第36話 デッド・スクリュー・ハリケーン

-side 田島亮-


 今日は新学期に入って初めての日曜日だ。天気は快晴、気温も春らしい温かさでちょうど良い。絶好の外出日和である。


 俺は現在そんな朝のポカポカ陽気を肌で感じながら天明高校前の駅へ向かっている。


 何故駅に向かっているのかというと、一昨日の夜に翔から突然『日曜日に仁科とお前と俺の3人で遊ばないか』と誘われたからである。


 急な誘いで少し驚きはしたが、俺はこの誘いを快諾した。


 翔の話によると俺がまだ駅伝部にいた頃はよく3人で遊んでたらしいしな。実は俺も前々から1度3人で遊んでみたいと思っていたんだよ。


 というわけで俺は今日の外出を割と楽しみにしているのである。



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「おっす亮」


「お、おはよう田島」


 駅に到着すると仁科と翔に出迎えられた。どうやら2人とも俺より先に駅に到着していたらしい。

 

「おっす、2人とも待たせてすまないな」


「いや、別にお前が遅れたわけではないから謝る必要はないぞ。俺らが早く来すぎただけだ」


「言われてみればそうだな。まだ集合時間の10分前だ」


「まあ早く集まる分には悪くないだろう。早速行くとしようか」


「そういや今日はどこに行くんだ? 俺は10時に駅前集合ってこと以外何も聞いてないんだが」


「そこはあえて伏せてるんだよ。どこに行くかは着いてからのお楽しみだ」


「なんで伏せる必要があるんだよ...」


「ふふ...」


「おい、仁科。なんでお前ニヤついてんだよ」


「うふふ、別になんでもないわよ」


 仁科のこの不吉な笑みはなんなんだ...なんか嫌な予感しかしないぞ...



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-side 仁科唯-


 私たちは電車に乗り、天明高校前の駅から3駅ほど先にある駅で降りた。


 実は今降りた駅の前には遊園地がある。私たちは今日遊園地で遊ぶためにここまで来たのだ。


 でも田島には遊園地に行くということをここに着くまで隠してきた。それには深い理由がある。



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〜2日前の翔と唯の会話〜


「遊びに行くってのは分かったけど結局どこに行くのよ」


「遊園地に行こうと思ってる」


「なるほど。でも田島って絶叫系のマシーン苦手じゃなかったっけ? あんまり楽しめないんじゃないかしら」


 実は田島が記憶を失くす前にも私たちは3人で遊園地に行ったことがある。


 田島は遊園地に行くのはその時が初めてだったみたいでジェットコースターに乗ったことがなかったそうだ。


 だから試しに3人でジェットコースターに乗ってみたのよ。でも乗り終えた後に田島は足をガクガク震えさせて


「こんなの二度と乗らねえ...」


 って言ったの。


 多分その時初めて絶叫マシーンが苦手なことに気づいたのでしょうね。


 だから遊園地に田島を誘っても来るかどうか怪しいんじゃないかしら...


「その点は心配いらないぞ、仁科」


「どういうことよ」


「よく考えてみろよ。あいつは前遊園地に行った時最初は自分が絶叫系が苦手なこと分かってなかっただろ?」


「まあそうね」


「そして今の亮はその時のことを覚えていない。つまりあいつは自分が絶叫系が苦手なことを知らない可能性が高いんだよ」


「つまり何が言いたいのよ」


「もう一回アイツをジェットコースターに乗せよう」


「アンタ鬼なの!?」


「いや、ジェットコースターに乗ってる時の亮のリアクションめっちゃ面白かったじゃん? 俺もう一回アレ見たいんだよ」


「ま、まあ確かに田島のリアクションは面白かったけど...でもそれじゃ田島が可哀想じゃない...」


「お前ホント亮には甘いな」


「いや、これって普通の考え方だと思うんだけど!?」


「いいか、仁科。よく考えてみろ。お前は高校に入学して以降1番亮に話しかけてきた女子だ」


「...は? いきなり何言ってんのよ」


「まあ聞け。とにかく俺が知る限りお前は天明高校の中で1番亮と会話してる女子なんだよ。それなのに亮が仁科のことを異性として意識してる様子は全く見られない。 それについて何か思うところは無いか?」


「ま、まあ思うところが無いと言えば嘘になるわ...好きだと気づいたのは最近だけど田島のことは今までずっと特別に思っていたし...そのことに気づいてくれないのはちょっと悲しいかも...」


「だろ? お前は今まで亮に特別な感情を抱いたきた。なのにアイツは全くそれに気づいてくれない。そんな鈍感野郎には少しくらいイタズラしてもいいと思うんだが」


「...どうしてくれるのよ。アンタの言葉のせいで私まで田島をジェットコースターに乗せたくなってきたじゃない」


「ふはは、交渉成立だな。じゃあ日曜は遊園地に行くってことで。あ、でも一応亮にはどこに行くかは内緒にしといてくれ。もしかしたら俺らが知らないうちに誰かと遊園地に行って絶叫系が苦手なことを思い出しているかもしれないからな」


「アンタほんと勉強以外だと細かいところまで頭回るのね...分かったわ。田島には何も言わないでおく」


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 というわけで私たちは田島に行き先を告げないまま遊園地に来たのだ。


「ここって遊園地だよな...? お前たちなんでここに来るのを俺に内緒にしてたんだ...?」


 遊園地の前に着くと田島が不思議そうな顔をして私たちに問いかけてきた。


「ま、まあサプライズってやつだよ。ほら、さっさと中入るぞ」


「え、これってサプライズになってるか...?」


 ちょっと新島...アンタどんだけ言い訳下手なのよ...完全に怪しまれてるじゃない...


「い、いいから中に入るぞ!」


 そして私たちは半ば強引に新島に連れられて遊園地の中に入った。



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-side 田島亮-


「よし、じゃあ早速ジェットコースターに乗るか!」


 遊園地の中に入るといきなり翔からそう提案された。


「そうね! 早く乗りたいわ!」


 そして仁科はなぜか超ノリノリである。今日はなんかこいつらの様子がおかしい気がするんだよな...


 でもまあ別に断る理由はないか。記憶ぶっ飛んで以来ジェットコースターになんか乗ったことないからよく分からんけど多分問題ないだろ。


「分かったよ。お前たちがやたらテンション上がってる理由はよく分からんが、とりあえずジェットコースターの列に並ぶか」


「よし決まりだな!」


「決まりね! 早く行きましょう!」


「ほんと今日のお前らテンション高いな...」


 こうして俺たちはジェットコースターに乗ることになった。



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 30分程列に並ぶと俺たちの番がやってきた。


 ちなみに俺たちが今から乗るジェットコースターは一列に二席しかないため、三人で並んで座ることができない。


 だから俺が一人だけ別の列に座ろうとしたのだが、なぜか翔に全力で止められて結局俺は仁科の隣に座ることになった。


 そして席に座るとアナウンスが流れてきた。


「本日はご来場していただき誠にありがとうございます。僭越ながらただ今皆さまが乗っているジェットコースター『デッド・スクリュー・ハリケーン』について説明させていただきます」


 ...あのー、ジェットコースターの名前もうちょいどうにかなりませんでしたか? なんで死人が出そうな名前にしてるんですか?


「本コースターは出発後、まずはゆっくりと高度50mまで上昇していきます。そして上昇後一時停止した後に高度50mから角度80°で急降下し、一気に加速します。この時最高速度は時速120kmに到達します」


 おお...結構エグいな...


「そしてその後は高い速度を保ったまま回転やカーブを3分間繰り返し、終了という流れになります」


 え? これ結構ヤバイやつなんじゃね?


「それでは出発まで30秒前になりましたので皆様の席の安全ベルトを降ろします」


 そのアナウンスと同時に俺の席にも安全ベルトが降りてきた。



 ...そしてベルトが降りてきたのと同時になぜか冷や汗も出てきた。


 ...ん? なんで冷や汗なんて出るんだ?


 しかしその疑念を解決する間を与えることもなく出発5秒前を知らせるアナウンスが流れてきた。


「では出発まで5、4、3、2、1...0! いってらっしゃーい!!」


 そしてカウントが終わるとコースターはゆっくりと上昇し始めた。


 ...なんだこの感覚は。高さが上がるごとに心臓がバクバクするんだが。


 そしてついに最高高度である50mに到達した。




 ...ちょっと待って高い高い高い高い高い怖い怖い怖い怖い怖い


「うふふ...」


 そして急降下をする寸前、なぜか隣にいる仁科が微笑んだような気がした。


 しかしこの時仁科が微笑んだ理由を考えることなど到底できなかった。


 ...この時俺は自分が絶叫系苦手なことに気づいてしまってたからな。恐怖で思考が完全にフリーズしてた。


 そして無慈悲なデッド・スクリュー・ハリケーンは恐怖に陥っている俺のことなんか関係ないと言わんばかりに超高速急降下を始めた。



「...うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 無理無理無理無理無理無理!!!!」

 


「あはははは!! 田島声大き過ぎ! リアクション面白過ぎ!!」


「仁科ぁぁぁ!! 笑ってないで少しは俺のことを心配してくれぇぇぇぇ!!! うぁぁぁぁぁぁ!!!」


「あはははは!!!」


「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



 こうしてデッド・スクリュー・ハリケーンは3分間、大絶叫している俺と高笑いしている仁科を乗せて爆走し続けた。




 チクショウ...こんなマシンもう二度と乗らねぇ...

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