第68話【夏休み 悪魔との待ち合わせ】


 「ま、間宮くん、こっちこっち!」

 今、俺の目には集合場所の駅前からこっちに向かって笑顔で手を振ってくる山本の姿。


 ま、まだ15分前だぞ。

 もっと早く来ないと行けなかったのか。

 女の子と待ち合わせなんてしたことがないから勝手がわからない......。

 まぁ、友達すら高校になってからはできていないんだから.......わからなくて当たり前。

 どうか多めに見てくれ。

 もし万が一こういう機会が誰かと今後あったならちゃんとする.......。

 まぁ絶対にないだろうけどな......。


 「ごめん.......待たせた。」

 「いやいや全然、ちょっと私が早く来すぎちゃっただけだから.....って今日は眼鏡してないんだね。」

 あぁ、やっぱりリスクは最小限にしたいからな......。

 髪型もちょっとワックスで変えてきた。

 この時期の帽子はちょっと蒸れるし.......。


 「.......駄目か?」

 どうしても嫌なら考えるけど......。


「ふふ、駄目なわけない。似合ってるよ。かっこいい。」


 いや、だからかっこよくはないだろ......。

 かっこよかったらもっと友達がいるはずだ。ぼっちなんてやってない。

 何でそんなお世辞を言ってくるのかはわからないけど.......奢ってほしいのか?


 とりあえず、お世辞でもそんな表情でそんな言葉を言われたら.....むずがしくなってしまう。

 やめて欲しい.......。


 ほんとに......。


 「じゃあ行こっか。」

 「あぁ。」


 俺達はそう言ってゆっくりと駅前を後に。

 

 ____それにしても山本ってやっぱり.......すごいな。


 バイトでアイドルを見慣れてしまった俺の目から見ても普通に彼女は見劣りしない。

 っていうか.......冷静に考えたらよく俺は彼女からの提案にのったな。

 多分この姿なら大丈夫だとはいえ、こんな光景........学校の誰かに見られたら本当に陰口のネタにしかならない。

 

 夏休み明けに、俺が彼女の弱みを握ってるとかあらぬ噂が校内に流れるのだろう。

 ぼっちと学園の人気者........どう考えても不釣り合いすぎる。


 「ふふ、パンケーキ楽しみだね。」

 

 そう。でも俺はそのパンケーキの誘惑に負けてしまった。

 リスクよりもパンケーキをとってしまったのだ。


 でも、本当にそれにしてもやっぱり彼女はすごいな......。

 男からの視線はもちろん........女からの視線まで集めている様。

 同性にまで注目されるって、もはやカリスマかよ......。

 正直、普通に山本もなろうと思えば普通にアイドルになれると思う。 


 ほんとに何で俺はこんな娘と肩を並べて歩いているのだろうか。

 数カ月前までなら絶対考えられない光景だ。

 

 ほんとになんで........。


 「あ、着いたよ。」

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか俺達はお目当てのパンケーキ屋に到着。


 って.......多いな。

 めちゃくちゃ並んでいる。

 もう開店して3週間も経つのにまだこんなに.......。


 っていうか女の子とカップルしかいない......。

 改めて思うけど.......いいのかこれ。

 俺が入っても.......。

 ってかパンケーキのことばっかり考えててこの状況を全く考えてなかった。


 「.......。」


 「ふふ、カップルばっかりだね......。私達も、やっぱりカップルに見えちゃうのかな。」

 そんなわけないだろ......。

 ここまで格差があれば兄弟としても厳しいだろう。


 「ふふ、そういえば、修学旅行の動物園でもカップルに勘違いされたっけ......。」

 「.........。」


 俺の脳裏にはあの時の光景が再び浮かびあがる......。


 「........。」

 いや、あれは.......。

 っていうか何でそんなに顔を赤くして俺のことを見つめてくる.......。

 

 おかしいだろ......。


また、身体があつい.......。

 夏の暑さとは違う......彼女と一緒にいるとたまに感じるあの熱さ。


 ほんとにおかしいだろ.....。 

 なんで俺は.......いっつも。


 って.........山本は嫌じゃないのかよ。

 微笑んでるけど........俺なんかと。

 

 ほんと、列に並んでいる今も彼女は周りの視線や通り過ぎる人々の視線を集めている。


 本当に......何だこの状況。


 おかしいだろ.......。


そしてまだか......パンケーキ。


 せめて......店内に。


 本当にあつい......。

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