第143話 優勝賞品・俺
-side 田島亮-
RBIとバトったり、リンさんとサシで話したり、先生と二人でゆるりとコーヒーをたしなんだり。何かと長かったような気がするスタンプラリー対決ではあったが、気づけば残すスポットはあと1つ。俺たちA班一行は、最終目的地である清水寺を訪れていた。
「おっす、亮! 楽しんでるか?」
そして、清水寺にたどり着いた俺たちは新島翔を始めとするB班の面々と合流。咲がB班と交渉していたという話は本当だったらしく、俺たちは彼らと行動を共にすることとなった。同着一位でゴールすればめでたしめでたし、という算段である。
なお、B班の面々もなかなか濃いメンツであり、
「お久しぶりであります! 田島くん! またお会いできて嬉しいのであります!」
陶芸大好き新聞部員、相川瀬奈。
「あ、えっと、昨日ぶりだね、田島くん……」
最近前髪をバッサリ切って開眼した才女にして美少女、岬京香。
「え? そっちの班って亮以外皆女の子なの……?」
スタイル抜群・アスリート系美少女、仁科唯。
以上、4名の班構成となっている。俺らの班と合わせれば計8人というなかなかの大所帯であり、このメンツが集結しているというのは、修学旅行ならではの光景と言えるだろう。
この人数で行動するとなると、何かとトラブルが起きそうな気もする。しかし我がA班には奈々ちゃん先生も居ることだし、そう心配する必要も無いだろう。
「いやー。なんか人数増えちゃいましたけど、お目付け役で先生が居ると安心ですね」
「えっ!? そ、そうかな!?」
隣に居る先生が、ビクリと肩を揺らす。
「? どうしたんです、先生? 急に慌てちゃって。心なしか顔も赤いような……」
「あー、いや、これは……な、なんでもない」
「本当に大丈夫なんですか?」
万一体調を崩されでもしたら、たまったもんじゃない。念のため先生の顔を覗き込んで、顔色を確認してみる。
「っ、ち、近い……!」
「? まあ、そりゃあ顔の色を見てますから」
しかし、これは本当にマズいかもしれないな。先生の顔がどんどん赤くなっていっている。
「顔真っ赤ですけど、大丈夫ですか? もしかしたら熱があったり……」
「と、とにかく、まずは私から離れて! 大丈夫だから! 別に……なんともないから!!」
「そ、そうですか。まあ、なんともないなら安心ですけど」
先生の言葉に従い、一歩下がって元の位置に戻る。
えっと……なんだろう。気のせいかもしれないけど、二人でコーヒー飲んだ後あたりから先生の様子がおかしい気がする。どこかよそよそしいというか、いつもの迫力が無いというか。
「……と、とりあえず。清水寺では自由行動とする。私は出口の方で待っておくから、君たちは存分に観光を楽しんできなさい。それじゃ」
「え? ああ……はい。分かりました」
先生は早口に言うと、神妙な面持ちで出口の方へと引き返していった。
「先生……大丈夫かな……」
もちろん、心配ではある。今すぐ背中を追いたい気持ちが無いと言えば、それは嘘になる。
しかし、なんとなく1人になりたいような、近寄りがたいような雰囲気を感じた俺は、先生の背中を追うことまでは、やめておいた。
まあ、先生からも楽しめという指示が出たことだ。ここは皆と清水寺観光に励むとしよう。
と、いうわけで。先生の指示を伝えるべく俺は、振り向いてA・B合同班の様子を確認してみる。
「えっと、皆ちょっといい? 先生から自由行動ってお達しが出たんだけ……ど?」
が、しかし。てっきり7人で談笑していると思っていた俺の瞼に映ったのは、そんな思惑を裏切るような光景だった。
「「「じゃんけんぽん! あいこでしょ! あいこでしょ!! あいこでしょ!!」」」
「えっと……なにやってんだ?」
ニヤついている翔、なんとも言えない表情のリンさんと瀬奈ちゃん。そして、そんな彼らが見守るなかで、じゃんけん勝負を繰り広げている岬さん、咲、唯の3人。
……一体全体、これはどういう状況なのだろうか。
「「「あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!!」」」
「……おい。これはどういうことだ、翔」
「ん? いや、まあ見ての通りだぞ。じゃんけんで勝ったヤツが誰と一緒に清水寺を回るかを決めるって話になったんだよ」
「ああ、そういう……」
な、なるほど。まあ……どうせ翔が言い出しっぺになって、こういう状況を招いたのだろう。8人は大所帯だが、わざわざ人数を分けて行動しなければならないほどの人数でもない。こんなことをせずとも、皆で回ればいいだけの話だ。
「あ、ちなみに言い出しっぺは市村さんだからな。俺を疑うのは分かるが、そいつはお門違いってやつだ」
「勝手に心を読むなよ……って、え? 咲が?」
「「「あいこでしょ!! あいこでしょ!! あいこでしょ!!」」」
まだ勝負がつかないのか、とツッコミたい気持ちは山々だが、企画の提案者の正体に驚きおののいて、俺は言葉が出なかった。
どちらかといえば普段は大人しい、あの咲が……? 一体何のためにこんなことを──
「やった! 私の勝ち!!」
と、この状況が読み切れぬうちに勝者が決まったようである。『言い出しっぺは大体負ける』というこの世の法則など知らんと言わんばかりに、咲がウィナーとなったらしい。
「あー、負けたかぁ!!」
「うぅ、負けちゃった……」
その傍らで、唯と岬さんは本気で悔しそうな表情を浮かべている。俺が知らぬうちに何か大事なものでも賭けていたのだろうか──
「と、いうわけで! 亮は私と二人っきりで清水寺観光ね!!」
「へ!? まずはスタンプ押しに行くんじゃないの!?」
「じゃんけん優勝者の私は別なの! ほら、行くよっ!!」
「どあっ! ちょ、ちょっと咲さん!?」
急展開な状況に頭が追い付かないまま、俺の腕を引っ張ってズンズンとどこかへと向かい始めた咲。
いつになく笑顔で。しかし俺の腕を握る手は震えていて、どこか表情が強張っているようにも見えて。最初は唐突な展開に驚いていた俺であるが、その矛盾した様子を見ていると、なんとなく、少しだけ。俺は彼女のことが、心配になった。
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