第35話 衝撃の事実
-side 新島翔-
俺の言葉を聞いた仁科はさっきからずっと驚いた表情のまま固まっている。このままじゃ埒が開かない。声を掛けるとするか。
「お前もしかして俺にバレてないとでも思ってたの?」
「え!? そんなにバレバレだったの!?」
「本当にバレてないと思ってたのかよ...」
半年ほど前から仁科の俺に対する態度と亮に対する態度が違うのはなんとなく分かっていた。別に仁科が俺をぞんざいに扱っているというわけではないが、亮と話している時のこいつはいつも目を輝かせているように感じていた。
だからなんとなく仁科が亮に対して特別な感情を抱いているのではないかという推測はできていた。
しかし亮と仁科の関係はいつまで経っても仲が良い友達のままだった。それに俺が亮と仁科のことを『夫婦みたいだな』と煽ってみても2人とも全く動じる様子が無かった。
だから昨日までは仁科が抱いている感情が果たして好意なのかどうかというのを判断することが出来なかった。
でも今日の仁科は明らかに様子がおかしかった。
1日を通して1回も亮に話しかけなかったし、亮に話しかけられただけで一々ビクついていた。
それに今日の授業中、仁科は隣で寝ている亮の顔をチラチラ見ては頰を染めてニヤついていた。
ここまで露骨な態度の変化を見せられればさすがに仁科が亮に好意を持っているのではないかと勘繰ってしまう。
ただ唯一分からないのはなぜ仁科が急に好意を持ち始めたのかということだ。昨日何かあったとしか考えられないが、一体何が起きたのだろうか。
「なあ仁科、もう一度確認するけどお前は亮のことが好きなのか?」
「う、うん...私は田島のことが好き...このこと誰にも言わないでよ...?」
「言うわけないだろ」
「だ、だよね...私、一応新島のことは信用してるんだ。長い付き合いだし」
「お前が俺を褒めるなんて珍しいな」
「実際アンタ普段はふざけてばっかだけどなんだかんだで根は真面目だし」
「そりゃどうも」
こいつなんで俺に対しては素直に思ったこと言えるんだよ...亮の前でももうちょい素直になれよ...
「で、なんでお前は亮のことが好きになったわけ? タイミング的には昨日何かあったとしか思えないんだが」
「そ、それは...」
「まあ別に言いたくないなら無理に言わなくてもいいが」
「いや、言うよ。この際全部話してスッキリしておきたいし。それにこんな事話せるの新島くらいしか居ないし」
「そうか。じゃあ話を聞かせてもらおう」
「昨日私は部活の休憩中にタオルを教室に忘れたことに気づいて取りに行ってたのよ。そしたら教室に残ってる女の子たちが居てね。それでその子たちが私の陰口を言ってたみたいなのよ」
「暇な奴らもいるもんだな...」
仁科は容姿端麗で性格も明るいから男女問わず皆に好かれている人気者だ。
だがその一方でそんな仁科に嫉妬する生徒が何人か居るという噂も聞く。人気者っていうのも大変なものだ。
「それでその後どうなったんだ?」
「その時教室には田島も居てね。それで陰口を言ってた女の子たちにアイツは声を掛けたのよ」
まあ亮ならその状況で我慢できるわけないわな。アイツは自分のためには全然動かないくせに他人のためにはすぐ動くヤツだからな。
「それで『君たちは仁科のことをよく知らないのになんでそんなこと言えるんだ』って言って私のことを庇ってくれたのよ」
「ほう...だから亮に惚れたということか?」
「いや、まあそれもあるけど最後に田島が言った台詞がずっと頭に残ってて...」
「なんて言ったんだ?」
「え、えーっと、『頑張ってる仁科のことを悪く言う奴は誰であろうと俺が絶対許さねぇから』って...」
仁科はそう言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
...つーか何だよそれ。亮さんイケメン過ぎるだろ。確かにアイツの口からそんな台詞聞いちゃったら惚れちゃうのも分かるわ。
「なあ仁科、もしかして今日亮に土下座で謝られてた女子って今お前が言ってた奴らのことか?」
「ま、まあそうなるわね」
「はは、啖呵切った相手に翌日すぐ土下座か。なんかアイツらしくて笑えるな」
「ふふ、そうね」
これはあくまで俺の個人的な考えだが、亮は『他人を傷つけないこと』を最優先に行動しているのではないかと思う。
だから亮は今日女子たちにあんなに謝っていたのではないだろうか。『昨日吐いた自分の言葉のせいで女子たちが傷ついたのかもしれない』とでも考えたのかもしれない。
...優し過ぎるのも考えものだな。どう考えたって悪いのは仁科の陰口を言ってた奴らの方なのに。確かに女子の会話に乱入した亮に非が無いというわけでは無い。でもアイツのとった行動は第三者の俺から見ても間違ってはいなかったと思う。
「で、仁科よ。お前これからどうするんだ? 亮との関係が今のままでもいいのか?」
「そ、そりゃあ私だっていずれは田島と付き合えたらなぁとは思うわよ。でも今すぐにってわけにもいかないじゃない」
「まあその気持ちは分からんでもない。でも亮はなんだかんだでモテる方だぞ? あんまりグズグズしてたら他の女に取られちまうかもしれない」
まあ当の本人はモテてるなんて全く思っていないみたいだがな。アイツは自己評価が低すぎるんだよ。
「た、確かにそうね...少なくとも市村さんと渋沢先輩は田島のこと好きみたいだし...」
「...まあその2人は確定だろうな」
俺が渋沢先輩に写真を高値で売って亮を嵌めたことがあるってのはここでは黙っておこう...
「というわけでだ、仁科。まずお前は亮と前みたいにちゃんと話せるようにならないといけないんじゃないか? 今日みたいな態度だと亮と距離を詰めるのなんて無理だろ」
「そ、それはそうだけど...でも田島の顔を見るだけでドキドキしてどうすればいいか分からなくなるのよ...」
「はは、お前恋する乙女かよ」
「う、うるさいわね! それが悪いっていうの!?」
「いや、全然悪いなんて思わないさ。そんな恋する乙女の仁科さんに俺から1つ提案がある」
「提案...?」
「幸いなことに明後日は日曜日。しかも部活の練習が珍しく休みだ」
「確かにそうね。でもそれが何だっていうの?」
「そこでだ。久しぶりに俺とお前と亮の3人で遊びに行かないか?」
「...!」
「一日中亮といれば流石に普通に話せるようになるんじゃないか? それに俺が居れば2人きりで緊張するということもないだろう。お前にとっては魅力的な提案だと思うんだが」
「確かにそうね。でもなんでアンタが私のためにそこまでしてくれるの?」
「は? 何言ってるんだよ。大切な友達の手助けをするのに理由なんて必要か?」
「新島...」
「というわけで明後日は天明高校前の駅に10:00集合な。亮には俺から伝えとくから」
「...」
「ん? どうした仁科? 急に黙り込んで」
「ねえ新島。あ、アンタには今気になってる女の子とかいないの?」
...は? 急に何言ってるんだこいつ?
-side 仁科唯-
新島は想像していたよりも真剣に私の悩みを聞いてくれた。だからこの時私はもし新島にも恋の悩みがあるなら相談に乗ってあげたいと思った。
というわけで私は思い切って新島に気になっている子がいるのかどうか尋ねてみた。
「お前急に何言ってるんだ?」
「い、いやもし新島にも恋の悩みがあるなら私も聞いてあげたいなーと思って」
「はっはっは、それなら心配ご無用だ。俺には彼女がいるからな」
「......は? ごめんなさい、私の聞き間違いかもしれないわ。もう1回言ってくれる?」
「だーかーら、俺には彼女がいるの。中学の時から2年間付き合ってる。俺県外から越境入学してるから今は遠距離なんだけどな」
...はぁぁ!? 何よそれ!? この学校に入学して以来最大の衝撃なんですけど!?
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