霞-genocide-

割れたガラスの窓のかけらは新聞紙に包まれて、学校のとあるところにある戸棚に保管されていた。

そのガラスのかけらは何も言わない。

物言わぬ物だ。


少年が立っていた。

意味は無い。

少年は何かを失ったのだろうか、自虐的な笑みをうっすらと浮かべ立っている。

少年はとぼとぼと歩き始めた。いや、歩き始めたでは明確な目的があるように見えてしまう。徘徊し始めたが正しいだろう。

何を考えてるか分からない。

暫く徘徊を続けていると少年は異常なほど厳重に封印されている戸棚を見つけた。

ここまで厳重な理由が気になってしまった少年は封印を解き、戸棚を開けた。

中には新聞紙の塊があった。それ以外は何もない。

少年はその塊が気になった。

新聞紙を乱暴に引き裂き、中身を確かめた。

ただのガラスの破片だった。

だが、普通のガラスの破片のように見えるそれは強烈に存在感がある。

何となく少年はこのガラスの破片で誰かを刺してみたいと思った。

奇妙な話だが、それほどまでに絶望していたのだろう。


ガラスの破片は何も言わない。だけど、喜んでいる。

数多の魂を切り刻んできたガラスの分子は、その時を待ちわびる。

刺せば、魂は、切られて、霧散する。

そんな、悲しくも禍々しいガラスの破片。

次は何を望み、何を代償とするのか。


少年は最初に少年の妹の友達だった奴を刺し、次に妹の担任、その次には両親。

少年は完全に物言わぬ者となってしまった。


ガラスの破片が望む代償、それは、少年の情緒と少年の体の制御権だった。

少年はそれを了解してくれた。

ガラスの破片は少年の望む結果をあげたのだ。

ガラスの破片は動く体を手に入れて、少年は欲しかった未来を手に入れた。

無色透明のガラスの結晶体は、数多の魂をまた削り始める。そして、最終的には数多の魂を殺めるのだろう。

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