二人はガンスリンガー
そこはバレットシティ。
その名の通り、銃こそが正義にして銃弾こそが法の町。
銃声が響き渡る。薄い壁には幾つも穴が空き、時には爆ぜて吹き飛びすらする。
来店を知らせるカウベルにも銃弾が命中し、けたたましく鳴り響く中でひっくり返ったテーブルの影に飛び込んだのは浅黒い肌に黒く長い髪を持ったフェチーネ。
彼女は飛び交う銃弾を頼りない木製のテーブルで射手の視界から隠れることで凌ぎつつ、傍らでこめかみに風穴を開け、そこから内容物を垂れ流しているクラッシュことクラッシャー・ビートダウンを見遣る。
するとノコギリの刃のように鋭い歯が並んだ口に笑みを浮かべたフェチーネはそんなクラッシュの襟首を掴み上げ、片手で大の大人であるクラッシュを持ち上げるとテーブルから飛び出した。
「――はっ!? 俺は!? また死んだのか!? ぐえぇえっ!?」
その間にもこめかみの穴が塞がり、ぐちゃぐちゃになった脳が再生したクラッシュは意識を取り戻した。そして己はどうなったのか思い返していると、そんな彼の額に弾丸が命中しクラッシュは再び死亡。
「そうじゃ! おちん坊やと違い情け無い奴じゃなぁ~……おや? もう死んでおるではないか。かははっ! やれやれなのじゃ!!」
クラッシュ本日二度目の死をフェチーネはけらけら笑いながら、右手に持った白銀の大型拳銃を左手に盾のようにぶら下げたクラッシュの脇から前方へ向けて突き出すと引き金を絞り、発射された大口径の弾丸は対峙するガンマンの一人の頭を風船のように破裂させる。
残るガンマンは三人。一番手近に居る細身のガンマンへと、相変わらずクラッシュの体で飛来する弾丸を防ぎつつ、突撃を敢行するフェチーネはそれに肉薄すると共にクラッシュの遺体をガンマンへと押し付け壁との板挟みにさせる。
血塗れのクラッシュを押し付けられ呻き声を挙げるガンマンを前にし、口裂け女のように頬まで笑みを持ち上げたフェチーネ。彼女はクラッシュの背中に銃口を押し付けると、繰り返し引き金を絞る。
ガォン、ガォン、ガォンッ! と、まるで獅子の咆哮が如き銃声が轟くと辺りは一瞬の静寂に帰る。ずるりと、そしてクラッシュと壁の間からずり落ちるのは腹部に三つの風穴を空けて事切れたガンマン。
煙を上げる拳銃を下げながら、相変わらずの凶悪そのものな笑みを携えるフェチーネを見た残りの二人のガンマンはそれに底知れぬ恐怖を覚えるものの、「
クラッシュを振り回しながら身を翻し、飛び交う銃弾が描く渦巻く直線の合間を縫うように舞うフェチーネは、時に躱せぬ弾丸をクラッシュの遺体で受け止める。
するとその内の一発が彼の左の尻に命中し、血が噴き出した。
「いっ――てぇぇぇえっ!? んだぁ!? ケツが……焼けてるみてえだ!! どうなってる、フェチーネ!?」
「ようやく生き返ったか? それとも居眠りしておったか!? どちらでも良いが我がスミスが弾切れじゃ。ウェッソンを使う故、クラッシュやお主が左のならず者を殺れい!!」
いきなり何なんだとぶー垂れるクラッシュであったがそれとは別に体はフェチーネの言う通り、まずは彼女の左の太ももにあるホルダーに収まったもう一丁の白銀の大型拳銃を取り出すと、それをフェチーネへと放る。
彼女はスミスと呼んだ右手の拳銃をいったんカウンターの方へと放り投げると空いたその手にクラッシュが投げたウェッソンを取る。
そしてクラッシュはクラッシュで、己の左の太もものホルダーからシリンダーの埋め込まれた黒鉄の拳銃を抜き取る途中で撃鉄を速やかに起こし、そしてフェチーネに言われた方へと銃口を向け構えた。
二人は左右にそれぞれの銃口を構え、それぞれの紅と虹の瞳が狙いを付ける。その向こうでは焦りから発砲を繰り返しては標的を外すガンマンの青くなる顔が浮かんでいた。
悪魔のような笑みを浮かべるフェチーネと、キリリと表情を引き締め癖から下唇を僅かに突き出したクラッシュ。両者は合図も何も全く無しに、全く同時に人差し指を掛けた引き金を絞る。
獅子の咆哮の如く勇ましいフェチーネの愛銃の銃声と、研ぎ澄まされた刃が如き鋭いクラッシュの愛銃の銃声が重なる。
正反対を向いた二つの銃口から放たれた二発の弾丸は、ガンマンらが放つ当てずっぽうの弾道の中を真っ直ぐに飛び、そしてそれぞれが二人のガンマンの眉間を撃ち抜いた。
まるでスローモーションかのように見えるフェチーネとクラッシュの見事な連携から放たれた銃弾が獲物を仕留めた直後に鈍化した世界は終わりを迎え、後頭部から血飛沫と共にピンク色の内容物を噴き出しながらガンマン二人は倒れた。
そうして、その確実な死を見届けた二人はそっと煙を上げる銃口を口元に寄せてそれを吹き飛ばす。ただしその直前に掴んでいた襟首をフェチーネが放したために不意に着地したクラッシュは思わず転倒してしまい、口元に寄せていた銃口がその口に入ってしまう。
しかもそのまま弾みで引き金を絞ってしまったものだから、彼は自らの頭を撃ち抜く羽目になり、今日三度目の死をガンマン兄弟たちと迎えることとなるのであった。
「全く、死ぬのが好きな奴じゃな、お主は」
テンガロンハットを被り直しながら、クスクス笑うフェチーネが言う。
彼女はカウンターの裏に隠れているはずの店主に声を掛けると、その声に反応して顔を出した彼が恐る恐る差し出した愛銃スミスとそして酒瓶を受け取りつつ「代金はそこに転がってる連中持ちじゃ」と告げてその酒瓶を煽りつつスミスを揺らして見せ別れの挨拶にする。途中蹴っ飛ばされて目を醒ました、甦生直後のクラッシュを引き連れて。
「あンだよ……もー、何が何だか分からねえ。今日は脳みそぐちゃぐちゃにし過ぎたぜ」
「まったくじゃ。お馬鹿者め。さて、飯も酒もたらふく飲み食いしたし、では行こうとするかのぉ……」
完全に破壊され尽くした出入り口から外に出ると、やはり容赦のない日照りが二人を襲う。
それを嫌がり目深に帽子を被って文句を言うクラッシュとは裏腹に、フェチーネは太陽と並んで空までそびえ立つ巨大な塔を見上げては不敵な笑みを浮かべるのであった。
手にしたスミスをその塔の頂へと向け、「ばーん」と口で銃声を鳴らした彼女は言う。
「……魔王の首を取りに」
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