第139話【均衡】


 「ケント、ほら。アーンするネ」

 「い、いや、アーンって何だよ。アーンって」


 「別にいいじゃんカ......。私たちしかいないんだシ。ほら、ケント。炒飯好きだろ。」

 「い、いやだよ。は、恥ずかしい」


 本当に、恥ずかしい。

 し、しかも、なんでそんなまた上目遣いで。

 って、なんでそもそも


 「むぅ、なんでネ。昔はケント、私によくやってくれたダロ。だからそのお返しネ!ほら、ケント」

 「む、昔って.....」


 か、かなり昔の話だろ。それ。

 歳が違うだろ。あの時とは歳が

 さすがに今それをするのはちょっと抵抗があると言うか、何というか。

 

 「ほら、私は頑固ヨ、口を開けるネ」

 「.......。」


 まぁでも、これはもう言うことを聞かないと本当に折れてくれないんだろう......。

 リンリンの性格的にも。

 まぁ別に誰も見ているわけではないしな。

 でも、やっぱりおかしいけど......。


 「ふふ、それでいいネ。どうダ、美味しいカ?」

 「まぁ....美味い。普通に」


 「やったネー!ありがとネ。嬉しいネ、ケント!」


 しっかりと美味いけど、でも本当に何だよこれ。

 youtubeをどうやって撮っているか見学に来ただけなのに、いつの間にかアーンって......

 彼女の家で二人っきりでアーンって......

 

 って、ん?

 スマホがさっきからポケットで震えている気がする。気のせいではないよな?

 うん。確かに震えている。着信か?


 誰だ?って、え.....?


 「お、おい。り、リンリン.......」


 「ん? 何ネ?」

 「い、いや何ネ.....じゃなくて」


 ま、また、スキンシップがちょっと......


 「は、離れようか......。」


 さすがにその恰好でこの状況は色々と.....

 本当にリンリンは、き、距離感がいつも......


 「.......。」



 「って、ん? リ、リンリン?」


 ど、どうした今度はいきなり黙って


 「い、嫌カ?ケントは私からこういうコトされるの.......」


 そして至近距離には、そう言って俺のことを一直線に真剣な表情で見つめてくるリンリンの顔

 尚も彼女は俺の首に手を回したまま、力を緩めようとしてくれない......。


 「い、いや、嫌とかじゃなくて、これは......」


 な、何だよその質問は。嫌か?ってどういうことだ

 それに、な、何だその表情は......

 どう考えてもいきなり顔がさっきよりも赤く.......


 「ケント......。」

 「な、なんだ.......」


 そしてまた、スマホが俺のポケットの中では震え続けている様だが、リンリンに抱き着かれてしまっている今、どう頑張っても確認をすることはできない。

 

 てか、な、長すぎないか?

 リンリンも......。着信も......


 「ケント......。」

 「だ、だから、な、何だ」


 こんなに近い距離で、こんな感じで直視され続けるとさすがにちょっと、俺も.....

 色々と考えてしまう。


 例え、これがリンリンだとしても色々と.......


 「彼女、まだいないよネ.......?」

 え?


 「あ、まぁ、普通にいないけど」

 いたこともない。


 「ふふっ、良かった......」

 良かった......?

 

 「ならやっぱり私、我慢.....できそうにないネ」


 って、え?


 「それに、もうこんなチャンスも来ないかもしれないネ......」


 チャンス......?


 「誰にも、ケントのこと。取られたくないヨ......」


 取られたく.....ない?


 い、いや、何だよ。それ.....

 そ、そんなことを言われてしまうと......

 いやでも、いや.....え?

 こ、これは.....え?


 って、そんなことを色々と考えていると、ただでさえ近かった彼女の顔がさらに俺へと近づいていくる光景が......


 え? 


 いや、え?


 「あ、リンリ.......ン」


 え.........



______そしてそこには、眼鏡の男の子と、チャイナ服を着た女の子の唇が優しく重なりあう光景が広がっていた........



 ポケットの中で震え続けるスマホと共に.......。



 もちろん、まだ二人はこの光景がyoutubeに生配信されていることをまだ知らない......

  

  

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