第2話 戦い。決着
ふと、目が覚めた。
天窓から太陽の位置を確認する。位置的に十一時前と言った所か。
時間丁度に起きることができた。
さて、そろそろ向かうとするか。
そう思い俺は簡易な作りのベッドから体を起こす。その時、ベットが大きな音を立てて軋んだ。
これまた立て付けたような扉を開け、一人山の奥へと進んでいく。鍵はかけない。かけても意味をなさないからだ。
険しい山道を十分ほど歩いて、大きなクレーターがある場所へたどり着く。草も生えていない、殺風景で無味乾燥な土地。そして一番の目印は大きなクレーター。これはどうやら、遥か昔に『怪物』が抉り取ったとか、単に隕石が落ちたとか、南東の国が新たな兵器を開発してそれが当たったなど、いろいろと伝説がある。だからここは「伝説の地」だなんて街の人は言っているらしい。
そんな窪みの中心点であいつが来るまでの時間を待つ。
さて、後数秒と言ったところだろう。
俺は使い古され、それでいて手入れはしっかりとした剣と小さな盾を握りなおす。
すると、空中から翼が空を切る音が聞こえてくる。
そして、あいつが俺の目の前に降り立った。
今までに何度も見た。そのどす黒い表皮、その体に似合わない空を飛ぶためだけに発達したような翼。人間をそのまま大きくして、ありったけの筋肉を継ぎ足したような肉体。
そう怪物だ。
怪物という分類で怪物と言う名称。
ただただ恐怖のあまりそれ以外の名称を付ける事が出来ず遥か昔からそういわれ続けている。
そして、怪物は俺をギロリと睨むと息を吸った。
「グァァァォォォォウ!」
咆哮と共に怪物はその剛腕で勢いよく俺を殴りつける。
すかさずそのパンチを躱す。怪物の腕は空を切る結果になった。
怪物は勢いをつけすぎでバランスが崩れ、隙だらけだ。しかし、決して攻撃にはでない。この程度の隙であればよく見るし、これ程隙を見せても差し支えない表皮があるからだ。
もし狙うとするなら掌や首回り、まあ表皮にも攻撃が入らないわけではないのだが……。
まあしかし、それは結局『もし』の話だ。
攻撃なんてしない。
その後、俺は怪物の攻撃を躱し続けた。比較的素早いパンチは相手の動きに合わせて右によけたり左によけたりする。
蹴りが来た時は長い溜めの隙を見て余裕をもって後ろに下がる。
また怪物の攻撃が来る。今度はジャブのように振りかぶらず殴ってくる。
その速い攻撃はさすがに躱すことはできない。
そう思い俺は躱さずに盾に全体重をかけて怪物の攻撃にを受ける。そしてすぐに次のジャブだ。これは敢えて力を抜いて受ける。受け流すのではなく力を利用する。
相手のパンチを盾で受け、脚を浮かせて後ろに飛ぶ。そうする事で怪物との距離を取る。
そして怪物が放つ三発目のジャブは地面を叩いた。
だが、そのパンチは地面を深く抉った。
「おいおい、これでジャブとかふざけすぎだろ……」
思わず心の声がこぼれてしまう。
「グゥゥゥゥゥ」
立て続けの攻撃で怪物も少し疲れている様だ。
まあ、少しだが。
さて、距離は取れた事だし、ここからは持久戦だ。相手が近づけばこちらも併せて距離を取る。
ただ、直線ではいけない。それでは距離はすぐに縮まる。できるだけ弧を描くように怪物を中心とした円を描くように移動する。
怪物は俺をじっと見つめると、脚を折りたたみ体を屈めた。
「……やばい!」
鳥肌が立ち、全身の毛が逆立つ。
これまでの長い経験から感じられる危険信号だ。
俺は弧を描くでも怪物を中心に円を描くようにでもなく、ただ全速力でその場から離れた。
すると、怪物は先程まで俺がいた場所に向かって大きく跳躍した。
その速度は目では到底追う事が出来ない。
そして怪物は俺を捉える事が出来ず、ただ岩山に突撃した。当然、ぶつかった岩は全壊だ。
もし、バリスタ並みの速さで砲丸以上の重さの物体がぶつかってきたら、と思うとゾッとする。
俺は二発目が来るんじゃないかと、すぐ動けるようにステップを踏む。
そして怪物を纏う砂煙が晴れ、怪物が姿を現す。
怪物は渾身の一撃が回避された事に業を煮やしたようで、どす黒い表皮からでもわかる、深紅の血管が滲み出ている。
そして怪物は大きく息を吸い込んだかと思うと、これまた大きく咆哮した。
「ぐっ……」
思わず耳を抑えてしまうほどの咆哮だった。
「くそ、威嚇するならもっと静かに咆哮しやがれ」
そう俺が言うと、空からまた何か切り裂く音が聞こえてきた。
「なんだ……まさか!」
「おい、おいおいおいおいおいおい!」
すると、空からもう一体の怪物が降りてきた。
先程の咆哮が威嚇?
笑わせる。先程の咆哮は威嚇でもなんでもなかった。ただ、鬱陶しい相手を殺すためにもう一体の仲間を呼んだだけだったのだ。
「くそったれが」
俺は二体の怪物を同じ直線状になるように距離を取る。
そうする事で先程見せた様な全身全霊の突進をできなくするためだ。
しかし、俺の浅はかな考えなど、奴らには通用しなかった。
前方にいる怪物は俺に向かって屈みこんで溜めるような真似をせず、足首の力で俺に突進してきた。
しかし、これならまだ躱せる。
そう思い俺が横方向に移動した時だった。
後方にいた怪物はなんと、翼を広げ飛んでいたのだった。そして飛翔した怪物は俺が回避した方向に向かって、全速力で下降してきた。
足にさらに力を入れて、走った。
怪物の空中からの攻撃は何とか回避する事は出来た。が、怪物との距離はすぐに近づいてしまった。
そして怪物は間髪入れず俺を攻撃してくる。
まずは右のジャブから、そして左。
一体目がそうしている間に二体目は俺の後ろに回り込み俺を仕留めようとしてくる。だが俺は一体目の隙を見て、そいつの股をくぐる。
そして二体目の渾身の一撃を回避。
股を潜られた一体目は、振り返り俺にもう一度ジャブをかましてくる。俺はそれをギリギリで後ろに躱していく、しかしそれが相手の罠だった。俺が回避した先は後ろに岩があり、これ以上後ろに行くことができない。
「くそっ!」
怪物は俺に思いきり腕を振りかぶり殴りつける。ギリギリでそれを回避する俺だったが、しかし二体目の怪物も俺に向かって拳を向けていた。
横っ飛びで必死に回避するが、怪物の拳は俺の足先を捉えた。
「ぐあっ……」
バキバキと骨が砕かれるような音がした。
俺は怪物との距離をできるだけ取り、その場にへたり込む。
空を見上げると、太陽はかなり傾いていた。
「ふう…………」
怪物は悠々と俺に近づいて来る。
俺の目の前で立ち止まった怪物は、爪を立てて腕を高く振り上げた。きっと今までよりも遥かに強いパンチが、立てた爪と一緒に繰り出されるのだろう。
「……残念、これまでだ」
怪物が高々と振り上げた腕を勢いよく振り下ろす。
「3、2、1……」
俺のカウントと共に怪物の拳は俺を捉えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます