第58話【夏休み ADバイト③】
た、田中くん......。
どういうことだ。
バ、バイト二日目にしていきなりハードモードになったぞ......。
昨日のバイト後に何か色々と書かされたと思ったら何だこれは......。
昨日とは忙しさが天と地の差。
お、恐れていたことが現実に......。
「お、おい田中君。話が違うくないか」
「........。」
こ、こいつ何無視してやがる......。
やりやがったなこいつ。
バイトに入る日数とか時間的には何の文句もないけど......。
何だまじでこの忙しさ。
「おい新入り、そっちの組み立て早くしろ!」
「は、はいー。」
くっそ.......まじでこれのどこが軽作業だよ。
た、田中.......お前はお前で何でそんなにサボり慣れてやがる。
くっ、そのための俺か.......。
「新入りー!弁当の発注はもうやったんだろうなぁー」
「く、ただいま発注しますー」
た、田中。テメェ......。
何ぼーっと隠れてやがる。
「ちんたらすんなー」
「は、はーい。」
「おい、もうすぐ演者さん入るぞー、大丈夫かー」
「はい!こっちはOKです!」
た、田中。
テメェ、そういう時だけハキハキと.......。
「ふふ、お疲れ様です。風邪ですか?」
って、え?
その声に後ろを振り返るとそこにはまさかの柊沙織。
「うおっ」
「ふふ、そんなに驚かなくても。体調には気を付けてくださいね。」
「は、はい。」
そう言ってマスクをかけている俺に彼女は笑顔を向けてくる。
でも別に風邪ではない。
これはただの変装。
さすがにこれだけ動かされているんだ。
昨日みたいに何もなしではさすがに彼女がいる限りはまずいだろう。
というか彼女優しすぎだろ。まじで。
ほんとにファンになろうかな........。
「君もお疲れ様です。」
「は、はい。粉骨砕身、皆様の為に頑張ります。」
た、田中まじでテメェ.......。
どこが粉骨砕身してんだよ。おい。
そんでどんだけ鼻の下伸ばしてんだよ。
でもまじか、彼女はすれ違うAD一人一人に声をかけて........よくやるよ。
そしてそんなことを考えていると目の前にはいつの間にか見知った顔。
「うぉ」
ミ、ミキ。
「あのー。どこかで私と会ったことありますか?」
彼女はそう言って俺に顔を近づけてくる。
お、おい。まじか......もう?
「あ、あるわけないでしょ。ぼ、僕一般人ですし.......。」
やばいやばいやばい。嘘だろ。
「んー何か。声変えてません? もともとそんな声ですか?」
「は、はい。」
俺は何故かさらに喉から裏声を絞り出してしまう。
「え? やっぱり変えてません? し、失礼だとは思いますけど、ちょっとマスクとってもらえません?」
「い、いや風邪ですし、うつすとまずいですし。」
ま、まじで......。
え、気づいてる?さすがに気づいてないよな?
え?
「いや、ちょっとだけ」
そう言って俺のマスクへと手を伸ばしてくるミキ。
え、やばい、やばいって。どうしたらいい。どうする俺?
「もうミキ。何してんの?早くいくよ。」
え?
あ、うぉ、お姉さん系アイドルのマリちゃん。
「え、あ、ちょっと待ってよ。」
すると俺の視界には、そのマリちゃんにセットの方へと引きずられていくミキ。
そして彼女は尚もこっちを凝視して首を大きく傾げている。
やばい。まじでやばい。
た、助かったけどまじでやばかった。
こ、このままだとバれるのは時間の問題か。
や、やっぱりマスクだけじゃダメなのか?
そんなことを考えているといつの間にか続々とスタジオ入りするタレントに、始まる収録。
「おい新入り、それあっちに持っていっといてくれ。」
「はい!」
そして、ほんと人使いがあらいな。
とりあえず一旦スタジオから出て荷物を目的の場所へと運ぶ俺。
でも今後まじでどうしようか。
「どけ!」
「え?」
何だよ。
ってお前。
てかお前、え?スタジオに向かってないか。
え、嘘だろ。
七光りのドラ息子.......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます