第135話 案の定
-side 田島亮-
前略、京都市街地。特に問題が発生することもなく二条城、京都タワーと2つの観光スポットでスタンプをゲットした俺たち、A・C合同班一行は一度コンビニに寄って小休憩をすることとなった。
「で、お前らが俺らと一緒に行動してる本当の目的ってのは一体なんなんだ?」
そして現在、お手洗いを済ませに行っている女性陣を男性陣4人で駐車場にて待っている最中。ここまでRBI連中が何も問題を起こしてないのがなんだか逆に怪しく感じてきた俺は、念のため再度3人に探りを入れてみることにした。
「本当の目的か。そんなもの一つに決まっておろう。なあ、西川?」
「あたぼうよ、脇谷。もちろん吉原も同じ気持ちだよな?」
「おうともお前ら。目的なんて一つに決まっている」
「あのー、無駄にもったいぶらずにさっさと話してくれませんかね」
なんて、呆れ半分で3人を眺めていると、
「「「目的なんてな。んなモン、A班のかわいい女子と京都を巡るために決まってんだろ」」」
彼らは唐突に口を揃えて、言語化した思春期を俺にぶつけてきた。
「……なんつーか、アレだな。下心はあれど、割と真っ当な目的だったんだな。もっとバカみたいなこと考えてると思ってたわ」
爆弾岩事件の時みたいなヤツとか。
「何を言う、田島。いくら我らRBIとて、常にリア充を爆散させているわけではないのだ。時には純粋に修学旅行を楽しもうとする心も持ち合わせているのだよ」
いや、西川。俺の記憶が正しければ、お前らは一度もリア充爆散とかやってないはずだぞ。だってお前ら、俺か翔としか話せないし。
「ちなみに俺は市村さん派だ」
知らんがな。
「俺はあのチャイニーズガール派だぞ。雰囲気がどことなく貴様の妹に似ている」
そういえば脇谷って友恵にゾッコンだったんだな。イヤなこと思い出した。
「俺は柏木先生派だな。髪型がどことなく元カノに似ている」
吉原よ。そもそもお前はいつのまに彼女と別れていたんだ。こっちは破局してたこと自体知らなかったんだが。え、いや、割とマジでその辺フツーに気になる。
「……ま、まあ、分かったよ。とりあえずお前らが健全に不純な動機を持ってるってのは分かった。いや、自分でも何言ってるのか分からんのだけど」
「「「分かればよろしい」」」
「なんでちょいちょいハモるのよ」
もしやコイツら、セリフ合わせをしているのではなかろうな。
◆
「ごめん、待たせちゃったわね」
「あー、いや、全然いいよ。そんじゃ、次の目的地行くか」
バカ4人でバカトークを繰り広げること数分。俺たちは、コンビニで用を済ませた咲たちと再合流し、3つ目の観光スポットへ向かうこととなった。
「あ、ごめん、亮。ちょっといい?」
「ん、なんだ、咲?」
駐車場を出て道を歩き始めたタイミングで、トタトタと咲が隣に駆け寄ってきた。割と距離が近く、吐息が当たって少しドキりとしたのは内緒の話である。
「コレ、やっぱり亮が持っててくれない?」
そう言って咲がポーチから取り出したのは、各班に一枚ずつ配られているスタンプカードだった。丁寧にクリアファイルの中に収められている。
「ん? いや、まあカード持つのは別にいいけど……なぜ今俺に?」
「え、えっとそれは、その……私のポーチがちょっと小さいからさ。中に紙を入れといたらグシャってなっちゃうかなーって思ったの」
「あー、なるほどそういうことね」
言われてみれば確かに、俺のバッグの方が大きい。カードを収納するって点だけを考えれば、俺が持っておく方がいいのかもしれないな。しかし、随分几帳面なものだ。さすがは女子、といったところか。
「え? 別に紙がグシャグシャになっても関係ないんじゃないアルか?」
訂正。女子全員が几帳面というわけではないらしい。というか、その語尾だとアルのかナイのか、どっちなのか非常に分かりづらい。
「まあ、分かったよ。とりあえず俺が持っとくわ」
どちらかといえばガサツな方なので、リンさんと同じく俺としてもカードの保存状態は気にならないのだが、まあ、それはそれ。特に断る理由もないため、咲からカードを受け取るべく、クリアファイルに手にとる。
──と、その瞬間。
「……はっはっは! 隙ありぃ!!」
「なっ!?」
それはほんの、本当に一瞬の出来事だった。なんと、俺の手に握られていたクリアファイルが突如として眼前から消え去っており……背後を振り返ると、俺からかすめ取ったカードを片手に持った西川を先頭として、RBIが猛ダッシュで俺たちと距離を取っていたのだ。
「カーッカッカッカ! 残念だったな、田島!」
「このまま俺たちがカードを持ち去れば、お前らは単独ビリ確定って寸法よ!!」
「いくらお遊びとはいえコレは勝負だ! 誰が同着ゴールなんてするかっつーの!!!」
「チックショウ、西川、脇谷、吉原! テメェら図りやがったな!! さっさとカード返しやがれ!!」
やられた。完全にやられた。この3人を一瞬でも仲間だと思った俺がバカだった。
「へっ、誰が返すかよ! そんじゃ、俺たちはここでドロンだ! あ、女子のみなさんには後でちゃんと謝罪させていただきますね」
「いや、その謝罪絶対意味無いからな」
表情を見るに、奈々ちゃん先生もリンさんも咲も、ドン引き状態である。ヤツらは好感度を下げたくなくて謝ろうとしているのだろうが、コレだと謝ったところで意味は無いだろう。なぜにヤツらは女子から嫌われたくないのに悪事を働いてしまうのだろうか。もう、そういう病気だとしか思えない。
と、いった具合にツッコミを入れていると、
「そういやアイツら、足だけは速いんだよな……」
気づけば駅伝部3バカは、呆れている俺たちを置いて遥か彼方へと走り去っていた。
「……いや、ビックリですね、先生。人間って呆れると犯人を追うことすらしなくなる生き物なんですね」
「同感だ、田島。教師としてはすぐに叱るべき状況だったのかもしれないが、私も呆れて物も言えなかったよ」
珍しく苦笑いを浮かべつつ、はぁ、とため息をつく奈々ちゃん先生。この様子を見るに、ヤツらが所属する駅伝部の副顧問とは大層大変な仕事なのだろう。なんかかわいそうになってきたな。
「つーか、先生? 今のってルール的にどうなんです? 他の班のカードを奪うってアリなんですか?」
「いやー、それがな……実際、『カードを奪っちゃいけないと』ってルールは無いから、私からはなんとも言えないというか、明確なルール違反をしないあたり、そこがあの3人の無駄に賢いところというか、なんというか……」
「な、なるほど」
支給スマホをホテルに放置し、位置情報を隠匿。さらには他の班のカードを奪ってゲームを妨害。いずれも行為自体はゲス極まりないが、ルールの穴を突いて実行するあたり、腐ってもヤツらは進学校の生徒だということだろう。もっと別のことに頭を使ってほしいものである。
「まあ、ルール的にセーフでも倫理的にはアウトアル」
マジでリンさんの言う通りである。
「はぁ……で、これからどうします? 俺たちはカードを無くしてしまったわけですけど。ヤツらを追いかけますか?」
絶望、というよりは手持ち無沙汰感を胸に抱きつつ、班員に今後の方針を問いかけてみる。
しかし、
「ふふふ、その必要は無いわよ、亮」
どうやら咲だけは気持ちが違うようで。何を思ったか、そう言って得意げな笑みを浮かべた彼女は、一歩前に踏み出して俺の正面に立つと──
「ジャジャーン。これなーんだっ♪」
珍しく、ニシシと悪戯に白い歯を見せながら。先ほど盗まれはずのスタンプカードを、俺たちに見せつけてきたのだ。
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