第3話 素直になれない幼馴染
-side 市村咲-
中学1年生の冬休み中。インターネットで亮に近づく方法を必死に調べた私は、今の性格を築き上げるネット記事に出会った。
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ツンデレになって気になる相手を振り向かせちゃえ☆
・その1
気になる相手に少し冷たい態度をとってみよう!
あなたの変化に戸惑って相手はあなたのことが気になるはず!
・その2
冷たくするだけではダメ!
遠回しに相手を褒めたり感謝の気持ちを伝えたりしよう!
冷たかったあなたに急に褒められた相手は、余計あなたのことを考えてしまうはず!
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と、記事の内容は大体こんな感じだった気がする。
そして当時、ツンデレについてよく分かっていなかった私は、とりあえず記事で書かれていた〈その1〉を試してみることにした。
「冷たくする、かぁ。うーん、どれくらい冷たくすればいいんだろう......そうね、まあ......中学を卒業するまでずっと冷たくし続ければ効果が出るかしら?」
そんな天地がひっくり返るレベルの勘違いをした私の迷走劇は、まさにこの瞬間から始まっていた。
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中学1年生の3学期から卒業式までの約2年間。私は亮とともに登校するために毎朝彼を迎えに行き、家から学校までの一本道を一緒に歩いて登校した。
そして私は登校中に【ツンデレへの道、その1:亮へ冷たく接すること】を心がけてみたの。
「寝起きの顔はだらしないわね」
「さっさと歩きなさいよ」
「遅刻したらアンタのせいだから」
みたいな感じで冷たい言葉を登校中にずっと亮に言い続けみたのよ。
まあ今考えれば、ただのヒステリー女でしかないんだけど......
けれど、そんな私の言葉に対する亮の反応は意外なものだった。
「お、今日もご褒美タイムあざす」
亮ったら、なぜかそんなことを言って私の悪口を喜んでたのよ。それで、まあ当時の私は『冷たく接する効果が出たのかな?』って思ってチョット喜んだりしちゃったの。
えへへ! まあ、それも全部私の勘違いだったんだけどね!!(泣)
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結局、私が自分の盛大かつ残念な勘違いに気付かされたのは中学校の卒業式の日のことだった。
その日は私、亮、亮の妹の友恵ちゃんの3人で帰ることになったんだけどね。その時の私ったら、久しぶりに3人で帰れるのが嬉しくてとっても舞い上がっていたの。
まあ、その舞い上がったテンションのせいで......私はとんでもないことをしてしまったんだけど。
えっとね、その、はい。白状すると、私はテンションが上がりまくっていることを隠すために、いつもより冷たい言葉ガンガン亮に浴びせ続けちゃいました。それも友恵ちゃんがそばに居るのに、友恵ちゃんがちょっと引いちゃうレベルで亮のことをディスっちゃいました。あの日に限って言えば、私はフリースタイルダンジョンのラッパーさんみたいになっちゃってました。
うぅ......あの時のことを思い出すだけで頭が痛くなっちゃいそうだよぉ......
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そんなアバンギャルドな下校を終えた直後。少し冷静になり、自分がとんでもないことをしてしまったことに気づいた私は、下校中に驚かせてしまったことを謝るために友恵ちゃんにSNSでメッセージを送ることにした。
『友恵ちゃん! 今日は驚かせてごめんね!』
すると返事はすぐに来た。
『いやいや、確かに驚いたけど全然気にしてないよ。まあ私は、咲さんは兄貴のことが好きなんじゃないかなって思ってたから、まさかあんな風に悪口を言うなんて全然思ってなかったけど笑』
「ふぇ!?」
友恵ちゃんがサラッと『私が亮のことを好きだ』ということに気づいている素振りを見せたので、驚いた私は思わず変な声を出してしまった。
『え、えっと、じゃあ......友恵ちゃんはいつから気づいてたの?』
『うーん、小学校の時かなぁ。あ、もしかして私の勘違いだった?』
えっと、はい。大正解ですね。しかもとっくの昔にバレてたんですね。どうしよう。なんか急に恥ずかしくなってきちゃったんだけど。
『そ、その......咲さんはさ、なんで兄貴にあんなに冷たくしてたの?』
『え、えっと、それは......』
この質問に答えるということ。それはつまり、2年間誰にも相談せずに私がやってきた行為について、初めて他人に話すという意味を持つ。
けれどこの時点で色々バレていた私は、もう友恵ちゃんに対して隠し事をする気なんて残っておらず、私が二年間亮に冷たくしてきた事と、その理由をメッセージで事細かに伝えることにした。
そして私の長文メッセを読んだ後の友恵ちゃんの反応がこちら。
『いや、咲さん何してんの...』
......呆れられた。一つ年下の子に呆れられた。
『ねぇ、咲さん? よく考えて? 毎朝自分に粘着して悪口言ってくる人に対して好意を抱くことってさ、そんなことあると思う?』
まあ思いませんよね、普通。
ていうか......
もおぉぉぉぉぉぉ!!! なんでそんな簡単なことに気づかなかったよ、私ぃぃぃぃ!!!
『あ、でも......亮は悪口言われて喜んでたんだよね。あれってどういうことだったんだろう......』
『ああ...それは...』
『? それは?』
『え、えっと、その.......兄貴って多分Mなんだよね。私が普段兄貴に文句を言ってる時もたまにニヤニヤしてるし。家の外では兄貴を罵倒する人なんて滅多にいないから目立たないけど。だから、その......うん。多分兄貴は興奮してただけだと思うよ』
想い人の隠れた性癖を知り、自分の行為のバカさ加減を知った瞬間であった。
『だから冷たくされたって別に咲さんのこと気にしたりしないの。ただ兄貴自身が喜ぶだけなのよ』
『そ、そんなぁ.....じ、じゃあ今まで私がしてきた事って...』
『え、えっと、うん。申し訳ないけど全然効果が無かったと思われます』
その友恵ちゃんの一刀両断によって、私はようやく自分の間違いに気づくことが出来たのだった。
ちなみに私はこの時のショックが強すぎて、春休みの間の記憶がほとんど無い。
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かくして私達の中学生活は終わり、あっという間に春休みが明けて高校生活が始まった。
あ、ちなみに今私と亮が通っているのは天明高校ね。亮は陸上の特待生枠で、私は一般入試枠。家から近いし、偏差値も全国的に見て高いし、駅伝も強いから、勉強が得意だった私と足が速かった亮が通うには、まさにうってつけの高校だったのよ。
で、まあ私は一応高校に入学してからは亮に対する態度を変えるつもりだったのよね。クラスも一緒になれたし、亮との距離を縮めるために素直になるつもりだったの。もう冷たい態度は取らずに、ありのままの私でいられたらいいなぁ、って。本気でそう思ってたの。
でも......そのつもりだったんだけどね。今までずっと冷たくしていたのが裏目に出て、今更どんな顔をして亮に近付けばいいのかなって思っちゃって。結局私は......どうすればいいのか全然分からなくなっちゃったの。
そして亮が駅伝部に入ったことで以前よりも近づけるタイミングが少なくなって、私達の距離はまた離れていった。
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結局何もできないまま季節は巡り、気づけば5月になっていた。
そして、ちょうどその時期に亮は彼女--仁科唯さんととても仲良くするようになっていた。
仁科唯。亮と私のクラスメートで、亮と同じ駅伝部の女子生徒。背が高くて、モデルさんみたいなスタイルで。黒髪ロングヘアーが良く似合う美人な女の子。
あ、あとはその......胸がとっても大きい。ま、まあ別に羨ましくともなんともないんだけどね!!
大事なことだから繰り返すわよ! 別に羨ましくなんてないから! 自分の小さい胸と比べて絶望なんてしてないし!
だ、だって私はまだ成長期だもん......伸び代があるんだもん.....これからもっとグラマラスになるんだもん......
って、そんなのはどうでもいいのよ! そう、仁科さん!
仁科さんはね、その容姿と明るい性格から男女共に人気を集めるクラスの中心みたいな子なの。
で、まあそんな子が亮と仲良くしてたら、もちろん焦るじゃない? 仁科さんに亮をとられるんじゃないかって不安が一気に押し寄せてきたりして。
で、まあ私は何か行動を起こさないといけないと思ったのよね。
でも、態度をいつまでも変えられない私は、間違いと分かっていても自分が知っているやり方でしか亮に近付けなくて。素直にならなきゃいけないって分かってるのに、どうしても素直になれなくって。
そして......行動を起こさなきゃいけないって気持ちが空回りした私は、亮が仁科さんと仲が良さそうに話すのを見るたびにSNSで亮に罵詈雑言を送るようになっちゃったの。嫉妬する毎に酷い言葉をかけるようになっちゃったのよ。
--そう。あの『亮との酷いトーク履歴』は、素直になれない私の、とってもメンドくさい部分から生まれたものだったの。
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