第12話 異世界

「え、なんか違くね」

「何の話をしているんだお前は」


 お互いに怪訝な顔をする。


「いやだって普通こういう時って、食べた人の体から何かオーラ的なモノが芽生えたりとか、体全身に謎の痛みが発生したと思ったら、急に異能力的なモノが使えたりとか、そんな感じじゃないの。まさかこれらもフィクションの世界にしかないパターンなの」


「阿保か。そんなわけなかろう。アニメや漫画の見過ぎだ。現実を見ろ」


 結構冷めた言い方をされた。


「でもまあ、」


 悪戯な笑みを浮かべて彼女は言った。


「いい目になったじゃないか。私は好きだぞ。お前のその瞳」


 意味が分からなかった。目に何か特別変わった感覚があるわけでもないし、見えないものが見えるようになったわけでもない。試しに数回瞬きを行ったが変化はない。彼女は何を言っているのだろうか。


「なあに、時期にわかる。お前は『異世界』主人公だからな。道中必ずそれに纏わる事件やら、揉め事やらに巻き込まれる。主人公補正と言ったか、そうそう死にはしないだろう。そうやっていくうちにその力を使いこなせるようになるはずだ。だから安心して行って来い」

「せめて、特別な力の概要だけでも教えていただけないでし―――」

「悪いがもう時間だ。さっさと異世界に行ってこい」


 …。

 この『天使』本当は何も知らないんじゃないのか。もしかして、ランダムに力が身につく系で、上内にどんな力が宿るのか試したとか?そもそも、こいつはさっき、時間は無限にあるって言っていた。何なら、時間そのものを捻じ曲げてやろか、とも言っていた。怪しい。

 上内は『天使』に冷たい目線を送る。


「なんだその目は。私がその力について無知だ、とでも言いたいのか。残念ながらその力について唯一の有識者は私だ。が、私から説明したところでお前に理解できるはずがないし、それだと意味がなくなってしまう。『異世界』主人公はストーリーが進むにつれて能力を使いこなし、その上で新たな力を手にするのがテッパンだろう。私を信じろ。あの異世界は『異世界』主人公の都合のいいように作られている。今の状態でも必ず理解できるようになるさ」


 そう言って『天使』はパチン、と指を鳴らした。

 一面真っ黒だった世界に亀裂が入り、パリン、と崩れた。おそらく太陽の光だろうか、目が暗闇に慣れていたせいで、急な光に目が耐え切れず上内は数回、瞬きをする。

 目がようやく慣れてきたのかあたりを見渡すと、そこは。


「どこだよ、ここ…」


 一面砂漠だった。四方どこを見渡しても砂砂砂。砂で作られた山がところどころあった。


「さっ、異世界についたことだし、私は帰らせてもらうぞ。これでも忙しい身でな。これ以上は付き合いきれん」

「いや、あのー、説明不足すぎませんか?ここは異世界のどのあたりなんですかね。

動物どころか、人っ子一人いないんですけど」


「自力で何とかしろ」


 『天使』に情けはなかった。


「はいはい。何とかしますよ」


 深いため息交じりに上内は答えた。

 と、ここでふと思い出したかのように上内は『天使』に質問する。


「そういえば、最後に聞きたいんだけど、お前の名前はなんなんだ」

「ああ、言っていなかったか、私の名前は―――」


 あとは頑張れよ、上内里留、と彼女は言い残しいつの間にかそこからいなくなっていた。

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主人公を殺す主人公 夢見 夢 @You_Kou

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