第46話【ファン】


 この苺のお菓子はリンリンに渡す分。

あと、これは他のバイトの人達の分。


 とりあえず、今日は久しぶりのバイトだな。

 皆.......俺は昨日、なんとか地獄から生還したぞ。


 って、ん?

 机の上のスマホがいつの間にか振動している。

 電話か。誰からだ?.......ってリンリンか。


 あれ、確かもう今日はバイト中じゃなかったけ?

 ん?


 そんなことを思いながらもとりあえずスマホの通話ボタンを押す俺。


 「はい。どうしたリンリン?」

 

 「どうしたもこうしたもないネー!大変なことにナッテルヨ、ケント!」


 ん? 何かでかいミスでもしたのか?

 ってなんでそんなに声を荒げている.......?


 「大変なこと?」


 「そうネ! ケ、ケントのせいでかなりの数の人たちがここに押し寄せてるヨ!」


 「え?ど、どういうこと? 俺のせいって何が? ん? 押し寄せてる?」

 ほんとにどういうことだ......。


 「写真ネ。写真!」

 「え、し、写真?」

 え?

 ほんと何でそんなに焦っているんだ。

 ってか写真ってなんだ?


 「 ケ、ケント、アイドルのさおりんと写真撮っただロ!今そのことで世間が騒がしくなってること、も、もしかして知らないのカ!?」


 ま、まさか......

 え、嘘だろ?

 さすがにないとは思っていたけど.......。ま、まさか彼女のファンか?


 やばいな......。

 こ、こういうのって......もしかして殺害予告とかでてんのか?

 というかバイト先まで特定して押し掛けてくるって......ま、まじでやばいやつじゃないか。

 

 え? ほんとあの写真一枚でそれって、彼女どれだけ力があるんだよ。


 嘘だろ。ってか........ドッキリ放送してくれよ。

 なら誤解もとけるだろ。

 なんであんな中途半端なことするんだよテレビ局。


 まじでやばいな。

 学校でも外でも敵ばっかじゃねぇか......。


 あぁ.......嘘だろ。

 なんでこんなことに。

思わず頭は大きく抱え込むようにうずくまってしまう俺。


 「とりあえず、今ケントに来られたら仕事にならないカラ、当分の間は自宅待機って主任が言ってたネ!数日はシフトから外すみたいだからそのつもりでいるネ。ほんともう大変ね! 」


 「何かすまない......。」

 でも、俺何も悪くないよな。

 ほんと何でこんなことになってる.......最悪だ。

 アイドルのファンってやっぱりヤバイ.....。

 怖い.......。

 ほんと怖い......。


 「別にそれは仕方ないケド、修学旅行楽しくないと言ッテ.......めちゃくちゃ楽しそうじゃないカ ! 何だよモウ!」


 いや、それは、いや総合的には全然楽しくないんだよ。


 「とりあえず苺のお菓子は買ってきたカ!こんなことまでなっテ買ってないはさすがに許さないヨ!」

 「それはもちろん。」

 あんなに何回も言われたらな。


 「ヨシ! とりあえずまた私に渡すネ。というカ、あー、ほんと大変ネ。大変。もう切るヨ。ヤバイヤバイ」

 その言葉を最後に彼女からの電話は静かに切れた。


 まじか......。

 さすがにバイト、辞めさせられないよな。

 ほんと何だよこの状況。


 というか、そんなことになってるってことは9chとかが荒れてたりするのか?

 

 普段は動画サイトばっかでそっちにはあんまり詳しくはないんだけど......今回ばかりはちょっと。


 俺は恐る恐る自分のノートパソコンに柊さんの名前と9chという文字を入力。


 「........」


 【討伐依頼 さおりんの隣の男の詳細を至急で求む(1000)】


俺は検索後にでかでかと先頭に出てきたその文字を見て、静かにノートパソコンを閉じる。


 はぁ.........俺は何も見てない。

 うん.......何も。


 それにしてもまじで何だこの状況......。


 や、やばすぎだろ.....。

 普通あんな写真一枚でこんなことになるか?

 ならないだろ。

 何もやましい写真でもないし。


 ほんと何でだよ。


 あぁ.......。




 _______一方、ドクマナルドでは

 

 ま、まじで何ネ、この人の数。


 しかも.......どこもかしこも女ばっかりネ。

 ってアァ.......。


 「ねぇ、ここにあのイケメンの王子様がいるんですよね!どこですか!?」

 「今日は彼シフト入りますか? この人ここでバイトしてるんですよね。」

 「この人の名前は何ですか?」

 「どこの学校の人ですか? 年齢は?」

 「ねぇ、この人次はいつ来ますか?」

 「この人、彼女いますか?」

 「この人のタイプは?」

 「この人に私のアドレス渡しておいてくだいさい。」

 「やっぱり芸能人なんですか?」

 「この人の家どこですか?」

 「ねぇ、いつもここにいる人であってますよね。」

 「ほんとに一目惚れしたんです。会わしてください。」


 もう何ネ、何ネ、ほんとにそんな一斉に喋られても何言ってんのか全然わからないネ。


 今、私の目の前にはスマホを片手に興奮している女たちが大勢。

 どいつもこいつも皆ケントの画像を持って何なのネ......。


 「お、落ち着いてくださいネ。ここにそんな人はいませんカラ。人違いですヨ。」


 というかケント.......ほんとに何してくれてるネ。

 今までも多少はこういうこともあったけど、こ、これは、け、桁が違うネ。


 ほんとヤバイネ。

 

 こ、これ、け、警察呼ぶレベルじゃないカ?


 こ、ここまでくれば完全に営業妨害ネ。 

 ま、まじで芸能人レベルじゃないカ? コレ?


 はぁ.......ほんと疲れるネ。

 ケント......この借りはでかいヨ。とてもデカいヨ。


 っていうカ、ほんとケントすごすぎじゃないカ、これ。

 まぁ、さすが私のケントなだけはあるけど.......。そ、それにしても、ほ、ほんとにこれは。


 「.......」


 そ、そしてとりあえず、女たちの中にわずかにまぎれこんでいる眼鏡で小太りの中年の男たち数名......

 お前ラ何でそんなに私のことジロジロとみてくるネ......。


 何か......イヤラシいネ。


 ッテ、うわっ.....手振ってきた。

 ッテ、写真モ? 


 し、しかも何だその満足気な顔ハ........。


 ッテ、しかも普通に帰るのかヨ......。


  何だコレ.......。


 結局........残ったのは女ばっかり。


 アァ.......しんどいネ。

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