第92話 これまでとこれから
-side 田島亮-
本日は夏休み最終日。おそらく全国の学生たちのテンションがドン底まで下がっている日である。
きっと今頃は多くの学生が『チクショウ! なんで俺は今まで遊んでばかりだったんだ!』と、自分の計画性の無さを呪いつつ、夏休み中に溜めまくった膨大な量の宿題を消化していることだろう。
また、計画性を持って宿題を終えた者たちも『はぁ...また明日から学校か...』なんてことを思いながら憂鬱な1日を過ごしているに違いない。
...そう。どうあがいても今日という日はテンションを下げずにはいられないのだ。
「うわ...もう23時かよ...」
プレステのコントローラーを操作する手を止め、部屋の壁に掛けている時計に何気なく目をやると思っていたよりも時間が過ぎていることに気づく。
...つーか普通に1日が終わってた。
いや、マジで長期休みの最終日の短さって異常じゃね? 今日とか体感5時間くらいだったぞ。絶対今日だけ24時間より短いだろ。アレだな。多分今日だけ地球が倍速で自転してたりするんだろうな。
「はぁ...そろそろ寝るか...」
まだまだモンスターをハンティングしたいところだが、明日から学校だ。さすがに初日から寝坊して遅刻するわけにはいかないし、そろそろ寝た方が良いだろう。
----------------------
「なぜだ...なぜ眠れない...」
ベッドに入ってから約1時間程経過。別に明日が楽しみというわけでもないのに、なぜか目が冴えまくってて全然眠れない。
「あ、そういや...明日で事故に遭ってからちょうど1年になるのか...」
明日...いや、もう日付が変わってるかもしれないから今日の可能性もあるな。うむ、とりあえず事故に遭ってからジャスト1年だ。
そう、明日は9月1日。俺の人生が終わった日であり、俺の人生が始まった日でもある。ある意味では俺の誕生日と言っていい日なのかもしれない。
--まあ、だからといって何か特別な感情が湧くというわけでもないのだが。
なんか......『あっという間だった』とか『長いようで短かった』みたいな感情は湧いてくるんだけど、別に感慨深いものがあるわけではないんだよな。
まあ確かに明日でちょうど1年にはなるんだけど...でも俺の人生はこの先何年も何十年も続いていくわけで。
むしろこれから俺の人生がどうなるのかを色々考えたり、高校を卒業した時の自分がどうなっているのかをぼんやり想像してしまうっていうか...なんかそんな感じなんだよ。
まあまだ進路の方向性すら全然定まってないんですけどね...
うーん、マジで俺どうすればいいんだろ。勉強できるわけでもないし、何か得意なことがあるわけでもないし、やっぱ就職か?
うーん、でも特にやりたい仕事があるわけでもないんだよな。高卒で就職するっていうのもなんか抵抗あるし。
......あれ? 俺って高校を卒業した後どうすればいいんだ...?
「って何考えてんだよ俺。んなこと考えたら余計眠れなくなるだろ」
うむ、まだ1年以上先のことを今考えていても仕方ない。どうせ考えるならもっと別のことを考えよう。
【亮ちゃん! 私に恋を教えてくれてありがとう! 本当に大好きだったよ!!】
「...チクショウ。なんで今更ユズ姉のことを思い出してんだよ」
でもまあ...あの言葉には本当に色々考えさせられたな...
あの時のユズ姉の『ありがとう』は多分過去の自分に向けられたもので。『大好き』も昔の俺に対する感情なわけだけど。
--でもその言葉自体は今の俺に向けられたもので。
俺はその言葉に過去の自分の気持ちを想像しながら返答するのが正しいのか。
それとも今の自分の気持ちを正直に返答するのが正しいのか。
......どっちが正解なのか俺には分からなかったんだ。
まあ、あの時は一生懸命考えて俺なりの返事をユズ姉に伝えることができたし、最終的にユズ姉は結構スッキリした表情で北海道に帰ってくれたから、あの時の俺の返答はユズ姉が満足する内容のものだった...と思いたい。
「...ダメだ。全然眠れねぇ」
やべぇ。マジで考え事が止まらねぇ。チクショウ。バカのクセになんでこういう時だけは頭が回るんだよ。
「はぁ...明日から学校か...」
...天明高校にもユズ姉のような『記憶喪失以前の俺が大きく影響を与えた人物』が居たりするのだろうか。実は俺が忘れているだけで、俺が知らないうちに深く関わりを持っているような、そんな人が存在する可能性はあるのだろうか。
「ってさすがにこれは考え過ぎか...」
確かに天明高校には、仁科、咲、翔のように俺が記憶喪失喪失以前に深く関わっていた人物は居る。でもアイツらとは記憶喪失以前と同様の友人関係が今でも続いているからな。ユズ姉とは少し事情が違ってくるだろう。
「...ってそろそろ寝ないとマジでヤバイな」
いかんいかん。このままウダウダ考え事をしてたら夜が明けちまう。いくらなんでもさすがにそれはマズイ。
...よし、ベタだがここは羊を数えるとするか。
「羊が1匹、羊が2匹...」
...うん。このまま数えときゃそのうち寝られるだろうな。
......と思っていたのだが、数時間後、気づいた時には俺が数えた羊は5000匹になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます