記憶喪失から始まる青春 〜目が覚めたら幼馴染が腕に絡みついてきたんだが！？〜

第37話 恐怖と歓喜と高鳴る鼓動

-side 仁科唯-

　ジェットコースターを乗り終えた私たちは近くにあるベンチで昼食をとることにした。

　ちなみに今は田島がベンチの真ん中に座り、田島の左隣に私、右隣に新島がそれぞれ座っている。

　そして私の隣にいる田島はさっきからベンチでうなだれてグッタリしている。

「うぅ...死ぬかと思った...」

「うふふ、やっぱり絶叫系は苦手だったのね」

「少しは心配したらどうなんだ...つーか今『やっぱり』って言ったか...？　もしかして俺が知らないだけで以前にも似たようなことがあったのか...？」

「さ、さあどうでしょうね」

「まあお前らは楽しめたみたいだし別にいいんだけどさ...」

　...コイツなんで自分が覚えてないことに勘づいてるのよ。なんでこういう時に限って妙に鋭くなってるのよ。私の気持ちには全然気付かないくせに。

　でも田島の面白いリアクションを見たら前みたいに普通に話せるようになってきたかも。なんだか初心に帰れた気分。

「と、とりあえず昼食にしましょう！　田島はどうする？　気分悪いなら無理して食べなくてもいいけど...」

「そうだな...今ちょっと食欲無いかも...昼飯はいらねえかな...」

「亮よ。ちなみに今日の昼飯は仁科の手作り弁当なんだが、この情報を聞いてもお前は昼飯がいらないと言えるか？」

「...オレ、ヒルメシ、タベル。メッチャハラヘッテル」

「ちょっと新島！　無理矢理食べさせるのは可哀想でしょ！」

「いや、いいんだ仁科。俺が食べたいから食べると言っているんだ。早速お前の手作り弁当を食べさせてもらうとしよう」

「そ、そう？　ならいいんだけど...」

　田島が食べると言ってくれたので私はバッグの中から今朝作った弁当を自分の分も含めて3つ取り出し、新島と田島に手渡した。

「サンキュー、仁科」

「お、亮の分だけじゃなくて俺の分もちゃんと作ってくれたんだな。偉いぞ仁科」

「新島うるさい！」

「お、ちゃんと言い返してきたか。調子が戻ったみたいで何よりだ」

「...は？　お前ら何の話してるんだ？」

「た、田島には関係ない話だから！　ほら！　せっかく弁当配ったんだから早く食べようよ！」

「そうだな。せっかく仁科が作ってくれたんだ。早速いただくとしよう」

　田島はそう言うと弁当のフタを開け、早速卵焼きを１つ口に入れた。

　...どうしよう。味の感想が気になり過ぎて自分の弁当食べる気になれないんだけど。

「美味い！　なんだこの卵焼き！　今まで食ってきた卵焼きの中で一番美味いぞ！」

　弁当の出来が気になって隣をチラチラ見ていると田島が私の料理をベタ褒めしてくれた。

「本当に！？」

「ああ、本当だとも。仁科って足が速いだけじゃなくて料理も上手なんだな。やっぱお前はすごいやつだよ」

「そ、そうかな...えへへ」

「しかしここまで料理上手だと思わなかったわ。お前いい嫁さんになりそうだな」

「よ、嫁っ！？」

　予想外の発言に思わずドキッとしてしまった。この男はこっちの気も知らないで平気でこういう事を言ってくるから困る。

「どうしたんだ仁科？　顔赤いぞ？」

「あ、アンタがいきなり変なこと言うからでしょ！」

「はは、お前らホント仲良いな」

　私たちのやりとりを見た新島はそう言ってニヤニヤしながらこちらを見ている。

　ムカつく顔ね...この場に誘ってくれたことには感謝してるけどやっぱり新島に好意がバレてしまってるとちょっとやりにくいわ....

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　昼食を終えた私たちは3人で話し合った結果、お化け屋敷に向かうことになった。私たちは今列に並んでおり、もう少しで順番が回ってくるところだ。

　しかし、順番が近づいてくると同時になぜか新島の顔が青ざめていくように見える。こいつもしかして...

　そんな風に新島に対して疑念を持った時だった。

「あー！　さっきは見栄張ってお前らに賛同してお化け屋敷行こうとか言ったけどやっぱ無理！　俺こういうの苦手なんだよ！　2人で行ってきてれ！　俺は出口辺りで待ってるからさ！　じゃあそういうことで！」

「あ！　ちょっと待ちなさいよ新島！」

　新島は一言言い残すと走って私たちの元を離れてしまった。あいつ逃げやがったわね...

　...ていうかちょっと待って。新島がいなくなったということはさ、つまり私と田島が2人きりでお化け屋敷に入るってことよね？　ふむふむ、なるほど...

　っていきなり2人きりとか心の準備が出来てなーい！！　

　え、待って、ほんとにヤバいんだけど。急にドキドキしてきた...

「では次のお客様どうぞー！」

「おい仁科、急にボーッとしたりしてどうしたんだ？　次俺らの番だぞ？」

「あ、ご、ごめん。じゃあ中に入りましょうか...」

　そして私は心臓バクバクの状態でお化け屋敷に入った。

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「あのー、田島？　なんで私の服の裾を掴んでいるのか聞いてもいい？」

　お化け屋敷の中に入ると突然田島が私の服の裾を掴んできた。心臓に悪いからいきなりこんなことするのは本当にやめてほしい。

「う、うるせーよ。別に裾掴むくらいいいだろ」

「...アンタもしかしてお化け屋敷も苦手なの？」

「う、うるせーよ...」

　否定はしないのね...

「はぁ...ジェットコースターが苦手かどうかは乗ってみないと分からなかったかもしれないけどさ、お化け屋敷が苦手かどうかくらいは別に中に入らなくても分かることでしょ？　無理について来なくても良かったのに」

「いや、俺まで中に入らなかったら仁科が1人きりになってしまうじゃないか。お前ここに来る前めっちゃ目キラキラさせながら『お化け屋敷行きたい！』って言ってただろ？　だからせめてお前だけでも楽しめるようにと思ってついて来たんだよ。1人でお化け屋敷とか絶対つまらないだろ」

「田島...」

　私は田島のこういう優しいところが好きだ。いつも他人を思いやることが出来る温かい心を持っているコイツのことが好き。

　まあちょっと他人を優先しすぎな気もするんだけどね...

「しかし勢いでついて来たものの思っていたより怖い。というわけで裾を掴ませろ」

「うふふ、これ普通男女逆じゃないの？」

「うるせえやい」

「すみません、お客様ー！　後ろにも並んでいる方がいらっしゃるのでそろそろ前に進んでくださーい！」

　おっと、いけないいけない。長話し過ぎたわね。後ろの人に迷惑だし前に進むとしましょうか。

「じゃあ行くわよ田島」

「お、おう...」

　こうして私は横で小刻みに震えている田島を連れてお化け屋敷に挑むことになった。

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　田島と2人でお化け屋敷に居る間、私はずっとドキドキハラハラしていた。

　別にお化けや仕掛けが怖くてドキドキしていたわけではない。原因は別にある。

〜お化け屋敷にて〜

田島「うわあぁぁぁ！！！！」

（仕掛けに驚いて叫んでいる）

↓

田島、恐怖から反射的に私に抱きついてくる

↓

私「きゃあぁぁぁぁ！！！！！」

（田島に抱きつかれた歓喜で叫んでいる）

　これをお化け屋敷にいる間ずっと繰り返したのよ。そりゃドキドキするでしょ。もう出口にたどり着いたけどまだドキドキしてるわ。

「仁科！　さっきはほんとに悪かった！　いくら普段仲良くしてるとはいえ女の子に抱きつくとかマジありえねぇ！　本当に申し訳ない！」

　お化け屋敷から出た瞬間、田島がそう言いながら私に頭を下げてきた。

「田島、頭上げて。別にわざとやった訳じゃないんでしょ？　私は怒ってないから大丈夫だよ」

　邪な考えだけど抱きつかれてる時は正直超幸せだったし全く怒ってません。

「おぉ...許してくれるのか仁科...今はお前が女神に見えるぞ...」

　...やめて田島。そんな純粋な眼差しで私を見つめないで。さっきまで邪な考えを持ってた自分が恥ずかしくなるから。

「いやー、ほんと怖かったわ。ずっと心臓バクバクだった」

「そ、そうね。私も心臓バクバクだったわ」

　...まあアンタとは意味合いが違うんだけど。

「おー、お前らやっと出てきたかー！」

　私たちが出口付近で話しているとお化け屋敷から逃走した新島が合流してきた。

「あ、翔！　テメー途中で逃げやがって！　めっちゃ怖かったんだからな！」

「え？　お前お化け屋敷も苦手だったの？　そりゃ悪いことしたな。アッハッハ」

「お前全然悪いと思ってないだろ！　仁科も何か言ってやれ！」

　...いや、今回に関してはグッジョブよ、新島。おかげで心臓には悪かったけれど、とても幸せな時間を過ごせたわ。

「仁科...？　お前翔に対して何か思うところはないのか...？」

「い、いや！　そういうわけじゃないわ！　新島！　アンタ途中で逃げるとかありえないから！」

　しかし私の言葉は新島にはちゃんと届かなかったようだ。新島は私の言葉を聞くとこっちを見てニヤニヤし始めた。こいつほんとムカつくわね...

「次はどこ行く？」

　会話がひと段落つくと田島が声を掛けてきた。

「次は田島が行きたいところに行きましょうよ」

「そうだな。俺らが行きたいところにはもう行ったしな」

「いいのか？　お前ら他に行きたいところあったりしない？」

「いいの、いいの。私たちは十分楽しんだから」

　今日の田島は私や新島の希望にノーと言わずに全部受け入れてくれている。それはとても嬉しいんだけど私は田島にも自分の希望を言ってほしい。

　今度は田島がめいっぱい楽しむ番だ。

　さあ！　これからはとことんアンタを楽しませてやるわ！　覚悟しなさいよね！