第38話 変わっていく心と変わらない友情
-side 仁科唯-
お化け屋敷を後にした私たちはとりあえず田島が行きたいと言ったアトラクションを回ることにした。
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〜コーヒーカップにて〜
「フハハハハ! 全力回転じゃオラァ!」
「おい翔! いくらなんでもハンドル回しすぎだ! 回転速度おかしいって!」
「私もどんどん回すわよー!」
「おい! 仁科まで加勢するなよ! ちょっと待って、速い速い速い速い!」
〜迷路にて〜
「おい...翔がテキトーに進むから迷ってしまったじゃないか...」
「まあ長い人生、時には迷うことも必要だろ」
「名言みたいに言うのやめなさいよ。今は迷っちゃいけない時でしょ」
「まあこれ以上迷うことも無いさ。また今までみたいにテキトーに進めばそのうちゴールできるだろ」
「まだまだ脱出までの道のりは長そうね...」
〜空中ブランコにて〜
「うわぁぁぁ! なんか思ってたより高いんだけど! やっぱ乗らなきゃ良かったぁぁぁ!」
「あはははは! 田島がジェットコースターの時と同じ声出してる!」
「亮...お前ホント面白いな」
「うわぁぁぁぁぁ!」
〜ゴーカートにて〜
「私運転するの怖いから田島と一緒に二人乗りのカートに乗りたいんだけど...」
「ああ、別にいいぞ」
「きゃー! 仁科ちゃん大胆!」
「うるさい新島!」
「翔...ふざけた事言ってないでお前もさっさとカートに乗れよ...」
「ああ、すまんすまん...よし、搭乗完了! というわけでスタートじゃあ!」
「あ! お前フライングはずるいぞ! 待ちやがれ!」
「追うわよ田島! あんなヤツさっさと追い抜いちゃお!」
「おう! 任せとけ! よーし、アクセル全開だ!」
「田島ファイトー!」
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一通りアトラクションを楽しんだ田島は相当疲れたみたいだ。というわけで私たちは昼食をとった時に座っていたベンチで休憩することになった。
「いやー、楽しかったな!」
「うん! 超楽しかったわ!」
「確かに楽しかったけどめっちゃ疲れたわ...やっぱ部活生のお前らとは体力の差が大き過ぎるな...」
「はは、亮ヘトヘトじゃないか」
「うふふ、でもちゃんと楽しんでくれたみたいね。良かったわ」
「まあ楽しかったのは本当だよ。でも時間的に考えて今日行けるアトラクションはあと一つだな」
「うわ! もう18時かよ! 時間経つの早いな!」
「まあ今日は日曜だし列に並んでる時間も長かったからね...」
「翔よ、楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものさ」
「ま、まあ確かにそうだな...じゃあ最後どこ行くよ」
「あー、すまん、最後のアトラクションに行く前にトイレ行ってきてもいいか?」
「ああ、別にいいぞ。さっさと行ってこい」
「ここで待ってるからね」
「すまんな。じゃあ行ってくるわ」
田島はそう言うと歩いてトイレがある方へと向かっていった。
「良かったな仁科。前みたいに亮と普通に話せるようになってるじゃないか」
田島がその場を離れるとすぐに新島が話しかけてきた。
「確かに前みたいにアイツと話せるようになったし、それはいいことだと思うわ。でもそれと同時になんだか自分の気持ちが今どうなってるのか分からくなってきたの」
確かに田島と前みたいに話せるようになったのは嬉しい。でもそう思う一方で私には田島を好きだという感情以外にもう一つ別の感情が芽生え始めていた。
「どういうことだ? もしかして亮に対する好意が勘違いだったとでも言うのか?」
「いや、そういうわけじゃないわ。私は田島のことが好きよ」
「じゃあさっきの発言はどういう意味だよ」
「さっきも言ったけど私が田島のことが好きっていうのは本当よ。でもね、それと同じくらい三人で過ごす時間も好きだってことに今日気づいたのよ」
「なるほどな...まあお前がそう思うのも分からなくはない。俺も三人でいる時は楽しいし」
「ねえ、新島。私どうすればいいのかな? 私は今田島の彼女になりたいと思ってるけど、このまま三人で友達として仲良く過ごす時間も大事にしたいとも思ってるの。これっておかしいことなのかな?」
そう、今私は自分の心の中で矛盾が生じている。田島の恋人になりたいと思う自分と、田島と新島の友達でありたいと思う自分が同時に存在しているのだ。
「それがおかしいことなのかどうかなんて俺には分からん! そんなの自分で考えろ!」
「少しは考えてくれてもいいじゃない!」
えぇ...この前は親身に相談に乗ってくれたから何かアドバイスくれると思ってたのに...
「その問題の答えは仁科が自分で考えて悩み抜いた末に出すべきだと思うぞ。俺がそのことについてとやかく言う資格は無い」
「そ、それはそうかもしれないけど...」
「まあ一つ言えることがあるとするなら仁科が亮と付き合えるように頑張るのも、こうして三人で楽しく遊ぶのも今しか出来ないってことだ」
「...」
「まだ先の話ではあるけど俺たちはいずれ高校を卒業する。そして卒業したら俺たちはそれぞれが選んだ道へと進み、中々会えなくなってしまうだろう。そう考えると今こうして亮やお前と近い距離にいられる時間って結構貴重だな、とか思ったりするんだよ」
やっぱり新島は普段ふざけていても根は真面目な奴だ。私なんかよりよっぽど今過ごしている高校生活について深く考えている。
「まあ色々話したけどさ、結局仁科がやりたいようにやるのが一番だと思うよ。答えが出ないことをいくら考えたって仕方ないだろ」
「まあアンタの言う通りかもね...なんかアンタと話したらスッキリしたわ。ありがとね」
「お役に立てて何よりです」
新島と話せたおかげで私は自分の気持ちをある程度整理することができた。
私はいつか田島に告白する。好意をさりげなくアピールして向こうから告白させるなんて器用なこと私には出来ないもの。こっちからアタックするしかないわ。
でも今はまだその時じゃない。だって多分田島はまだ私のことを恋愛対象として見てくれていないもの。私はバカかもしれないけど、さすがに成功する確率の低い告白をするほどバカじゃないわ。
だからアイツが私のことを恋愛対象として見てくれるようになるまでは今までみたいに友達として三人で楽しく過ごしてもいいんじゃないかしら。あ、もちろん友達としてじゃなく女の子として意識してもらうためのアピールも怠らないけどね。
まあとにかく今は最後のアトラクションを三人で楽しむことだけを考えるとしますか。先のことなんてどうなるか分からないし今考えても仕方ないわよね。
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「すまん、待たせたな。トイレが思ってたより混んでて遅くなった」
新島との会話が終わって5分ほど経つと田島がトイレから戻ってきた。
「まあ混んでたなら仕方ないだろ。じゃあ三人揃ったことだし最後のアトラクションに行くか」
「そうだな。で、どこ行きたい?」
「ふっ、亮よ。まだ遊園地定番のアレに乗ってないじゃないか。アレに乗るしかないだろ」
「そうね。アレに乗らずに帰るなんてありえないわね」
「お前らに一々聞くまでもなかったか。やっぱ最後に乗るのはアレしかないよな」
「亮も分かっていたか。まあ一応俺らがちゃんと共通の認識をできているか確かめるとしようじゃないか」
「そうだな。では今から答え合わせをするとしよう。俺が『せーの』と言った後に続いて全員で答えてくれ」
「ふふ、ただ次に行く場所を決めるためだけにここまでするのってなんか馬鹿馬鹿しいわね。でも私こういうの嫌いじゃないわ」
「では問おう。俺らが次に行きたい場所はどこだ?......せーの!」
「「「観覧車!!!」」」
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-side 田島亮-
俺たちは全会一致で決定された最後のアトラクションである観覧車に先ほど乗り込んだ。外もいい感じで暗くなっているし上の方では夜景が見れそうなので実は結構ワクワクしている。
ちなみに今回もなぜか翔のゴリ押しによって俺と仁科が隣り合って座ることになった。
「なあ、この観覧車結構デカくて上の方に行くまで割と時間あるから何か話さないか?」
観覧車が動き始めるのと同時に翔からそう提案された。
「話すのは別に構わないが何について話すんだ?」
「うーん、そうだな...よし、じゃあ田島亮の女性関係について話すとしようか」
「なんでそうなるんだ!?」
「いや、なんかお前が事故に遭って以来女の子と関わる機会が増えたという情報を耳にしてな」
「は? どこ情報だよそれ」
「黙秘権を行使する」
「まあ別に言わなくてもいいけどさ...」
まあどうせアリス先輩からの情報だろ。あの人謎の情報網持ってるしな。なんで翔とアリス先輩が繋がってるのかは未だによく分からんけど。
「では早速質問させてもらおう」
「まあ答えれることには答えてやるよ」
「それでは亮くんに質問です。あなたには今好きな女の子がいますか?」
「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
「仁科大丈夫か!? 急に咳き込んだりしてどうしたんだ!?」
「わ、私は大丈夫だから...と、とりあえず田島は新島の質問に答えてあげて...」
「お、おう...」
お前本当に大丈夫なのかよ...
「で、お前今好きな子とかいないの?」
「どうなんだろうな。自分でもよく分からん」
「は? どういう意味だ?」
「俺に良くしてくれてる女の子は何人かいるし俺はその女の子たちのことを大切に思っている。でもまだ俺の記憶の中ではその子たちと過ごした時間がそんなに長くないんだよ。だから自分が今誰かに恋愛感情を抱いているのかどうかなんてよく分からない」
「...この女たらしめ!」
「なんでそうなるんだよ...」
「まあ思ってたより真剣に質問に答えてくれたみたいだからこれ以上は何も聞かないでいてやる」
「お、おう...」
しっかし翔のやつなんでこんな事聞いてきたんだよ...俺こいつとこんな話したことないぞ...
「ねえ、田島」
翔との会話がひと段落つくと今度は隣にいる仁科が俺に話しかけてきた。
「なんだ?」
「え、えーっと、その...今田島が話してた女の子たちの中に私は含まれてる?」
「...へ!? お前いきなり何言ってんの!?」
えぇ...田島亮の女性関係についての話ってさっき終わったんじゃないの...? つーかこれさっきの翔の質問と比にならないくらい答えづらいんだけど...
「ご、ごめん! やっぱなんでもない! 急に変なこと言ってごめんね!」
仁科はそう言うと、どこか悲しげな表情を浮かべて俺の顔から目を逸らした。
この時なぜ仁科が暗い表情を浮かべたのか俺には分からなかった。
でもこの時俺は仁科にこんな顔はさせたくないと思った。だって仁科に一番似合うのは明るく笑ってる時の顔なのだから。
そう思った俺は無意識のうちに口を開いていた。
「...お前も含まれてるよ」
「...へ? 田島今なんか言った?」
「だーかーら! お前も俺が大切に思う女の子のうちに含まれてるって言ったんだよ! 恥ずかしいから二回も言わせんな!」
「へ、へぇ...そ、そうなんだ...えへへ」
「お、お前なにニヤニヤしてるんだよ!」
「いや、田島が顔真っ赤にしてるからそれがおかしくて」
「なっ! こ、こんなこと直接お前に言うのなんて恥ずかしいに決まってんだろ!」
「うふふ、じゃあなんでそんなこと言ったのよ」
「い、いや、それは、その...」
「亮...お前やる時はやる男なんだな...」
「どういう意味だよそれ!」
「まあそんなことはさておき、そろそろ最高到達点だ。夜景でも見ようじゃないか」
「もうそんなに上まで来てたのか...」
そして俺は翔に言われた通り夜景を見ることにした。
「おお...思ってたより綺麗じゃねぇか...」
観覧車からは都会のビルから出ている光が数多く見えた。一つ一つは小さな光だが、それがたくさん集まるとこんなに綺麗に見えるものなのか。なんか思っていたより感動した。
「ほんと綺麗ね...」
仁科がポツリと呟いたので俺はなんとなく彼女の方を見てみた。
仁科の横顔をよく見ると少し頰が紅潮しているように見える。夜景を見て興奮しているのだろうか。
「うふふ...」
すると仁科が突然窓の外に目を向けたまま微笑んだ。
...なぜだろう。仁科が笑った顔なんて何回も見たことあるはずだ。なのに今の仁科の笑顔はなんだか普段見せている笑顔と違うような印象を受ける。
その後、結局俺は仁科の横顔から目が離せなくなって夜景を眺めることができなかった。
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「ねえ田島」
「今度は何だよ」
高度が低くなり、もう少しで一周しそうだなと思っていると仁科が突然小声で話しかけてきた。
「今日私の私服を見て何も感じなかった?」
「あ、いや、それは...」
しまった。友恵から『女の子が普段と違う格好をしていたらとにかく褒めるべし!』って言われてるんだった。岬さんの私服と咲の着物は褒めることが出来たのに今日は遊園地に夢中になり過ぎて仁科の私服を褒めるのを完全に忘れてた。
あと別に仁科の私服について何も感じなかったわけでもない。白のワンピースというシンプルな服装ではあるが、とても似合っている。
...それと私服だとより一層胸の膨らみが強調されて目のやり場に困る。
「新島は似合ってるって言ってくれたけど田島はこの服装どう思う?」
「...ま、まあ似合ってるんじゃないか?」
「ちょっと、なんで目を逸らすのよ」
チクショウ、夜景見る前にコイツに変なこと言ったせいでなんか気恥ずかしい。素直に褒められねえ。
「まあ褒めてくれたから良しとします」
「そ、そりゃどうも...」
「おい、そこのイチャついてる二人。そろそろ下に着くから降りる準備しろ」
「別にイチャついてるわけじゃないがその忠告には感謝する」
はぁ...やっと終わりか...観覧車乗っただけなのになんかドッと疲れたな...
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-side 仁科唯-
「なあ、三人で写真撮らないか?」
観覧車から降りると新島が私たちにそう提案してきた。
「いいわね。じゃあその辺にいる誰かに写真を撮ってもらうようにお願いしに行きましょうか」
「フハハ、仁科よ。その必要はない。これを見よ!」
新島はそう言うとバッグの中からセルカ棒を取り出した。
「翔...お前そんなもん持ってたのか...なんか意外だな...」
「はっはっは、今日のために買ったのだ」
新島...アンタなんだかんだで今日の外出めちゃくちゃ楽しみにしてたのね...
「じゃあ観覧車をバックにして撮るぞ! ほら、お前ら! 早く俺の横に並べ!」
「はいはい、分かりましたよ」
「うふふ、新島張り切りすぎ」
そして私と田島はセルカ棒を持っている新島の横に並んだ。
「よし! この位置ならちゃんといい感じで観覧車が写りそうだ!」
「そりゃ良かった。じゃあ早速撮ってくれ」
「よし、じゃあ撮るぞー! ちゃんとニッコリ笑えよー! ハイ、チーズ!」
「どうだ、翔? ちゃんと撮れたか?」
「ああ、良い写真が撮れたぞ。早速お前らの携帯にも送ったから見てみろよ」
どんな写真なのか気になった私はすぐにポケットから自分の携帯を取り出して写真を確認してみた。
「ふふ、確かにこれは良い写真ね」
携帯画面を見てみると、そこには観覧車の前で最高の笑顔を浮かべた私たち三人が写っていた。本当に良い写真だと思う。
新島が言った通りこんなに楽しい時間を過ごせるのは今だけかもしれない。でも私たち三人が一緒にいたという事実はこうして写真という形でちゃんと刻まれる。
きっと私は何年経ってもこの写真を見返して今日という日を思い出すだろう。三人で楽しく過ごした今日という日を。
言うならばこの写真は私たちが過ごした青春の日々を示す証のようなものだ。時が流れて私たちが離れ離れになったとしてもこの写真を通して心は繋がっていられるはずよ。
ーうん、きっと私たち三人の絆は永遠に変わらない。
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