第62話【夏休み ADバイト⑥】
「た、田中君?」
「しっ。ここらへんは僕の方が詳しいから黙ってついてきて。」
俺達は今、さっきまでスタジオ内にいた武梨たちを尾行中。
何故か彼らは人気のない方へとどんどん足を進めていく様.......。
やはりこの局の内部を奴は把握しているのだろうか......さっきから全く道に迷う素振りをみせない。
あたかも既に目的地が決まっているように思えるような足取りだが、局外に行く様子もなければ、田中君いわくこっちは食堂のある方向でもないみたいだし、一体どこに向かってるんだ.......。
柊さんもあいつらチンピラが睨みを聞かせているせいか、さっきから小さく震えて沈黙状態。
廊下を歩くテレビ局の人達は皆急いでいるからであろうか、その異変には気がついていない様。
それに、もしかしたらチンピラがチンピラすぎて何かの撮影の合間と勘違いされている場合もある。
後、これだけ騒がしいやつだ。既にこいつがスポンサーの息子であることを知っている関係者の大人は見て見ぬふりをしている可能性もある。
まぁ.......あいつの親父が局全体にまで影響力があるかどうかと言われればそこは疑問だが。
とにかく気がついたらどんどん俺達はスタジオから遠ざかっている。
何かやばいな......。
ほんとに遅刻したと思ったら何でこんなことになってる。
そしてそんなことを考えていると隣の田中君が小さく口を開く光景。
「間宮くん、ここで一旦ストップ。」
「え?」
すると俺の目に映る武梨達はある一室の前で足を止めている。
そしてもはや、気がついたら周囲には俺達以外には誰もいない。
一体ここはどこだ........。
とりあえずそんな光景に、一旦俺達は物影に静かに身を隠す。
そしてそんな俺達の耳にはまたあのバカ息子の声。
「な!ここでお茶しようぜ沙織。」
「い、嫌です。こ、ここどこですか。離してください。」
明らかにこんなところでお茶なんておかしい。
彼女が嫌がるのも当然だ。
「あ? 俺はスポンサーの息子だぞ。な、ちょっとだけだから。」
「だ、だからほんとに嫌です。」
そう言って彼女は来た道を引き返すように逃げようとする。
しかし、いつの間にか奴の取り巻きであろうチンピラ二人が彼女の背後に回り込んでそれを許さない。
これ本格的にやばくないか?
いや、まじで。
「な、なぁ田中君。やっぱり大人を呼んで来よう。」
俺達だけではやっぱりまずい。
あの七光りはともかく、あの屈強なチンピラ二人組......。絶対に何かやってる。
きっと相当できる........。俺にはわかる。
正直......万が一何かあった場合、俺一人で奴ら二人はちょっとまずい。
「間宮くん。さっきの見てなかったのかい? 下手な大人に声をかけてもうやむやになるだけだ。」
た、確かに。
でも、ならどうしたらいい。
「ほら、入って入ってお茶しようぜ!な!」
「だ、誰か」
「へっへー誰も来ないよー。ここは親父に教えてもらった秘密の場所だからな。ほんと何も危ないことはしないからさ。沙織が望むなら指一本ふれない。」
「な!だから俺と大人のお茶会しようぜぇ」
や、やばい。大人のお茶会って何だよ。
明らかに奴のあの厭らしい顔は、今からお茶会をする者のそれではない。
危ないことをしない奴が自分で危ないことしないなんてまず言わないし......。
それにこうやって考えている間にもどんどん状況は悪い方向に。
ま、まじで芸能界って......やばくないか?
こ、こいつが特別やばすぎるだけか?
どっちにしろこれはもうさすがに目を背けられる状態ではない。
でも.....出ていくにしてもどうする。
「おい、田中君。」
「.......」
何か手を打たないとまずいぞ。
考えろ。考えろ俺。
って.....?
え? い、いない。
って、おい、え?
まさか.......。
「おいコラァ!さおりんを離さんかい!」
ま、ま、まじか田中くん......。
今、俺の目に映るのは人差し指を武梨に向けて......とてつもなく恰好をつけたポーズをとる田中くん。
え、あ、え?まじか。
「え、ADさん?」
「おいコラァ、おめぇ誰よ。 プッ、正義のヒーローが来たかと思ったら村人AにもなれなさそうなTHEモブじゃねぇか。」
「ハッハッハ、おいお前ら金は弾む、ちょっと遊んでやれ。」
「OK。おいお前、地下格闘技ってしってか?俺達はそこで今かなり乗りにのっている高宮兄弟。お前、もう病院に行く用意しておいた方がいいぜ。」
もういつの間にか何かはじまっちゃってるし......。
え.......何だよ。この状況。
「あぁ、テメェこそ病院に行く準備しとけや。ほんとお前らまじで誰の前で無法を働いてくれてんだ。アァン」
お、おいまじでどうした田中くん.....。
確実に君はそんなキャラじゃないだろ。
今度は両ポケットに手を突っ込んでかなりの形相でメンチをきりながら恰好つけてるみたいだけど........。
めっちゃ足が震えてるぞ..........。
ひ、柊さんの前だからって何恰好つけてんだ田中君。
まじで君のせいで状況が.....。
「あぁん? 大層なこと言ってくれるわりには足が震えてるぞ僕ちゃん。まじで潰される覚悟はできてる? ヒッヒッヒッ」
ま、まじでどうする気だ。
じ、実は意外に戦えるのか田中君?
そうじゃないとまじでやばいぞこれ。
すると俺の目に映る田中君は何故か全速力こっちに戻ってきて俺の背後に。
え?
「覚悟ぉ?それはこっちのセリフだバカ野郎!お前らの相手をすんのは俺じゃなねぇ。この史上最強のミラクル男、間宮健人だ!!バカ野郎!!」
え? は? え?
「ふふ、君の強さは渋谷さんからリサーチ済みさ。」
そう言って隣には笑顔で俺に向かって親指を立てている田中くん。
は?
「あぁん?ミラクル男?ってまた地味なんでてきたよ。ハッハッハッ。おいまじでお前ら遊んでやれや。」
ま、まじか......。
「ほら、間宮くんも遊んでやれ。」
こ、こいつ......。
で、でもこの状況.......
もうやるしかないのか。
た、田中.......あとでこ〇す!
でまじで何だよ。この状況。
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