「猫ってどんな猫なの?」と木の葉は女の子に聞いた。

「黒い色をした猫ちゃんなの。大きさはこのくらい」と女の子は両手で空中に小さな空間を作り出した。それは本当に小さな空間で、おそらくその猫はまだ子猫なのだろうと木の葉は思った。

「いなくなっちゃったの?」と木の葉は言った。「……うん。いなくなっちゃったの」と女の子は言った。

 そのとき、女の子は木の葉の前で初めて、とても寂しそうな顔をした。大きな黒目を潤ませて、まるで雨が降り出す直前の空のような曇った表情で木の葉を見つめた。木の葉はそんな女の子の顔を見て、少しひるんでしまった。木の葉は小さな子供も、他人に好意を向けられることも苦手だったのだけど、……なによりも自分の前で誰かに泣かれることが一番苦手だった。

「その猫は君の猫なの?」と木の葉は言った。

「猫ちゃんは私の友達なの」と女の子は言った。

「猫の名前はなんていうの?」と木の葉は聞いた。「猫ちゃんは猫ちゃんだよ。私はいつも猫ちゃんって呼ぶの」と女の子は言った。どうやら迷子の猫には名前がないようだった。この女の子には、猫に名前をつける習慣がないらしい。なかなか珍しい習慣だ。そんな珍しい習慣を持つ女の子に拾われて、その迷子の猫は可哀想な奴だなと木の葉は思い、それから心の中で苦笑した。


「ねえ、お願い。一緒に猫ちゃんを探して」と女の子は言った。そう言いながら女の子はまた木の葉の体をゆさゆさと左右に揺らした。

 木の葉は少し迷った。

 猫探しなんてとても僕らしくない行為だと思った。それに見ず知らずの女の子の頼みを聞くなんてことも、全然僕らしくないことだと思った。……でも公園に吹く風がとても気持ち良かったから、……暖かくて、どこか花の香りがしたから、太陽も綺麗で、空も青くて、白い雲は優雅で、遠くに見える桜も綺麗で、自然公園の緑は僕の両目と心をめいいっぱい清めてくれたから、それはまるで、自分の内側を綺麗に洗濯されているようだったから、……だから木の葉は「いいよ」と女の子に言った。

 すると女の子は、もともと大きな両目をさらに大きくした。口も大きく開いていて、言葉はなかったけど、その女の子がとても驚いていることが僕に直接、両目を通じて伝わってきた。木の葉はその女の子の顔が見られただけで、猫探しを手伝うことにしてよかったと思った。

「ありがとう」嬉しそうな顔で、女の子は言った。

「どういたしまして」と木の葉は言った。

 木の葉はずっと座っていた白いベンチから腰を上げた。すると女の子もベンチから大地の上にある自分の赤色の靴の上に飛び降りるようにして移動した。その女の子の行動を見てから、木の葉はその場で大きく一度背伸びをした。横を見ると、女の子は地面の上にしゃがみ込んで一生懸命に小さな赤色の靴を履こうとしていた。

 女の子が靴を履き終わると、「じゃあ行こうか?」と木の葉は言った。

 女の子は「うん」と答えた。

 こうして、木の葉と女の子の迷子の猫探しが始まった。

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