第57話【夏休み ADバイト②】


 こ、これがオーベルジーヌのカレーか......。

 す、すごい。


 余ったからと言われてもらったけど.......

 う、うまい。


 このじゃがいもがお洒落だ。


 「田中君........。うまいな。」

 「うん。おいしいね。」


 他にも色んなロケ弁がある.......。すごい。

 弁当にこんなに興奮させられるとは.......

 さすが芸能界。


 休憩をもらってからすでに俺はもう弁当を3つも食べている。

 まじで柄にもなくこの環境にテンションがあがってしまっているようだ。


 ん......?


 そんなことを考えていると、唐突に背後から何者かの怒鳴り声が聞こえてくる。 


 「おい、今日こそ柊沙織と話をさせろ! 何?できない? まだ俺が誰だかわかってないのか?」


 何だ?

 振り返るとそこにはすごく偉そうな態度の金髪の男。


 歳は俺達と同じぐらいか.......。

 柊沙織の熱狂的なファンだろうか........。


 「お前ら、俺の親父はこの番組のスポンサーだぞ。わかってんのか?」


 スポンサーの息子......。

 よくドラマとかで聞く言葉。


 「はやく柊沙織をだせ!」


すごい........。

 こんなドラ息子のお手本のような男がいるなんて。

 さすが芸能界........。


「おい、お前らみたいなゴミADどもじゃ話にならねぇ。上のもんだせや。武梨がきたって言ってな。」


 はぁ、尚も彼は吠え散らかしているようだが........最低な人種だな。

 今までかなり甘やかされてきたのだろう。


それに何でも今まで自分の思い通りになってきたのであろうか......

さっきから聞こえてくる横柄な発言や、チャラチャラとしたチンピラみたいな風貌。

 俺が一番嫌いなタイプの人間だ.......。

 ゴミはお前の方だろ........。


 そして何故かそんな彼の行動に俺は脳裏でクラスメイトの榊のことを思い出してしまう......。

 気分が悪い.......。


 「おい、まじでお前ら親父に言いつけるぞ。早く連れて来いや!」


 うるさい。

 ほんとに飯がまずくなる。


 すると気がつけば、いつの間にか別室へと連れていかれている彼。


 どこに連れていかれるのだろうか.......。

 まさかあんな奴の言う通りに柊さんに会わせたりしないよな。


 それができるなら最強の親の七光りの乱用じゃないか。


 「ごめんね。うるさくて。」

 って、うわっ


 そしてそんなことを考えていると、いつの間にか俺の隣には田中君のお兄さん。


 「あ、いえ。」


 「でも本当に面倒だよ。実際にあいつはスポンサーの息子だし、番組側としても強くは出られないんだよ。」


 「ということは、実際に柊さんと........。」


「いや、さすがにそれはないよ。ただ、あまりにもうるさいからサインとか限定グッズとかをマネージャー経由で渋々渡してはいるけどね。でも、それではもう彼は満足しないのだろう。最近はあんな感じだよ。」


 まじもんのクズだな.....。


 「実はその彼のお父さんも結構ろくでもない性格をしているみたいでね。横暴だし、相当息子のことが可愛いのか彼の悪行には何も言わない。割と高齢になってからの子供ってことでほんと寵愛してあいつのことを甘やかしているみたいだよ。」


 最悪だな......。


 「まぁ、さおりんとかは事務所が強いから大丈夫だろうけど。あんまり事務所に力のないアイドルの子とかだと、彼にいいようにされたなんて噂もあるよ。そういうことも彼のああいう性格に大きく関係しているんだろうね。まぁ、あくまで噂だけどね。」


 ほんとに最低な男だな.....。

 それが本当ならもはや犯罪者といっても過言ではない。


 いわゆる上級国民ってやつだろうか。

 ほんとに聞けば聞くほどあいつのことが嫌いになる。


 とりあえず、一応もう休憩は終わるけど.........あいつの顔はもう見たくないな。

 そのまま絶対に戻ってくるな......。


 そして芸能人もやっぱり大変だな。


 まぁ、ミキならあんな奴ぶん殴ってKOしそうだけどな......。


 でもほんと、ああいう奴ってやっぱいるんだな。


 バカに権力って怖いな......。


 はぁ.......。


 とりあえず、もう一個弁当食お........。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る