第23話 リア充撲滅委員会
-side 田島亮-
「ただいまより裁判を開始する。被告人は田島亮、お前だ」
「はぁ?裁判...?翔、これは一体どういうことだ...?」
俺は今体育倉庫でボロボロの椅子に座らされている。おまけになぜか手錠もかけられている。現在時刻は12:15。昼休み真っ最中である。
「被告人は黙ってろ!」
「裏切り者に死を!」
「裁判長!さっさと裁判を進めて下さい!」
そして体育倉庫の入口付近に吉原、脇谷、西川という名前の3人の男子生徒がいる。今俺を罵倒してきたのはこいつらだ。
この3人は全員駅伝部である。去年のクリスマスにウチで野郎どもで集まって寂しくパーティーした時に居たメンツだ。
さらに俺の目の前には『裁判長』の新島翔がいて、今まさに裁判を進行させようとしている。
いや、マジでどんな状況だよ。ワケわかんねーよ。
ではどのようにして俺はこのカオスな裁判に巻き込まれたのか。それを説明するには今から4時間ほど遡る必要がある。
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今日は2月の第2月曜日。ナンパやら相合傘やら色々あった岬さんとのドキドキデートの翌日である。
朝登校して席に着くと机の中に俺宛の手紙が入っていた。
『田島亮へ。本日の昼休み、体育倉庫にて待つ。by RBI』
...なんだこれ?昼休みに体育倉庫?てかRBIって何なの?
疑問点が多すぎるのでとりあえず後ろの席の翔に手紙を見せて相談してみることにした。
「なあ、翔。なんか机に手紙入ってたんだけどさ、お前これについてどう思う?」
「なんだこれ。よく分からん手紙だな。でも体育倉庫には行った方が良いと思うぞ」
「そうか?無視しようと思ってたんだが」
「無視したらRBIとかいう奴らにもっと面倒なことされるかもしれないだろ?」
「まあ一理あるな」
「一人で行かせるのはなんか不安だから俺も付いて行ってやるよ」
「なんかすまんな。助かるわ」
「いいってことよ」
こうして俺たちは昼休みに体育倉庫へ行くことになった。
そして昼休みになり、俺は翔と一緒に体育倉庫を訪れた。
するとなんと体育倉庫の中に入った瞬間、いきなり翔が制服の内ポケットから手錠を取り出し、俺を拘束したのだ。
「翔...?なにしてんのお前...?」
「ふっふっふ...よし、吉原、脇谷、西川!もう出てきていいぞ!」
「はぁ!?」
翔の声に反応して3人の男子高校生が一斉に体育倉庫の端にある跳び箱の中から出てきた。
「は!?お前らなんで跳び箱の中に隠れてたの!?てかお前ら何してんの!?」
「うるせえ!いいからお前はそこに座れ!」
「いや、訳わかんねーよ!っておい!お前らやめろ!制服引っ張んな!破れるから!」
そして俺は無理やり室内中央のボロ椅子に座らされ、今に至るというわけである。
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「では改めて裁判を開始する」
「翔、さすがに急展開過ぎる。説明を求める」
「裁判長と呼べ」
「はぁ...裁判長、質問させて下さい」
「よかろう」
「俺はなぜ裁判にかけられているのですか」
「そんなこともわからないのか。これが原因だ」
翔はそう言ってポケットから携帯を取り出し、画面を俺に見せてきた。
画面をよく見ると俺と岬さん(前髪上げバージョン)が一緒に写っていた。
「貴様あの時盗撮しやがったな!」
「いや、こんな面白い場面撮らないわけないだろ」
「こいつ...!」
ああ、なんとなく今の状況が分かってきた。
そう、俺は昨日チケットを買った時、岬さんのリスクばかり考えていて、自分のリスクを全く考えていなかったのだ。
そしてこの裁判はあの時俺がとった考えなしの行動が原因で起きていると考えられる。
あの時俺は最悪な状況を2つしか想定できていなかった。そして今、俺は想定していなかった第3の最悪状況に陥っているのである。
〜case3〜
俺「チケット2枚くれ」
↓
翔「誰と見るんだ?」
↓
俺「あそこにいる従姉妹だよ」
↓
翔「マジか」
↓
俺「おう」
↓
翔(明日学校で吉原たちにこの事教えたろ)
↓
DEAD END
というわけだ。恐らくこの裁判は『かわいい女の子とデートしてた俺』を4人でイジるために計画されたものだろう。でもこんな大掛かりなことする必要あるのか?
「裁判長、こんなに大袈裟なことをする必要があるのでしょうか」
「それはそちらに居るRBIの方々に聞いてください」
「え?この3人がRBIなの?てか手紙見た時からずっと思ってたけどそもそもRBIって何なの?」
「では吉原検察官、説明を」
裁判長に促され、吉原が一歩前に出た。
「では説明を行います。まず、RBIについて。RBIとは我々『リア充撲滅委員会』のことです」
あぁ、なるほど。
R(リア充)B(撲滅)I(委員会)ね。
つまりこいつらは自分達に彼女がおらず、目に入るカップルに対して『リア充爆発しろ』という思想のもとに行動してる集団って感じなんだろ、多分。
つーか、そんな組織知らなかったぞ...なんて迷惑な組織なんだ...
なんか一連の説明を聞いてクリスマスにこいつらがウチに来たのは純粋にパーティーを楽しむのが目的だと思えなくなってきたわ。一応その辺問いただしてみるか。
「なあ、突然だがお前ら3人がクリスマスにウチに来た理由を教えてもらえるか」
「彼女いないから」
「お前の妹ちゃん見たかったから」
「お前がクリスマスに抜け駆けしてデートに行けないようにしたかったから」
「このクズ共が...」
こいつらそんな理由でウチに来てたのかよ...
「新島裁判長!そろそろ被告人の罪状について説明してもよろしいでしょうか!」
「認めます。始めなさい」
そしてRBIについての説明を終えた吉原が今度は俺の罪状(全く身に覚えがない)について話し始めた。
「被告人は昨日、隣町の映画館で美少女とデートをしていた模様。これには新島氏の写真という確固たる証拠があります。また、昨日の被告人の行為は我々に対する裏切りと同義であり、大変遺憾であります」
私怨でしかないじゃねぇか...
「よって死刑を求刑します」
「罰が重すぎない!?」
「検察側からは以上です」
ちくしょう、このまま罰を受け入れてたまるかよ...
「裁判長!俺にも反論の機会を下さい!」
「却下します」
「なんで!?」
「私が貴様の意見を求めていないからだ」
「せめて平等に進行しやがれクソ裁判長!」
「被告人、法廷では静粛に」
「黙ってられるかよ!大体検察側3人で弁護側0人っておかしいだろ!裁判って一方的に被告をボコボコにするものじゃないからな!」
「はぁ、やれやれ仕方ないな...反論の機会を与えてやろう...」
そう言って翔は呆れた顔をしながら俺に反論の機会をくれた。ほんっとムカつく顔してんな...
「よし、じゃあ始めるぞ。まずお前らが言ってる美少女っていうのは俺の従姉妹だ。決してお前らが思っているような関係ではない」
「異議あり!」
「認めます。脇谷検察官、前へ」
「かわいい従姉妹がいて、しかも2人きりで出かけられる関係。これをリア充と呼ばずに何と呼べば良いのでしょうか。つまり彼は我々RBIの裁きの対象となるのです!」
そして脇谷の異議に吉原と西川も加勢してきた。
「脇谷の言う通りだ!」
「そうだそうだ!さっさと罪を認めろ!」
「えぇ...アウェー過ぎるだろ...つーかこういう時こそ裁判長は『静粛に!』って言わなきゃいけないだろ...なんで今は言わないんだよ...」
すると今度は脇谷のすぐ後ろで控えていた西川が一歩前に出た。
「裁判長!」
「どうしましたか、西川検察官」
「被告が罪を犯しているのは明らかです!これはもう判決を言い渡しても良いのではないでしょうか!」
「主張を認めます。では今から判決を言い渡します」
「急展開過ぎない!?」
「主文、被告人田島亮は...」
「...ゴクリ」
「死刑!...はさすがに無理なので、右腕骨折の刑!」
「アホか!十分重いわ!なんで骨折られなきゃいけねえんだよ!」
たまらず俺が猛抗議していると吉原が話しかけてきた。
「なあ田島よ...」
「なんだよ吉原」
「世の中には『一本満足』と言う言葉があるだろ?お前の骨を一本折って俺らが満足。理想的な『一本満足』じゃないか」
「いや、『一本満足』ってそう言う意味じゃないだろ!あれはただの商品名!具体的な意味は無いはずだろ!」
そしてRBI3人組は急に俺の方へ接近し始めた。
「満♪満♪満足♪一本満足♪」
「おい、翔!頼むから歌いながら俺に迫ってくるこいつらを止めてくれ!」
「はあ、仕方ないな...おい、吉原、脇谷、西川。罪を軽くしてやってもいいか。さすがに怪我させるのはマズイ」
「ああ、別に構わん。俺らも元々こいつに怪我させる気無かったしな。ちょっと脅しただけだ」
「脅し方が物騒過ぎませんかね...まあ俺も冗談だとは思ってたけど」
そして怪我なく終わることに少し安心していると脇谷が話しかけてきた。
「おい、田島」
「なんだよ脇谷」
「俺たちの不平不満を聞いてくれたらそれでお前の罪を無かったことにしてやる」
「そもそも俺別に悪いことしてないんだけどな...でも面倒だからもうそれでいいよ...」
「では俺からいくぞ」
すると今度は吉原が俺の目の前に立った。最初はこいつか。
「なあ田島。俺はお前がこっち側の人間だと思っていたんだよ。入学して以来お前の周りにはあんまり女が寄り付かなかったからな」
「俺がそちら側にカウントされるのは大変遺憾だが、まあいい。続けろ」
「なのに!仲間だと思ってたのに!お前は女の子とデートしてやがった!しかも写真見た限りめちゃくちゃかわいいじゃねぇか!羨ましいんだよ!コンチクショー!」
「いや、だからあれは従姉妹だと言っただろ」
「黙れぇい!女と遊ぶ、これ即ちリア充なり!貴様は裁きの対象じゃあ!今度女の子紹介してくれぇ!」
「いや、俺紹介できるほど女友達いないから」
「嘘つくんじゃねえぞコラァ!」
「ホントだっつーの...」
「チッ...」
そして色々ぶちまけた吉原は体育倉庫の入口の方へ下がっていった。
「次は俺だな」
そして今度は脇谷が俺の目の前に立った。
「田島、実は俺はお前に不満はないんだよ」
「え?お前実はいいやつだったりする?」
「ただ1つ頼みを聞いてほしいだけなんだ」
「頼み?」
「友恵ちゃんを俺に紹介してくれ」
「断固拒否だ」
「そこをなんとか頼むよ!俺クリスマスに会った時に一目惚れしちゃったんだよ!」
「うわぁ、マジか...つーかお前よく考えてみろ。ノリノリでリア充撲滅運動しちゃうような男に俺が可愛い妹を紹介すると思うか?」
「...チクショウ!RBIなんてクソ喰らえだ!」
脇谷がそう言うと体育倉庫入口前に控えていた吉原が脇谷に急接近してラリアットをお見舞いした。
「痛いなオイ!いきなりラリアットは無いだろ!」
「テメェ今なんて言いやがった!」
「お前こそ急に何しやがる!」
「お前がRBIなんてクソ喰らえとか言うからだろ!」
「実際クソみたいな集まりだろ!人を妬んでるだけでカップルを破局させる力なんて俺らには無いじゃねえか!」
「貴様言ってはならないことを言いやがったなぁぁぁ!」
そして二人は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
...俺は一体何を見せられているのだろうか。
「おい、喧嘩は外でやってくれ」
「上等だぁ!行くぞ脇谷!」
「おうよ!覚悟しとけよ吉原!」
そう言って2人は体育倉庫から出て行った。なんだよ、あいつら意外と素直に言うこと聞いてくれるんだな...
「最後は俺だな...」
そして今度は西川が俺の目の前に来た。やっと最後か...
「田島、俺はお前が許せない」
「唐突だな」
「仁科だけに飽き足らず従姉妹にまで手を出すとは...この女たらしめ!」
は?なんでここで仁科の名前が出てくるんだ?
「なんだよ急に。お前もしかして仁科のこと好きなのか?」
「好意は寄せていない。ただ崇拝しているのだ」
「それ普通に好きになるよりヤバくないか」
「あの綺麗な黒髪。端正な顔立ち。そしてなんといってもあの大きなバスト。本当に素晴らしい女性だ。俺がそんな彼女に好意を寄せるなんておこがましいとは思わないか」
「だからって崇拝するのもどうかと思うけどな...」
「お前は仁科と仲が良いからそんな事が言えるんだよ。俺は同じ部活のはずなのに全然仲良くなれてないんだぞ。正直言ってお前が妬ましい」
「言っとくけど仁科とはただ友達として仲良くしてるだけぞ?」
「黙れぇい!それだけでも十分羨ましいわ!」
「だったらお前も俺を妬むばかりじゃなくて仁科と友達になれるように頑張ればいいだけだろ!少しは努力しろよ!」
「......正論は嫌いじゃボケェ!」
「理不尽っ!」
そして西川は不満をぶつけ終えると体育倉庫から出て行ってしまった。そして体育倉庫に残っているのは俺と翔だけになった。
「なあ翔」
「なんだよ」
「お前は俺に何も言わないのか?」
「ああ、俺は特に何もないよ。俺はRBIのメンバーじゃないしな。俺は他人が幸せなら自分も良い気分になる性格なんだよ」
「翔...お前いいやつだな...」
「でも他人が罵倒されてるのを見ても良い気分になれる性格でな。だから日曜のことをRBIの奴らにリークしたんだよ。いやー、ほんと面白かったわ。さっきまで腹抱えて笑ってた」
「前言撤回、お前クソ野郎だわ」
最近まで俺の友達はいい奴ばっかだと思ってたけど割とそうでもないのかもな...
さっきの裁判は強烈過ぎた...
「なあ亮、そろそろ教室戻らないとヤバくないか。昼休み終わるぞ」
「それはそうだが教室に戻る前にお前に1つ確認したいことがある」
「なんだよ」
「お前RBIのやつ以外に日曜の写真送ったりしてないよな?」
「ああ、心配するな。俺が写真を送ったのは4人だけだ」
「良かった...ってちょっと待て。お前今4人って言ったか?RBIって3人だけだよな?もう1人他の誰かに送ったってことか?」
「まあそうなるな」
「誰に送ったか答えろ」
「依頼主との契約上それはできない」
「そんなの知ったことか!今すぐ答えろ!」
「ふはは!答えて欲しかったら俺を捕まえてみな!」
翔はそう言うと全速力で体育倉庫から出て行ってしまった。チクショウ、あいつ逃げやがった...
つーか、写真送った相手って誰だよ。マジで気になるんだけど。そもそもあの写真もらって得する奴なんているのか?
まあ、今色々考えても仕方ない。とりあえず教室に戻るか...
そう思って俺は体育倉庫を出ようとした。
しかし、ここで俺は自分に重大なアクシデントが起きていることに気づいた。
「あ、手錠外してもらうの忘れてた...」
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