二人は都合の良い関係

Fuck youクタバレェッ!! イエロォォーモォォンキィィィイ~~ッ!!」


 間髪入れず連続して稲妻が地上へと降り注いでいるかのような爆音が暴れ回るそこは現魔王が根城とする塔の袂。

 謀反の恐れありと魔王により駆り出された者が二人、些細な言い合いから発展し殺し合いを繰り広げていた。


「おーおー……イエローとニガーが喧嘩してるぜ。お猿の頂上決戦だな。片方はもはやゴリラだが」


 岩陰に隠れながらその二人を覗き見るのはクラッシュ。

 彼の言うように、喧嘩をしているのは黒い覆面をした黒衣のノーズリーブの東洋人と両腕を巨大なガトリング砲にしている黒人の大男の二人であった。

 東洋人は所謂忍者風の出で立ちで、二本の大小の刀で巨漢の黒人が放つ弾丸の嵐を弾き時には避け、巨漢の方もそれを追い掛け容赦なくベルト弾倉を砲に送っていた。

 巨漢は忍者を近づけまいとし、忍者は巨漢に近付こうとしながらもその猛攻の前に攻めあぐねている。

 クラッシュはそんな二人の光景を他人事のように語ると、ケラケラと笑いながら同じ岩陰に隠れているフェチーネにも言ってやろうとしてその方を向くと、直後にクラッシュの額にナイフが突き刺さった。

 無論、そのナイフはフェチーネの物で、何ならば彼女が彼に向けて放った物でもあった。

 大型のナイフなので、眉間から額まで深々刺さったそれを何が何だか分からないと言った様子で見上げるクラッシュであったが、彼の眼前でフェチーネは不機嫌そうな顔をして言った。


「このお馬鹿者め、肌で人を差別するではない!! それを言ったら妾はどうなるのじゃ? お主は妾のこともそのように差別しておるのかえ!? どうなのじゃ、このバカクラッシュ!!」

「ふえぇぇ……? にゃにいってりゅのかにょ~くわからにゃいにゃあぁあぁ~~??」

「お馬鹿者!!」


 プリプリ怒るフェチーネだったが、ナイフが脳まで達していたクラッシュは彼女の言葉を理解できないようで、両目をぐりぐりと回しながらふらふらとその頭を風に揺れる草のように左右に揺らしていた。

 その様を見て呆れて溜め息を吐くフェチーネは、徐に彼に刺さったナイフの柄に手を掛けると、今度は逆に勢い良くそれを引き抜いてみせる。

 すると噴水の如く鮮血を額の切れ目から溢れさせるクラッシュ。しかしその傷も程なくして塞がると軽く二、三度頭を振った後、落ちそうになったテンガロンハットを直しながら彼は表情を引きつらせて言う。


「いやいや、お前の肌はエロいがあのゴリラの肌はそうじゃねえよ!? お前のはそう……美味そうな色だ!! 程好ぉ~く焼いたトーストみたいな、味わい深くて……まあ、そんな感じ。でもあのゴリラは言うなりゃあ真っ黒焦げになった失敗作のチキンだ。焼き過ぎてて肉は硬ぇ表面は炭化してて食えたもんじゃねえ。分かる? 分かるか、この違い。俺には分かるよぉ? だってお前とは何度も愛し合った仲なワケだし?」


 そこまで言って、何を思ったのかクラッシュの眼球が静かに動きその瞳は巨漢の男を見る。そして「……別にアレとも寝たって意味じゃねえよ?」と補足。

 すると腰に手を当て威圧感を醸し出しながら彼の弁明を聞いていたフェチーネがまた溜め息を落とした。彼女もまた徐に頭を振りながら「もうよいわ……ドエロ勇者につける薬はないと良く分かったしの。早う行こう」と言ってクラッシュの横を通り抜けて行ってしまう。

 クラッシュはそれを始めこそ目で追い掛けたが、眼球がそれ以上横を向くことが出来なくなると慌てて振り返りフェチーネを追い掛けた。


「そー言うてめえこそ魔王のクセに常識的過ぎんだろ!! 元魔王か。ってそーじゃなくてだなあ!! 悪かったって! もうニガーとかそう言うこと言わねえから!! なあフェチーネよぉ~! 頼むから俺とはもう寝ないなんて言わないでくれよぉ~~?? もう俺はお前無しじゃマスかいても別とエッチしても満足出来ねんだよ!! これ、世紀の大暴露なんだかんな!? メッチャハズいし、お前だからぶっちゃけたんだよ~ん!? ねえってば大魔王様フェチーネ様ぁ~ん!! この哀れなセックス依存症駄目勇者を見放さないでくれよぉ~~!!」


 言いながらフェチーネを追うクラッシュに、彼女は振り返ることなく「はん」と鼻で笑いながらひらりと手を振るばかり。

 クラッシュの泣き言は尚も止まず、二人は遂にゴリラと忍者が開けたままの塔の出入り口からそこに侵入することに成功するのであった。

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