第45話 仲良し田島兄妹

-side 田島亮-


 アリス先輩と別れた俺は自販機で飲み物を買い、友恵に届けるために1年1組のテントへ向かおうとした。


 すると友恵から突然『クラスの皆に兄貴と居るところを見られたくないから正門まで来て』というメッセージが来た。


 というわけで俺は仕方なく妹の指示に従い、今は正門に向かっている。


 つーか友恵さんよ、そんなに俺と居るところ見られたくないのか? そりゃ俺はロクでもない兄貴かもしんないけどさ? そこまでしなくても良くない?


 まあ俺は寛大な兄だ。それくらいのワガママなら受け入れてやる。感謝しろよ我が妹。


 そして裏門から2分ほど歩くと正門が見えてきた。そこには友恵の姿も見える。どうやら先に着いていたみたいだ。


 そして友恵の姿を確認した俺は校門の前に立っている友恵の方へ駆け寄った。





-side 田島友恵-


 兄貴は思っていたより遅れて正門にやってきた。何か別の用事があったのだろうか。


「兄貴遅い」


「おい妹、頼み事した相手にその態度は無いだろう」


「早く飲み物ちょうだい」


「少しは俺に感謝したらどうなんだよ...ほれ受け取れ」


「どうも」


「そういやなんでお前こんな所に呼び出したんだよ。別に一瞬お前のクラスの子に見られるくらい良いだろ」


「良くないに決まってるでしょ! 100m走の時に自分がどんな放送流したか覚えてないの!?」


「ああ、すまん。ついお前を全力で応援してしまったんだよ」


「いや、マジありえないから! 私あの後すごく恥ずかしい思いをしたんだからね!」


 本当に人生で1番と言っていいほど恥ずかしい思いをした。クラスの女子には『ふふ、妹思いの良いお兄さんだね』とか言われたり、クラスの男子には『はは、お前の兄貴シスコン過ぎだろ。めっちゃウケるわ』とか言われたり。本当に生き地獄だったわ。


「このシスコン兄貴! ほんとありえないから!」


「黙れこのブラコン妹! 俺はシスコンなんかじゃねえ!」


「はあ!? な、なんで私がブラコンってことになるのよ! 絶対違うし!」


「いーや、お前はブラコンだね。お前は『俺と居るところをクラスメイトに見られたくない』って言ってたけどさ、だったら自分で飲み物買いに行けば済む話だろ? わざわざ俺に買わせる理由が無い。俺に会いたかったとしか思えないんだが?」


「ち、違うし! 変な放送を流した兄貴に罰を与えたかっただけよ!」


「罰? お前俺のことシスコンって言ったよな? もしお前がそう考えてるなら『兄である田島亮を妹である田島友恵に会わせないこと』が一番の罰になると思うんだが? うむ、やはりお前は罰という表面上の理由をつけて俺に会いたかったとしか思えない」


 兄貴ってバカのくせになんでこう言う時は口が立つのよ...ほんとウザい...


 兄貴はバカだけどなぜか口論には異様に強い。だからこのまま兄貴のペースで会話したらダメだ。こういう時は私のペースに引きずり込めばいい。


「分かったよ兄貴。ジュース買わせたのが罰になってなかったのなら改めて罰を与えるよ」


「...え?」


「罰として兄貴は今後一切私と会話しないこと。それでいい?」


「すいませんでした私が悪かったです許してください友恵様」


 ほら簡単。兄貴は私のこと大好きだからこの一言だけですぐに謝ってくる。だから私兄弟喧嘩では一回も負けたことないの。


「まあ友恵がブラコンなわけないよな...こんな兄貴のどこを好きになるんだって話だよな...俺のことなんか嫌いだよな...」


「ち、ちょっと待ってよ。私そこまで言ってないじゃない」


 なんでいきなりしおらしくなってんのよ。やりにくいからやめてよね。


「じゃあ友恵は俺のこと嫌ってないのか...?」


「き、嫌ってはないわよ」


「じゃあ友恵は俺のこと好きか...?」


「...」


 ちょっと待って。もしかしてこれ好きって言わないと会話終わらない流れ? 


「黙ってるってことは俺のこと好きじゃないってことか...?」


 うわ、めんどさい兄貴だな...でもこのまま会話が続くのもめんどくさいな...


 会話をさっさと終わらせたくなった私は覚悟を決めて兄貴が求めている言葉を伝えることにした。


「...す、好きよ」


「ごめん、よく聞こえなかった...」


「あー! もう! 私は兄貴のことが好き! これでいいでしょ!」


「はい! 言質とりましたー! 友恵はブラコン決定ー!」


 なんと兄貴は私の言葉を聞いた瞬間突然元気になった。


「ちょっと! もしかして今までの全部演技だったの!?」


「はっはっは! 騙されたな我が妹よ!」


「マジありえない! 死ね! 3回死ね!」


「顔真っ赤っかの妹に何言われても全然効きませーん!」


「あー! マジでウザい! ほんとありえない! 私もうテントに戻る!」


 そして恥ずかし過ぎてその場に居られなくなった私は全力疾走で自分のクラスのテントの方へ向かった。



 あー、もう! 兄貴って本当ウザいわね! 兄貴のことが好きだなんて言わなきゃ良かったわ!




 ...私は絶対ブラコンなんかじゃないんだからね!

 

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