第40話【修学旅行。ホテル②】
はぁ......修学旅行一日目は何とか耐えきったか。
俺はベットの上でスマホをいじりながら大きくため息を吐く。
本当に疲れた。
でも後はもう寝るだけ。
お風呂に関しては大浴場に入ってもよかったみたいだけど......
俺はもちろん部屋に備え付けのシャワーで十分だ。
そしてついさっき入ったばかり。
とりあえずストレス解消にスマホでラジオでも聞きながら横になろうかと思っていると......俺の耳には同室の男の声が聞こえてくる。
「間宮くん、ポッキーいるかい。苺だよ。」
そう言って今、俺に苺味のポッキーを差し出してきたのは同室の田中くん。
しかも一本ではない。
彼は箱ごとポッキーを俺に渡してきた。
まじか.....。
「いや、気持ちだけで大丈夫。ありがとう。」
「いやいや、買ってはみたけどやっぱり僕はいらないからどうぞ。」
こういう場合、やはりこれ以上断るのは失礼なのだろうか.....。
「あ、ありがとう。」
俺は素直に彼の手からポッキーを受け取ることに。
正直、普段の高校生活でこんな感じで人から何かをもらったりすることは中々なかったので、わりと嬉しい。
やっぱり田中くん。
いいヤツだな......。
おそらく気を使ってくれているのだろう。
ありがとう......。
「ところで間宮くん、今からちょっと、大浴場の方にでもどうかな?」
ん?
そんなことを考えていると彼は控えめな表情でそう俺に向かって口を開いてくる。
さっき入ったはずだけど......。
それに、田中君も。
「ごめん。もうさっき入ってしまったし........。大丈夫。」
とりあえず、俺は断りの言葉を彼に口にする。
もしかしたらせっかくの修学旅行だし、急に大浴場に入りたくなったのかもしれないけど、やっぱり俺はあっちにはいきたくない。
とにかくあんまり学校の人とは会いたくないのだ。
もう風呂自体には入ったし田中君には悪いが俺は遠慮をさせてもらう......。
別の部屋の友達とでも行ってくれ。
そう思っているとまたすぐさま田中君の口が開かれる。
「うん。一応それは知ってる......。」
え.......?
「それなら僕も入ったし......。だ、だから大浴場の方だよ。」
「だ、大浴場の方?」
だから大浴場じゃないのか?
方.......?
「うん。実際に入るわけじゃない。あっちに行くだけ。」
へ?
「な、なんで.......?」
どういうことだ......。
「な、なんでって.......。ま、まぁ意味はないけど君とあっちに行きたいんだよ。」
は?
やっぱり田中君って、変わってる?
言っていることがちょっと、いや、全然理解できない......。
「やっぱり.......駄目かな?」
「ご、ごめん。意味がちょっとわからないから。」
何かとよくしてくれている田中くんにはほんとに悪いが、意味が分からないので怖い。怖すぎる
ごめん......。
「ほ、ほんとに駄目?」
「う、うん。ごめん。」
「そ、そうか。な、ならこれは例えばの話なんだけど、ま、間宮くんは美女のお風呂あがりの浴衣姿とかって......興味ないかい?」
「は?」
俺の目の前には真顔でそんな意味の分からないことを急に口にしてくる田中君。
ほ、ほんとに急になんだ?
例えば?
一体何の話をしている......。
「湯上り美人だよ。」
だから、な、何を言っているんだ。
そんな真剣な顔で。
「興味......ないかい?」
「ない......。」
「ほんとは......ちょっとは興味あるんじゃないかい?」
「な、ない.....。」
「そ、そうか。君と一緒なら.....。」
ま、まじで何だ。
ど、どうした田中君。
目の前の彼はいつの間にか意気消沈。
急に元気がなくなっている様......。
な、なんでこうなった。
ど、どうした?
や、やっぱり変わってる?
プルルルルルルルル。
すると唐突に俺の耳には部屋に備え付けられている電話への着信音が聞こえてくる。
こ、今度はなんだ?
反射的に俺は受話器をすぐに右手に。
「おい、間宮。お前さっき大広間にハンカチ落としてたぞ。俺の部屋まで取りに来い。」
すると聞こえてきたのは先生の声。
あ、あぁ、ほんとだ。ない......。
「わかりました。すぐに取りに行きます。」
よ、よし。
ありがとう先生。い、いいタイミングでこの場から離れられる。
ちょっと空気的にとりあえず部屋からでたい。
「ま、間宮くん。どこか行くのかい?」
「ち、ちょっと忘れ物をとりに......。」
「そうなんだ。」
とりあえずそう言って俺は足早に自室を後にする。
さ、さすがについてきてないな。
俺を後ろを振り向くが誰もいない。
さ、さっき、彼が一瞬口角をあげたような気がしたが........気のせいだよな。
田中くん......。良い奴だとは思うけど、やっぱりちょっと変だ。
彼の俺の中のイメージがちょっとずつこの修学旅行で崩れていく......。
________また浴衣か.......。
俺はさっきから何人かのこの学校の生徒たちとすれ違っている。
おそらく大浴場でお風呂に入ってきた人たちだろう。
というか結局こっちに来ないといけなくなるとは......。
でも、やはり俺はひねくれているのだろうな.......
楽しそうにしている人たちを見るとその度にバカにされているのではないかと考えてしまう。
実際、今もこのあたりで私服は俺一人だし......。
けど、何かやばいな。
さっきの田中君のせいで浴衣の女の子たちを見ると、何故か俺はちょっと変な気持ちになってしまう。
全然そんな気はないけど.....ちょっと。
ゆ、湯上りか.......。
まぁ俺には関係ない......。
関係ない......。
俺はそう思いながら大浴場の前を早歩きで通り過ぎる。
そして俺はようやく先生のいる部屋へ到着。
「ほい、もう落とすなよ。」
「はい......。」
「ところでお前は大浴場にはいかないのか?」
「まぁ.......。」
「そうか。まぁ中々よかったから気が向いたらいってみろ。」
「はぁ.......。」
絶対いかないとは思うけど、先生にはそれとなく返事は返す俺。
そしてとりあえず忘れ物を受け取った俺は足早にその場も後に......。
はぁ、もう戻ったらすぐに寝るか。
田中君もおそらくもう大丈夫だろう。
いつも通りに戻っているはず。
それにしてもさっきは本当になんだったんだ。田中君。
あ........自販機。
とりあえず部屋の外にも出てきたし飲み物でも買っておくか......。
俺は財布からお金を取りだし、たった今、視界に入った自販機に。
どれにしようか。
そんなことを考えていると、俺は唐突に背後から誰かによって優しく袖を引っ張られる。
ん?
「ま、間宮くん? ま、間宮くんだよね?」
え......?
声の方向へ振り返ると.......そこにいたのは山本サヤ。
「あ、やっぱり間宮くんだ。ふふ、晩御飯ぶりだね。お風呂はもう入った?」
そう言って風呂上りなのだろうか、火照った感じの顔で俺に微笑みを向けてくる彼女......。
しかも彼女もまた浴衣姿だ......。
ゆ、湯上り.....。
脳内にはその言葉と共に田中君の顔も浮かんでくる。
「......。」
とりあえず俺は何とも思わない........はずだ。
田中君とは......違う。
田中君とは......
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