だったので、周囲の見渡しはよく、隠れる場所もほとんどないので、猫はすぐに見つかるような気がした。しかし、そんな木の葉の予想とは違い探しても探しても、猫は見つからなかった。猫はいったいどこに行ってしまったのだろうか?

 そもそもよく考えてみるといないのは猫だけではなかった。木の葉たちのほかに人間が誰もいないこともそうだけど、この公園には物がなさすぎた。たとえば橙色の煉瓦造りの道を照らすための照明器具とか、立ち入り禁止を意味する鎖とか、公園の案内板を兼ねた地図とか、屋台のようなお店とか、それから一定の距離の間によく置いてある自動販売機とかゴミ箱とか、それから先ほど木の葉たちが出会ったあの白いベンチのような休憩施設のようなものだ。この大きな自然公園の中で目覚めてから木の葉が見つけたものは小さな女の子と白いベンチと大きな木と橙色の煉瓦造りの道と、眩しく輝く太陽と、青い空と白くて大きな雲と、気持ちの良い風と、それから木の葉の周囲に永遠に広がる緑色の大地だけだった。それと桜の木々だ。それらの項目に春と四月という言葉を付け加えてみてもいいかもしれない。

 木の葉の見つけたものたちは、それだけで十分に満たされていると思われる、ずっと木の葉が探し求めていた宝物のようなものばかりだったけど、迷子の猫を探す手がかりにはならないし、やはりあって当然と思われるものたちがその場所に存在していないということは、なんとなく少し奇妙な感じがした。

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