BRAVE&DEVIL

こたろうくん

二人は過去の人

 そこは荒野のウェスタン。

 魔王により支配された、人間にはどうにも生き辛い弱肉強食の世界。

 それでもどの種族よりも人間が一番多いって言うんだから、色々なところで星のガンだの病原菌だのノミだのとディスられるだけのことはある。

 戦いは数な訳だが、しかしもはや人間には魔王の支配だとかそんなことはどうでもよくて、人間同士だったりたまに異種間で喧嘩ばかりしていた。

 勝った負けたの勝負事が皆は大好きだった。だったらどうして魔王に挑まないのか。それは簡単。負けしかない勝負は勝負ではないからだ。


「世知辛ぇよなぁ……これでも俺は昔はそりゃあ勇者だなんだともてはやされたもんだがよぉ~。今じゃ体しか取り柄のねぇクソ女ビッチとガス抜きセックスしながらあてどなく荒野をさ迷うばっかり……ムラムラしてきた。ちょっと一発頼むぜ」

「ヤじゃ、お馬鹿者。エッチは一日一回と決めたであろう。それに妾はそういう気分ではないのじゃ」

「はァ~ッ!? ふざけんなよ! じゃー俺のギンギンな息子はどーしてくれん――だッ!?」


 からりとした空が広がり、お日様を避けて通る雲たちのお陰でお釈迦様のフライパンの上が如く灼熱に包まれる荒れ地に、威勢の良い銃声が響き渡った。

 その音に導かれて、死肉食らいの首長鳥が巣より飛び立ち空に待った。彼らは銃声が何かを理解しているのだ。それが鳴ると、自分たちのご馳走が出てくるのだと。


「ああ~~っ!? 俺様の息子がぁ!! 息子ぉ~……ひっでぇなぁもー……シクシク……」


 ぼたぼたと赤黒い血を垂れ流しながら、膝をついた男の股座にはぽっかりと風穴が空いていた。

 テンガロンハットを被った金髪のお下げ頭のその男はそんな自らの股間を見下ろしながら、虹色の瞳から溢れ出してくる涙で頬を濡らす。


「そこにはもうお主の愚息は居らぬ……かわゆ~い奴ではあったが、聞き分け無かった故な。躾のつもりじゃった。今は後悔しておる。なんせほれ、あんなところで鳥に啄まれておる。憐れなおちん坊や……」

「ちょ……ちょ~そぉ~っ!!」


 くねりとジャケットとホットパンツの合間に露出した見事に括れた浅黒い肌をした腰をくねらせながら、手にした白銀の大型拳銃を頬に当てながら至極残念そうに悲しそうに告げる女は、次いで同じように悲しみに暮れている男へと彼が無くした大事なものの行方を手にしたその拳銃で指し示す。

 そして舞い降りた首長鳥がその黒いくちばしで啄むモザモザした亀の頭を見つけた男は悲痛な叫びを挙げると股間に空いた風穴からモツを溢しながらも、大事な大事な一人息子を救出すべく駆け出した。

 途中自分の中身で足を取られ転倒しながら、息子を咥えて飛び立とうとする首長鳥の脚を掴まえ突っつかれぎゃあぎゃあと転がり回るその男をにこにこと笑いながら、息子を男から吹き飛ばした女は見詰める。

 にやりと唇の隙間からギザギザした歯を覗かせる女の黒髪を乾燥した熱い風が撫でた。


「おい、フェチーネ! てめえも笑ってねーで俺の息子を取り戻すの手伝えよ!! おめえの夜の楽しみが無くなっちまうんだぞ!?」


 その風に乗って、目玉を突かれたのか眼球が飛び出している男の嗚咽混じりの声が届く。

 女、フェチーネは拳銃をそっと構えると引き金を引く。ガァン! と派手な銃声が轟き、首長鳥。がその脚に掴んでいる男の息子が木っ端微塵に弾け飛んだ。

 そのまま飛んで行く首長鳥と、ただ呆然と立ち尽くす男。

 フェチーネは歯を剥き、テンガロンハットを被り直すと鼻歌を奏でながら歩き出す。

 男の側を通り過ぎる間際、彼女は言った。


「茶番は終いじゃ、クラッシュ。諦めておちん坊やを早う生やせ。次の町で喉を潤し腹を満たしたなら、いよいよ塔へと乗り込むぞ!!」

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