第134話 協力申請?

-side 田島亮-


 咲、リンさん、そして奈々ちゃん先生と連れ立ち、俺たち4人はホテルを出発。いよいよスタンプラリー対決の開始。京都の街を散策しつつ、最初の目的地・二条城へと向かう。


 ちなみに俺たちA班は、B班、C班とともにブロック1に所属しており、この3チームで順位を競うことになっている。といっても、まあ、負けても罰ゲームがあるわけでもないため、俺としてはあくまで勝てればラッキー、くらいの感覚ではあるのだが。


 また、対戦相手のメンツは、


B班:新島翔、仁科唯、相川瀬奈、岬京香


C班:RBI


 となっており、完全に知り合いだらけなので特にコレといった緊張感もない。


 それよりも驚いたのは、各班に一台ずつGPS機能付きのスマホが渡されたってことだ。なんでも、このスマホを使えば対戦相手の位置情報が互いに分かるらしい。松岡曰く、作戦に役立てろ、とのことだが、天明高校の資金力には本当に脱帽である。


「あれ? おかしいわね。C班に動きが無い……」


 参謀役の咲が足をとめ、スマホを片手に首を傾げる。ちなみにスタンプ押す用のカードとスマホは班を代表して咲に持ってもらうことにした。理由は至極単純で、彼女がA班で一番しっかりしているからである。俺とリンさんはアホの子だし、何気に先生もたまーにドジやらかすからな。


「動きが無い? 咲、そりゃどういうことだ?」


「いや、さっきからスマホでちょくちょく他の班の動きを確認してるんだけど、C班の位置だけホテルから全然動かないのよ」


「サボってホテルに残ってるだけじゃないアルか?」


「いや、C班の連中がサボるってことは無いと思うよ。多分」


 C班はRBI3人組だ。1年間の付き合いでヤツらの性格は大体把握している。他人を貶めるのが大好きなアイツらが、このイベントに参加しないワケがない。今回も俺らの足を引っ張るに違いない。


「私も田島の意見に同意だな……教師の目から見ても、アイツらはこういうイベントで悪さをする気がしてならない」


 奈々ちゃん先生も結構辛辣だな。つーかアイツら、ホント誰からも信用されてないのな。


「よし。じゃあ、念のためC班に警戒しつつ先に進もうか。アイツら、ホント何するか分かんないから」


「OKアル」


「そうね。何か昨日も問題起こしてたみたいだし……」


「はあ、まったく……アイツらには教師側の気持ちも少しは考えてほしいものだ……」


 こうして俺たちは、あのバカどもの動きに最大限の注意を払いつつ、一つ目のスタンプ設置スポットへ向かった。



「やあやあA班の皆様方!」


「俺たちC班が!」


「君たちに協力してあげようじゃないかッ!!」


 第一スポット・二条城の入口に到着。突然、というよりは予想通り、と言った方がいいだろうか。とにもかくにも、胡散臭い連中が俺たちの前に現れた。


「……咲? 今、C班の位置情報どうなってる?」


「え、えっと、ホテルから全く動いてないけど……どうして動いてないんだろう……」


「はっはっは、市村さん。その疑問には私、C班リーダーの脇谷から答えさせていただきやす!!」


「声でけぇよ」


「うるさいネ」


「お前、不正行為で位置情報の改竄とかしてたら後で私から説教な」


「みんな俺たちに辛辣過ぎやしませんかね!?」


 そりゃホテルからGPSの位置が動いてないのに、今俺らの前に居る時点で怪しいからな。


「田島よ。言っておくが、俺たちは不正行為なんてやってないからな。支給されたスマホをホテルのコインロッカーに入れてきただけだからな」


「……は? じゃあ、なに? お前ら、今スマホ持ってないの?」


「別に『支給されたスマホを常備しなければならない』ってルールは無いから、ルール違反にはならないしな。自分らの位置がバレるくらいなら、ホテルに置いてきた方がマシだろ」


「……お前ら、ホントどうでもいいところでは頭回るのな」


 自分たちの位置情報を知られれば、他チームから妨害を受ける可能性もゼロではない。要するにコイツらはスマホをホテルに置きっぱなしにして出発することにより、位置バレするリスクを排除したのだろう。よくもまあ、そこまで考えてルールの穴をついたものだ。


「でも……だったら、脇谷くんたちはどうして二条城に先回りできたの? スマホが無かったら、そもそも私たちがここに来ること自体分からないはずでしょ?」


「あ、確かに。咲の言う通りだわ。スマホが無かったら、コイツらも俺たちの位置が分からないはずだからな」


「あー、俺らがA班の位置分かったのは今朝、対戦表が配られた後に、俺が田島の部屋に忍び込んで制服に発信機をつけておいたからだぞ。お手製発信機だ。田島の制服の内ポケットに入ってるぞ」


「何してくれてんだテメェ!?」


 ポケットから小型発信機を取り出し、地面に投げつける。怖い。もう俺はただひたすらにコイツらが怖い。たかが修学旅行のイベントのためだけにどうしてお前らは発信機まで作ってしまうんだ。


「田島……お前、ホント大変なんだな……」


「いや、ホントっすよ先生……勘弁してほしいっす……」


「でも、どうしてオマエたちはそこまでしてワタシたちのところに来たアルか? あと、その発信機に爆破機能付けることってできるアルか?」


「え、なにその物騒な質問。いや、まあ確かにコイツらの目的は気になるけどさ」


 もしやリンさんは爆破機能付き発信機でも作るつもりなのだろうか。相変わらずこの子の考えることは理解できない。


「ふっふっふ。そこのおかっぱの麗しい留学生さん! あなたの質問にはC班リーダーの私、吉原から答えさせていただきましょう!!」


「またうるさいのが来たアル」


「つーかリーダー2人目じゃねぇか」


「まあまあ、落ち着きなされ。俺らの目的ってのは、単純に、純粋に、曇りない気持ちで君たちと協力したいってことだけさ! あと、発信機に爆破機能付けるのは可能です」


 お前らの技術力どうなってんだよ。


「俺らと協力したい……ね。にわかには信じがたい話だな」


「うーん、でも私は良いと思うよ? 仮にB班に負けることになったとしても、私たちとC班が一緒に行動して同着でゴールすれば、単独最下位は避けられるし」


「おお、さすがは聡明才女の市村さん! 私C班リーダーの西川、感激しております!!」


「結局誰がリーダーなんだよ」


 しかし、まあ咲の言うことも一理あるか。C班が俺らの目の届かないところで行動するよりは、監視しながら一緒に行動する方がまだ安心できる。コイツら、マジで何やるか分かんないからな。


「あ、先生はどう思います? 協力した方がいいっすかね?」


「私か? 私は別にどっちでもいいぞ。これは生徒たちのイベントだ。君らの好きなようにやればいい」


 なるほど。自由にやれってことか。


「よし、分かった。お前らと協力……というよりは、普通に一緒に行動するとしよう。俺としても、お前らを野放しにしておく方がなんか怖いから」











 ──その選択が後に波乱を呼ぶことを、この時の俺はまだ知らない。

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