第136話 幼馴染は策略家?

-side 田島亮-


 京都府某コンビニの駐車場にて。RBIの策略により、一時はスタンプカードを奪われたかと思われた、俺たちA班。


 だが、しかし。


「ジャジャーン。これなーんだっ♪」


 どういう理屈なのかは皆目見当がつかない。が、先ほど盗まれたはずのカードは現在、ニッコリ笑顔の咲の手元に握られていた。


「え? なに? どういうこと? さっきアイツら、俺らのカード奪って逃げたよな? なんで咲がカード持ってんの?」


 状況を飲み込みきれず、矢継ぎ早に咲へ問いかける。


「ふふ、実はね……あのカードってダミーだったの。ニセモノなのよ♪」


「……は? ニセモノ!?」


「そう、ニセモノ」


 なってこった。こりゃたまげた。


「今私が持ってる方が本物のカードよ。そして西川君たちが盗っていったのは、さっきコンビニに行った時に本物をコピー機で印刷して私が用意しておいたニセモノ。盗られたって何の問題も無いってわけよ」


「いや、まあ理屈は分かったが……一体どうしてそんなことを?」


 カードをコピーして2枚に増やした。RBIに盗まれたのはダミーの方だけなので問題はない。そこまでは分かる。


 しかし、そんな回りくどい行動に出た理由が、てんで分からない。


「うーん、なんていうか、ね? このゲームには必勝法があるのよ。だから、ちょっと西川君たちを試してみたの」


「え? 必勝法?」


 理解が追い付かない。やはり俺と咲では頭の出来が違うのだろうか。


「あー、なるほど分かったアル」


「ああ、私も分かった」


「え、ちょっと? リンさん、先生? 勝手に俺を置いていくのやめてもらえます?」


 悲しきかな、我がおバカ頭脳。2年も通っていて今更だが、やはり進学校生だらけの空間は俺には場違いだ。悔しいを通り越して、もはや虚しい。


「で、その必勝法ってなんなんですかね?」


 半ば投げやりな気分になりつつ、咲に問いかける。


「いや、まあ別に必勝法っていっても難しいことじゃないのよ? ただ単に、3チーム同時にゴールして皆同着一位になればいいじゃん、ってだけの話」


「あー、それは……よくよく考えれば、確かにそうだな……」


 スタンプラリー対決(・・)と銘打ってあるものだから、完全に盲点だった。このイベントはガチで順位を競う、いわば部活の大会のようなものではない。無理に他のチームと争う必要は無いのだ。全員一緒にゴールして、全員一位特典の豪華な晩飯にありつくってのが、一番平和な解決法ともいえる。故に、必勝法なのだろう。


「わざわざチーム分けしたり、対戦表作ったり、GPS付きのスマホまで配ったりしてるのは、きっと生徒会が私たちの競争心を煽って『全員同着』っていう考えをなくさせるためなんじゃないかなーって思う。勝負を楽しんでほしいっていうのが、生徒会側の意向なんじゃないかな?」


「お、お前、よくそこまで頭が回るな……」


「えっへん。私だって理系上位クラスなのだよ?」


 悲しくも実りの乏しい胸をめいっぱい張り、得意げに口角を上げる咲。


「で、実はさっきB班の京香ちゃんに連絡して既に交渉は済ませててね? B班とは後で合流して一緒に行動することになってるの。だからあとは、ちょっと怪しげだったC班の本心を確かめてみて、信用できるようなら3チーム結託&同着で大勝利かなーって思ってたわけ」


 なるほど。だから咲はわざわざC班に見せつけるような形で、隙だらけの俺にダミーのカードを手渡してみてヤツらの様子を伺ったわけか。なにもしないならそれでよし。隙を突かれて盗まれたとしてもニセモノだから問題は無し、と。よくもまあ、そんなことを考えたものだ。



「なんつーか……咲って意外と策士なんだな……」


「まあ実際、教師の目から見ても市村の思考力は天明でも群を抜いているよ。頭の回転だけなら成績トップの岬より速いかもしれない」


「恐ろしい子アル」


 いや、ほんとそれな。


「まあ、戦わずに勝てるなら、そうした方が良いじゃない? だから今回はどうにか戦わない方法を考えてみたの。みんなが一番っていうのが、やっぱり平和だと思うし。だから、西川君たちが暴走しちゃったのは本当に残念なんだけど……絶対同着の方が楽なのに、なんでカード盗んじゃったんだろうね?」


「咲よ。アイツらのことはもう考えるな。理解しようとするだけ無駄だ。ヤツらは自然災害と同じだからな。いつ何をするかなんて一生分からないぞ」


「田島、お前……なんでそんなヤツらと友達やってるんだ?」


「聞かないでください先生。それ自分でも分かってないんすよ」


 争いを生まないために頭を回す幼馴染と、厄災のように多方面に喧嘩を売りまくるバカ3人衆。同じ高校生だってのに、どうしてここまで差が出てしまったのだろうか。


「まあ、アイツらは多分ゴールしても強制失格で最下位だろうな。ルールで禁止されてないとはいえ、支給スマホをホテルに放置して位置情報隠蔽したり、ダミーとはいえ他の班のカードを盗むとか、生徒会側も想定してないだろ。リンさんも言ってたけど、倫理的に完全アウトだ」


「はぁ、まったく。教師としても頭が痛い話だ。どうもあの3人はルールに書かれていないことはなんでもやっていいと思っている節がある。あのまま社会に放つわけにはいかないな……」


「ワタシも今まで結構やりたい放題やってきたつもりだけど、アレには敵わないネ。ドン引きアル」


 散々な言われようである。しかし、どうあがいてもフォローのしようがない。というか、フォローする気にもならない。許せバカども。今回はお前らが悪い。


「そんじゃ、まあ……スタンプ集めつつ、また京都観光しますか。うっとうしいヤツらも消えたことですし、ゆっくり行きましょう」


 こうして俺たちは、咲の機転のおかげで何の憂いもなく京都散策を再開したのであった。なお後日聞いた話によると、ゲーム終了後にカード盗みがバレたRBIは、罰としてしばらくの間、爆弾岩の元で雑用をさせられることになったらしい。





 ……あー、うん。ご愁傷様。

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