第69話【夏休み 悪魔とパンケーキ】


 「お待たせ致しました。メガ盛りストロベリークリームパンケーキでございます。」

 来た......。

 長い時間、暑い中頑張って外で待ったかいがあったな。


 見た目からして100点。

 クリームが名前のとおりに盛り盛りだ.....。

 良い......。 

 

 「うわー美味しそうだね。」

 「あぁ。美味しそうだな。」


 本当に美味しそう。

 後は彼女の頼んだパンケーキが来るのを待つだけ。


 「ふふ、先に食べてていいよ。」

 「いや......大丈夫。」

 さすがにそこは待つ。


 あぁ......それにしてもマジで美味しそうだな。

 柄にもなく俺はテンションがあがってしまう。


 「お待たせ致しました。トロピカルバナナパンケーキございます。」


 おぉ.......山本のも美味しそう。

 あれ......でも以前に彼女も苺が好きって言ってなかったけ。


 「さ、間宮くん。食べよ。」

 あぁ、そうだ。

 今は一刻も早く目の前のメガ盛りストロベリークリームパンケーキを食べたい。


 「いただきます。」

 「いただきます。」


 「........。」

 「ふふ、どう間宮くん?」

 

 「........お、美味しすぎる。」

 本当に美味しい......

 正直、さっきまではこの状況に後悔している部分もかなりあったけど。

 今の一口で全て帳消し。


 来てよかった......。

 本当に最高。


 「ふふ、間宮くんのそんな顔初めて見た。」

 俺は一体どんな顔をしてしまっているのだろうか......。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 とにかく俺は目の前のパンケーキを口に運ぶ。


 「ねぇ。私も間宮くんの苺のやつ、ちょっと欲しいな。ダメかな?」

 やっぱり苺、好きなのか。


 「あぁ......全然いいよ。」

 もちろん....。

 彼女のおかげで今、俺はここで最高のパンケーキを味わえているのだから。

 そう言って俺は皿ごと彼女に差し出す。

 でも......それならやっぱり彼女も苺にしておけばよかったのに。


 「よいしょ.......ふふ、どんな味かな。」

 美味しいに決まっているだろ。


 「お、美味しいー」

 当たり前だ......。

 超美味しい。


 「でもね。間宮くん。このバナナのやつもすごく美味しいよ。」

 そう言って目の前の彼女はまた俺に優しく微笑んでくる。


 確かに美味しそう......。 

 正直、もう匂いで美味しいことがわかる。


 「食べる?」

 せっかくだし正直食べたい.....。


 「い、いいのか?」

「ふふ、当たり前じゃん。お返し。はい!」 


 ん?.......え?


 彼女のその言葉と同時に、俺の口の前にはフォークに突き刺された一口分のパンケーキ。


 「ほら。」


 「え......?」


 「ほら。食べたいんでしょ。間宮くん。」


 「.......。」


 し、修学旅行の時も確かこんなんが何かあったな。

 あの時は結局食べずに逃げたけど。


 今回もさすがにこれは.......

 というか何を考えている?


 って、モゴっ


 色々と考えているといつの間にかバナナのパンケーキは俺の口の中に。

強引に口にパンケーキを押し付けてくる彼女に、つい口が......。

 

 「ふふ、美味しい?」

 「.......。」

 正直.......味がしない。


 「ふふ、これだけじゃわからなかったかな? ほらもう一口。」

 

 え?


 モゴっ


 「ね? 美味しいでしょ。ふふっ」

 「......まぁ。」


 俺は反射的にそう答えてしまうも......やっぱり味がしない。


 絶対美味しいはずなのに......。

何で彼女は平気でこんなこと。


 これじゃあほんとに......。


 「ねぇ、私たち本当にどう見えてるんだろうね。ふふっ」

 今度はそう微笑みながら、目の前の山本は俺のことを上目遣いで見つめてくる。


 ほんとに......。

 何でそんなセリフを平気で......。

 このタイミングで........。

 また、悪い癖が漏れ出てしまっているのだろうか......。


 まぁ、どっちにしろおかしいだろ.......。

 彼女の赤く染まった頬も.......俺の心臓も......。


 一体何を考えている.......

 

 これじゃあ......パンケーキの味が楽しめない......。


 ほんとに......どうしてくれる。


 ほんとに.......。


 それと.......何か周りがざわざわとしだした気がする。

一体どうしたのだろうか......。

何かあったのか?

 

 「ほら、もう一口。あーん。ふふっ」


 ま、また.........。

ほんと何で......俺にそんなこと。


 おかしいだろ。


 そしてこんなことを考えてしまっている俺も......おかしいだろ。

 何で彼女のことを変に意識してしまうんだ......。


 ありえないのに......。


 ほんとに最近、色々とよくわからない........。


 そしてやっぱり、味がしない。

 絶対に美味しいはずなのに.......。


 そして俺の皿には........もう何もない。

 いつの間にか彼女の皿にも。


 はぁ.......帰るか。

色々と考えていてもしかたがない.......。

 別に今回はこの前の勉強のお礼をされただけ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 ほんとそれだけ。


 まぁ........一応美味しさはわかったしな。


 「そろそろ帰ろうか......。」

 「......うん。本当に美味しかったね。」


 まぁ、色々と思う所もあるが、総合的には来てよかったな......。

 そう思いながら席を立つ俺。 

 

 「お、王子? え? やっぱり王子?」


 ん?


 そんな俺に、遠くからは微かにそのような女性の言葉が聞こえてきたが........何か、ソシャゲにでもはまっているのだろうか。


 差し詰め、ガチャでSSS級の王子キャラが当たったとかか?


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 とりあえず、あの一口目は........本当に最高だった。

 .......感動した。

 

 今度はどうにかして.......一人で来よう。


 でも本当に美味しかったな.......。


 うん。最高だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る