そんな巨大な自然公園のどこかにある白いベンチの上。きっとそんな場所にいるのだと木の葉は思った。木の葉が自分のいる場所が公園の片隅だと思ったのは、それなりの大きさがあるにもかかわらず、木の葉の周囲にいる人間が木の葉の隣に座っている女の子一人しか見当たらなかったからだ。

「ねえねえ、お外ばかり見てないで私を見て。私のお話をちゃんと聞いて」女の子はそう言いながら木の葉の体をゆさゆさと揺さぶった。木の葉は女の子の言葉通りに視線を大きな公園から木の葉の横にいる女の子の姿に戻した。

 その女の子は靴を脱いでいて、白い靴下のまま、白いベンチの上に両足を乗せて座っていた。女の子はとても自然な表情をしていた。なぜだかはわからないけど、木の葉はこの女の子にとても懐かれているようだった。誰かから好意を向けられることは、もちろん悪い気はしないのだけど、だけど木の葉は小さな子供に懐かれることにも、他人から好意を向けられることにも、あまり慣れてはいなかった。

「わかった。とりあえず話を聞くから、ベンチの上から足を下ろして、それから、ちゃんと靴を履いて」と木の葉は言った。

 ベンチの下の地面の上には女の子の靴が綺麗に揃えられておかれていた。女の子の靴は赤色の可愛らしい靴で、それはこの子のイメージ通りだったのだけど、その靴が綺麗に揃えられていることには違和感を覚えた。この女の子はとてもやんちゃな感じがしたので、靴なんて脱ぎっぱなしにしそうだと木の葉は思った。もしかしたら、この広い公園のどこかにいるはずの、この女の子のお母さんが綺麗に靴を揃えたのかもしれない。

「話ってなに?」と木の葉は言った。

 それはどこか聞いている相手に冷たい印象を与える言いかただったと思う。木の葉はそれほど子供が好きではなかったから、自然とそんな声音になってしまったのだ。その言葉の冷たさに木の葉は声を出したあとで、少し後悔したのだけど、でもその女の子はちっとも物怖じしない様子で、ようやく木の葉が自分の話をきちんと聞いてくれる気になったことが嬉しかったのか、にっこりと笑って「あのね、いなくなっちゃったの」と、とても嬉しそうな明るい声音で木の葉に言った。

「いなくなった? いなくなったって、なにが?」

「猫ちゃん。ねえ、猫ちゃんを探して」

 そう言いながら、女の子はとてもまっすぐな瞳で、木の葉の目を見つめていた。その黒目の中には相変わらずはっきりと木の葉の顔が映り込んでいた。

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