第24話 バレンタインdeサプライズ

-side 田島亮-


 本日は2月14日。皆さんご存知バレンタインデーである。


 モテる男はチョコを沢山もらい、モテない男でも『もしかしたら俺も貰えるんじゃ...』とか考えて下足箱の中や机の引き出しの中などをついつい見てしまう、そんな日だ。


 要するに今日という日は健全な男子高校生なら誰しもソワソワしちゃうものなのだ。


 俺もその例に漏れず、ソワソワしちゃってる男子高校生の内の一人である。ソワソワして落ち着かなかったからだろうか、いつもは遅くまで寝ているのに今日は朝6時に目が覚めた。


 そして特にやることも無かったので1階に降りてきてコタツに入り、朝のニュース番組を見てるわけだ。でもぶっちゃけ全然内容が頭に入ってこない。


 そりゃあソワソワするよ。記憶を失ってはいるが、その点を除けば俺は一般的な男子高校生だ。普通に女の子からチョコ貰いたいに決まってる。


 でもなんか考え事ばっかしてたら眠くなってきたな...まだ学校行くまで時間あるしこのまま寝るか...じゃあおやすみ...


 そうして俺が目を閉じようとすると、リビングの扉が開く音がした。


 扉の方を見ると、そこにはパジャマ姿の我が妹が居た。


「え、なんで兄貴こんな早い時間に起きてるの」


「ふっふっふ、男は2月14日に早起きする生き物なのだよ」


「ああ、そういうこと...兄貴ってほんと分かりやすい性格してるよね...」


「そこまで察してるなら今すぐチョコくれ」


「はあ...仕方ないな...」


 そう言うと友恵は冷蔵庫の方へと歩いて行き、冷蔵庫の中から紙袋を取り出した。そして友恵は紙袋を手に持ってまたこちらへと戻ってきた。


「お前手作りしてたんだな。お兄ちゃん嬉しいよ」


「友チョコ作る時についでに作っただけだから」


「ツンデレかよ」


「黙れ」


「まあ、そう照れるなよ」


「それ以上余計なこと言ったらこれあげないから」


「すみません私が悪かったです本当にごめんなさい」


「はぁ...じゃあこれあげるよ」


 そう言うと友恵は紙袋を俺に手渡してきた。


「サンキューな、友恵!よし、これでチョコ0個は回避だな」


「いや、多分私以外からも貰えると思うけど...」


「あ?なんか言った?」


「いや、別に何も...っていうかそれ溶けるからまた冷蔵庫に戻したら?」


「今戻したら今受け取った意味が無くなるじゃねえか。早速食うわ」


「あっそ。それならいいけど」


 そして俺は紙袋を開けてみた。中を見るとトリュフチョコが6粒入っていた。試しに1粒口に入れてみる。



 ...え、なにこれ超おいしい。甘過ぎなくて食べやすい。あ、これ何個でもいけるやつ。



 そして俺は食べる手が止まらずあっという間に完食してしまった。


「ふぅー、食った食った」


「...」


「ん?なんでお前俺の顔ジロジロ見てるの?」


 友恵はなぜか俺を凝視している。


「味の感想の1つでも言ったらどうなの?」


「ああ、なるほど。そういうことね...」


「で、味はどうだったのよ!」


「あぁ、めちゃくちゃ美味かったぞ。甘さが適度に抑えられてて俺好みだった。あれならマジで何個でも食える。今度また作ってくれ」


「へぇ...美味しかったんだ...」


「まあな」


「......えへへ」


「ん?お前なんでニヤニヤしてるんだ?」


「べ、別にニヤニヤしてないし!」


「お前大丈夫か?顔赤いぞ?」


「うるさいバカ兄貴!私学校の準備あるからもう部屋に戻る!」


「お、おう...」


 そして友恵は自分の部屋に戻って行った。


 なんで最後俺罵倒されたんだろ...チョコの味褒めただけなのに...



ーー---------------------ー



 友恵からチョコを受け取った30分後、俺は学校に行くために家を出ることにした。


 そして家を出ると予想通り渋沢先輩が待ち構えており、俺の腕に抱きついてきた。


「ダーリンおっはよー!」


「よく毎朝懲りずにウチに来ますよね...」


「もう!ダーリン最近素っ気ない!最初は反応がウブでかわいかったのに!」


「1ヶ月間毎日腕に抱きつかれてたらさすがに慣れます」


「なるほど、ずっと同じように接してるからいけないのね...ってことは何か変化が必要なのかしら...」


「あのー、さっきからブツブツと何をおっしゃってるんですか?」


「ダーリン、1つ提案があるの」


「ロクな提案な気がしないですけど一応聞いておきます」


「私の呼び方を変えて欲しいの!渋沢先輩ってなんかよそよそしくない?アリスって呼んでよ!」


「えぇ...」


 さすがに先輩を名前で呼び捨ては抵抗あるわ...


「タダでとは言わないわ。アリスって呼んでくれたら後で私のとっておきの手作りチョコあげる」


「マジすか!?」

 

 ハーフ美女のとっておきの手作りチョコだと...正直めっちゃ欲しい...


 この人は性格はちょっとアレだが超絶美人なことに変わりはない。そんな人からチョコが貰える機会なんてこの先あるか分からない。目先のチャンスは確実にゲットせねば...!


 覚悟を決めた俺は自分の右腕に抱きついている渋沢先輩の目をじっと見つめた。


「では先輩、今から名前で呼ばせていただきます」


「え!?急に!?ちょっと待って!まだ心の準備ができてないの!」


「アリス」


「うっ...!」


 よし、これでチョコゲットだぜ!




 ...ってあれ?急に渋沢先輩が俺の腕から離れてしまった。そして俯いてそのまま固まってしまった。


「先輩?どうしたんですか?」


「まだ心の準備が出来てないって言ったのにぃ...」


「え、何か言いました?すいません先輩、俯いたままだと話しづらいんでこっち見てもらってもいいですか?」


 そして先輩は俺の声に反応して顔を上げてこちらを見た。


 うわ、顔真っ赤じゃん。


「もしかして照れてます?」


「べ、別に照れてないもん!」


「じゃあなんでそんなに顔赤いんですか?」


「そ、それは...暑いからだよ!」


「今2月ですよ?」


「あぁ!もう!ダーリンのいじわる!もうチョコあげない!」


「すいませんでした!前言撤回します!先輩は照れてません!顔も赤くなってません!」


「その通りよ!でもね、照れてはないけどね、1つダーリンにお願いがあるの」


「なんでしょうか」


「これからは『アリス』じゃなくて『アリス先輩』って呼んでください...」


「あー、そうですね、はい、わかりました...」

 

 多分この人呼び捨てにされるのが思ってたより恥ずかしかったんだろうな...


「じゃあアリス先輩、遅刻するんでそろそろ学校行きましょうか...」


「そ、そうね...」


 そして俺たちはようやく学校へと歩き始めた。




ー-----------------------



 アリス先輩との一悶着の後、10分ほど歩くと校門が見えてきた。ウチの前で長々と話しすぎたせいで遅刻寸前だ。


 というわけで今通学路を歩いている学生は俺とアリス先輩の2人だけという状態である。


「ところでアリス先輩、そろそろ学校に着くわけですが、いつチョコをくれるんですか?」


「ごめんね、今渡すことはできないの。だって私今チョコ持ってないし」


「え、もしかしてチョコくれるって嘘だったんですか?」


「そ、そういうわけじゃないわ!今手元に無いだけなのよ!学校に着いたら渡すから!」


「え、でも今手元に無いなら学校で渡すのも不可能なんじゃ...」


「まあ、学校に着いてからのお楽しみってことで!」


「はぁ、そうですか...」


 今手元に持ってなくて学校で渡す?本当にそんなことできるのか?


 先輩の言葉に疑問を持ちながら数分歩いていると学校の正面玄関に辿り着いた。


 そしえ上履きに履き替えるために1年6組の下足箱の方へ移動しようとしたのだが、なぜかアリス先輩まで俺に付いてきた。


「アリス先輩?先輩は2年生ですよね?なんで1年6組のところに来てるんですか?」


「え、なんでってチョコ渡すためだけど。ほら、ダーリン、自分の下足箱を見てみて!」


「はい?まあ見るのはいいですけど...」


 そして俺は先輩の指示通り『田島亮』と書かれたネームプレートの下にある自分の下足箱を見てみた。


 よく見ると下足箱の扉が半開きになっており、中から水色のリボンがはみ出している。なにやら中には大きな箱が入っているようだ。


「先輩...?なんか箱入ってますよね...?あれなんですか...?」


「よくぞ気づいてくれた!あれが私のとっておきの手作りチョコ!ワンホールのチョコレートケーキよ!」


「アホか!あんたなんてモノ学校に持ってきてんだ!もうちょいサイズ考えろよ!」


「そんなに怒らないでよ...私のダーリンへの愛の大きさを知ってもらうために一生懸命作ったのに...ぐすん」


 あ、やばい。衝撃が強すぎてつい強めの口調になってしまった。先輩が怯えて涙目になっちゃってる。


「先輩、すいませんでした。つい驚いて言い過ぎました。俺、こんなに手の込んだものをもらえるなんてとても嬉しいです。ありがとうございます」


「ほんとに!?えへへ...喜んでもらえて嬉しいな!」


 アリス先輩はその場でピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。なんか犬みたいでかわいいな...


 そんなかわいらしい先輩を見てニヤニヤしていると、俺は不意にあることに気づいた。


 ケーキって冷蔵庫とかに入れとかないとヤバいんじゃね?


 そう思った俺は先輩にケーキの保存手段があるか聞いてみることにした。


「先輩、ケーキくれたのは嬉しいんですけど、これ冷蔵しとかないとマズくないですか?」


「あ、それは心配しなくていいよ。その箱自体がミニチュアの冷蔵庫になってるから」


 ...はい?


「えーと、それどういうことですか?」


「パパの知り合いに電化製品会社の社長がいてね。パパを通してその社長さんに頼みこんで会社に居る研究員の人たちを総動員してもらったの。その人たちにこの箱を作ってもらったわ」


「えぇ...そんなことしてたんすか...」


 なんだよそれ!大掛かり過ぎるだろ!この前のRBIの裁判なんか比にならないくらい大掛かりだわ!


 つーか、その話絶対裏で大金動いてるだろ...金持ちなのは知ってるけどもうちょいマトモなことに金使ってくれよ...





「じゃあ私そろそろ教室行くね!後で味の感想聞かせてね!じゃあバイバイ!」


 そして用を済ませたアリス先輩は自分のクラスの下足箱の方へと向かって行った。


 はぁ...アリス先輩からチョコ貰えたのは嬉しいけど、なんか朝からドッと疲れたな...学校来たばっかだけどもう帰りたい...

 

 そうやって脳内で現実逃避していると、俺は不意にたった今新たな問題点が浮上したことに気づいた。








「このデカイケーキどうやって教室に持っていけばいいんだ...」


 

 


 

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