第41話【修学旅行。ホテル③】


 「ふふっ、ねぇ......間宮くんは修学旅行楽しんでる?」

 俺の目の前には今、浴衣姿の山本サヤがいる......。


 「.......」


 何だその質問と笑顔.....。

 楽しいわけがないだろ......。

まぁ、思っていたよりは.......


 って、いや、そんなことはないか。


 「ところで、ね、ねぇ、間宮くん的に......この浴衣どうかな? 似合ってる?」


 気がつけばそう言って、ゆっくりと俺に浴衣を見せびらかすように一回転している彼女。


 どうって言われても.....。


「き、綺麗かな?」

 さらに彼女は上目遣いでそう俺に問いかけてくる。

 やはり湯上りだからであろうか、その頬は赤く染まっているように感じる......。


 「.......」

 

 で、俺はなんて答えればいいんだ......。

 答えようによっては俺は間違いなく彼女に気持ち悪がられるだろう。

全く言葉が浮かんでこない......。

 そもそも何で俺にそんなことを聞いてくる......。

 

 そ、それとなんでそんなに顔を近づけてくる。

 それに、V字に開いた浴衣の胸元部分がどうしても俺の視界には入ってしまうんだが........ちょっと無防備すぎではないだろうか?

 つ、ついさっきまでそんなに開いてなかっただろ。


 それに.......何故かさっきよりも彼女の顔は赤くなっている。

 

 俺はそんな状況に何故かさらに言葉が浮かんでこない。

 これは知恵熱なのだろうか.......頭ものぼせてくる。

 また.......。また、おかしい。 


 「ご、ごめん。急にこんなこと聞かれても困るよね。ごめん。」


 今度はそう言って俺から距離をとるように離れる彼女。


 「い、いや.......。」

 「ん?........いや?」


 そんな彼女に、俺は無意識に言葉が途中まで漏れてしまったが、どうしたらいい。

 

 その先の言葉が俺には思い浮かばない。

 いや、正確にいえば正解がわからない。

 でも何か言わないと、やっぱりさすがにおかしいよな.......。

 とりあえず俺は勝手に開いた自分の口を恨む。

 

 「いいと思うけど.....。」


 この答えが正解かどうかはわかならいが正直それぐらいしかほんとに頭に思い浮かばなかった。 

 俺がこんなこと言ってもやはり気持ちわるいだけだろうか......。

 結局やってしまったか.......。


 「そ、そう?う、嬉しいな。ほんとに......嬉しい。」

 

 だがその言葉に、実際には目の前の彼女はそこまで嫌そうな反応はしていない......ような気がする。

 今も彼女はチラチラと俺の目を見ながら微笑んでいる。

 恥ずかしそうに俺の瞳に小刻みに視線を送ってくるのだ。


 何でだろうか......。

 そんな彼女の姿に俺の心臓はまた妙な打ち方をし始める。


 俺はぼっちだ。

 そんな感情は当の昔に捨てている。

 そんなはずは......ほんとにない。


 絶対に俺は勘違いはしない。

 なのに今日の俺は一体何なんだ。

 おかしいだろ.......。


さっきから俺の瞳に映る、彼女のその首筋から浴衣の下へと続いていく胸元のラインにだって本来の俺なら見向きもしないはずだ........多分。


 なんに今日の俺はほんとに何なんだ。

 自分の視線の先をコントロールできていない。

 そして自分の感情も.....。


 ほんとにおかしい.......。

 さらに頭が........胸が.......熱い。


「ま、間宮くんも、や、やっぱりかっこいいね。」


 や、やっぱりの使い方を彼女はわかってないのだろうか。

 やめてほしい.......。嘘だとわかってはいても今そんな表情でそんなことを言われると......。


 「おーい、サヤー。あれ?さっき笹岡がここらへんで見たって言ってたんだけどな。」

 「あぁ、風呂上りのサヤだろ、絶対にこの目に焼き付けてやるよ。」

 「かなり興奮してきた。サヤもいいけど渋谷さんも探そうぜ。」


 そんなことを考えていると唐突に榊たちの声が俺達の耳には聞こえてくる。

 あいかわらずゲスな会話.....。


 まだ姿は見えてこないが、声の大きさ的にもう近くには確実にいるんだろう。


 あいつ等と顔を合わせたくない俺がすぐにその場を立ち去ろうとするも、目の前の彼女の口の方が先に開いた。


 「ご、ごめん。変なのが来たから先に行くね。の、残りの修学旅行も楽しもうね !」


 そしてそのま小走りで立ち去っていく彼女。


  「あぁ.......。」


 本当に.......なんなんだその表情は。


 そして数十秒後に予想通り俺の目の前に現れる榊たち。


 「チッ。お前かよ。ほんとサヤはどこにいったんだよ」


 また舌打ちか......。

 少し遅かったな......。


 さっきの山本の笑顔とは対照的に俺のことをゴミのように見てくる彼ら。

ほんとに気分が悪い。


 とりあえず、彼らもそのまま俺の視界からは消えていく。


 はぁ........あ、飲み物忘れてた。


 そう思い俺が再度自動販売機の方向に身体を向けた瞬間、俺は身体の右側から急に寒気を感じてしまう。


 とてつもなく嫌な予感が俺を襲う。


 そしてゆっくりとその方向に首を回していくと......


 そこには田中君。


 そして彼も俺の方に向かって.......満面の笑みを向けてくる。


 そして俺も、その場から静かに立ち去るのであった.......。



  意味が、意味が分からない......。

 

 



 

 

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