第46話 駅伝部のエース達

-side 田島亮-


「田島、お前は放送担当クビだ。自分のクラスのテントに行っていいぞ」


「え...? 先生、それどういうことっすか...?」


 正門で友恵に飲み物を渡した後、放送席に戻ると突然柏木先生が現れ、いきなり衝撃的な宣告をされた。え? 俺放送担当クビ?


「どういうことも何も今言った通りだ。午後からは実行委員会のメンバーがローテーションを組んで放送することになった」


「なんでまたいきなりそんなことを」


「なあ田島。なぜ自分がクビになったのか心当たりは無いか?」


「そんなものあるわけ......ありますね」


 100m走の時の友恵への全力応援、それに加え障害物競争の時の吉原を冷やかすような実況。うん、心当たりしかない。


「今日はたくさんの来賓の方々が来られているんだ。またお前に午前みたいな放送をされると学校側が困る」


「なるほど。さすがにおふざけが過ぎたということですか」


「自覚はあったんだな...まあ私個人としてはお前の放送は面白いと思ったよ。特に妹への全力エールな。アレは笑わせてもらった」


「その話をするのはやめて下さい...」


 吉原の実況に関しては意図的だったけど友恵への応援は素だったんだよ。今冷静になって少し恥ずかしくなってるからその話掘り返すのは勘弁してください。


「まあそういうわけでお前の放送担当はここまでだ。早く自分のクラスのテントに行きなさい」


「了解です」


 やったぜ。『クビ』という言葉の響きは悪いけどさ、これってつまり体育祭終わるまで何もしないで良いってことだろ? 最高じゃん。


「あ、田島、1つ言い忘れてたことがある。お前放送担当が無くなった代わりに体育祭後のゴミ拾いを手伝ってもらうことになったから。閉会式が終わったら一度本部まで来てくれ」


「えぇ...マジすか...」


 さすがにそんなウマイ話は無かったか...


 まあ人間簡単に楽はできないってことだな。ゴミ拾いくらいなら別に良いか。


「わかりました。じゃあまた閉会式後に会いましょう」


「ああ、また閉会式後に会おう」


 そして俺は先生と別れ、自分のクラスである2年3組のテントへ向かった。



ーーーーーーーー-----------------


「お、シスコンの亮じゃん」


「あ、シスコンの田島だ」


「翔...仁科...お前らな...」


 2年3組のテントに入ると翔と仁科が駆け寄ってきて早速午前の実況についてイジられた。


「俺はシスコンじゃないぞ」


「いやいや亮さんよ、さすがにそれは無理があるぞ」


「あの放送聞いたら誰でもシスコンだと思うわよ。今さら否定しても無駄よ」


「はいはい分かった分かった。これ以上抗うのも面倒だからもうシスコンってことで良いわ」


「ていうか田島って放送係だよね? 放送席に居なくて大丈夫なの?」


「あー、俺放送担当クビになったんだよ。どうやら凡人には俺の放送の良さが理解できなかったらしい」


「いや、それ単純にアンタがふざけてたからでしょ...体育祭の役職クビになる人初めて見たわ...」


「俺は亮の放送好きだったけどな。特に吉原が出てた障害物競走の実況は傑作だった」


「そりゃどうも。つーか翔、確かお前次の種目の1000mの選手に選ばれてなかったか? そろそろ入場門行っとかないとヤバくね?」


「あ、完全に忘れてたわ。確かにそろそろ行かないとヤバイな」


「おいおい、しっかりしてくれよ」


「じゃあ俺行くわ。また後でな」


 翔はそう言うと入場門の方へと走っていった。


「ねえ田島、友恵ちゃんって本当にアンタの妹なの?」


 そして翔がその場を去ると仁科が突然友恵について俺に問いかけてきた。


「は? いきなり何だよ仁科」


「いや、友恵ちゃんって新入生代表で挨拶してたし相当頭いいんでしょ? 挨拶の内容もすごくしっかりしてたし...本当に田島の妹なの?」


「暗に俺がバカであることを揶揄してんじゃねーよ。友恵は正真正銘俺の妹だよ」


「え、じゃあもしかして複雑な家庭の事情があったり...」


「ねぇよ! ちゃんと血繋がってるわ! どんだけ疑ってんだよ!」


「でも兄妹でそこまで似てないのも珍しいわね」


「いや、意外と兄妹って似ないもんだぞ。俺たち兄妹が似てないのは多分友恵が俺を反面教師にしたからだろうな。その結果友恵は勉学に励み、俺とは比べ物にならない学力を手に入れたというわけだ。ってあれ? もしかして友恵の頭が良いのって俺のおかげなんじゃね?」


「田島...ナチュラルに自虐するのやめなさいよ...」


「そんなことよりそろそろ1000m走が始まるぞ。翔の応援をしようじゃないか」


「うーん、別に応援しなくても新島なら余裕で1位だと思うけどね」


「...え? 翔ってそんなに速いの?」


「あいつ今駅伝部のエースよ。全国的に見ても相当速い部類に入ると思う」


「マジで!?」


 えぇ...俺の親友ってそんなに凄いヤツだったのかよ...全然知らなかったわ...


 俺がそうして驚いていると1000m走に出場する選手がスタートラインに並び始めた。


 ちなみに1000m走は赤組、青組、白組それぞれの組から代表選手が2人ずつ選ばれ、計6人で200mトラックを5周する競技である。また、この競技は勝った時に入るポイントが大きいので体育祭の中でも重要な競技の部類に入る。


 そして選手達が並び終わると審判が開始の合図をする構えに入った。


「位置について! よーい...ドン!」


 その掛け声と同時についに1000m走が始まった。翔は最初から飛ばしまくり、早くも後続との差を広げ始めている。


「なあ仁科、翔のやつ最初から飛ばしすぎじゃないか? アレ最後まで体力もつのか?」


「いや、あれくらい普通よ。多分最後らへんはもっとペース上がるわよ」


「マジかよ...あいつ化け物だな...」

 

「言っとくけど田島も駅伝部辞める前は新島と同じかそれ以上に速かったんだからね? アンタも十分化け物だったのよ?」


「え、マジで?」


 なにその話初耳なんですけど。へえ、俺って割と凄かったんだな。


「でもまあそれは過去の栄光ってやつだな。今の俺は平凡な高校生だ。化け物なんかじゃねえよ」


「ふふ、平凡じゃなくて変人の間違いじゃない?」


「うるせえやい」


「でもその考えはなんか田島らしいね」


「どういうことだ?」


「いや、過去は気にせず今のことを考えてる感じがなんか田島らしいなって思ったのよ」


「そうですかい」


 まあ過去は気にせず、というよりは気にするような過去を無くしただけな気もするけどな。ありもしない過去の事を考えるよりは今この瞬間のことを考えた方がマシだと思っているだけだ。


「...うん、私田島のそういうところ好きだよ」


「え!? あ、そ、そりゃどうも...」


 あのー、仁科さん? 思春期の男子ってほんの些細なきっかけで勘違いしちゃうんですよ? だからいきなりそんな事言っちゃダメですよ?


「あ、多分新島次でラスト1周だよ」


「マジかよ。アイツ速すぎだろ」


 仁科と話しているうちに翔が早くもゴール直前まで来たようだ。オイ、まだ2分くらいしか経ってないぞ? 翔速すぎじゃね?


 ラスト1周に入ると翔はさらにギアを上げ、短距離走並みのペースで走り始めた。駅伝部エース様の本気のパフォーマンスを見た観客達は大歓声を上げている。会場のボルテージは最高潮だ。


「ふふ、多分新島のやつ会場を盛り上げるために体力温存してたわね。アイツらしいわ」


「いや、翔ってマジで化け物だな。ほんとスゴイわ」


 そして翔はそんな大歓声の中、あっという間にラスト1周を走り終えてぶっちぎりの1位でゴールした。


「やっぱり新島が勝ったわね。じゃあ私次の種目の800m走に出ることになってるからそろそろ行くね」


「そういやお前800mの代表に選ばれてたんだったな」


「そうよ。ちゃんと私を応援してよね?」


「当たり前だ。応援は任せとけ」


「うん! じゃあ私頑張ってくるね!」


「おう! 行ってこい!」


 そして仁科は俺とハイタッチを交わして入場門へ向かい始めた。


 ...ってオイ、なんで仁科のやつスキップしながら入場門に向かってるんだ? 機嫌良すぎじゃね?


 なぜか仁科は俺に背を向けた後ずっとスキップしながら移動している。いや、マジでお前いきなりどうしたんだよ。

 

 いつも思うことだが、仁科の感情の起伏は全然読めない。アイツはちょっとしたことで喜んだり、俺が怒らせることをしたつもりが無い時に怒ったりする。本当にせわしない女の子だ。


 でも俺はそんな仁科と一緒に居る時間をとても楽しいと思う。だってあんなに感情が表に出るやつってそうそういねえもん。見てるだけで楽しい。

 

 でも今年になってなんとなく前より仁科との距離感が近くなった気がするんだよな...なんか去年より話しかけられる機会が増えた気がするというかなんというか...


 いや、別にそれが嫌というわけじゃ無いんだけどさ、アイツ普通に顔かわいいから距離を詰めら過ぎると少しドキッとしちゃうんだよ。ホント心臓に悪い。


 まあ今は色々考えるよりも仁科の応援に集中するとしますか。アイツから直接応援頼まれたことだしな。全力で応援させていただこう。


 そう思って近くにあるカゴの中から応援メガホンを取りだそうとした時だった。


「おっす亮。どうよ、俺のさっきの1000m走。凄かっただろ? なあ、凄かっただろぉ?」


 1000m走を終えた翔が突然横から現れ、俺に声をかけてきた。


「はいはい凄かった凄かった。話は後で聞いてやるからとりあえず今は仁科の応援に備えようぜ。もうすぐ800m走始まるし」


「あ、そういや仁科出るんだったな。まあアイツなら余裕で1位だろうけど」


 ...ん? なんか1000m走始まる前も似たようなセリフを聞いたような...


「な、なあ翔。もしかして仁科って超速かったりするのか...?」


 練習してる姿は何度も見たことあるが、ガチで順位を競っている姿は見たことないから俺は仁科の実力を正確に把握しているわけではない。もしかして仁科って俺が知らないだけで実はとんでもないやつだったりするのか...?


「ああ、仁科は去年の陸上全国大会に出場して女子1500m1年生の部でチャンピオンになったぞ。まあ去年の夏のことだからお前が覚えてないのも無理はないが」


「な、なるほどそういうこと...」





 ...ってなんだよそれ! 俺の周りのヤツら化け物ばっかじゃねえか! お前らホントなんなんだよ!! 

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