第39話【修学旅行。バイキング】
よし、あの席に座ろう。
あの席が一番いい.....。
俺はまだ、周りに誰もいないのにも関わらず早歩きでその席を確保する。
その席とは、この大広間の角席だ。
それも入口から対角線上にある一番遠い方の角席。
おそらく一番人が来ない。
それに人の目にも一番入らないだろう。
誰かが座っている隣に俺が後から座るっていうのは嫌な顔をされるかもしれないが、先に俺が座っているんだ........。
誰からも文句を言われる筋合いはない。
とりあえず無事に希望通りの席は確保。
後はスマホを取り出して時間を潰すだけ。
あ........リンリンからメッセージが届いている。
『ケント、修学旅行は楽しいカ? ちゃんとお土産買ってきてヨ』
リンリンは多分、普通の修学旅行を想像しているんだろうな......。
はぁ......大変だよ。
とりあえず言われなくてもお土産は買って帰るつもりだけどな。
苺にホワイトチョコレートがかけられたリンリンが好きそうなお菓子。
はぁ......それにしても今日もなんだかんだで色々とあったな。
まだ明日も帰れないんだよな......。
そしてそんなことを思いだしながらため息をついていると、いつの間にかちらほらと大広間が学校の生徒で埋まりだす。
皆たのしそうだな.....。
まぁ、それが普通の修学旅行だよな。
はぁ.......。
もう半分ぐらい席が埋まっただろうかとスマホを片手に肩ひじをついて観察していると、俺の耳には嫌いな奴の声が聞こえてくる。
最悪だ.....。
何でお前等がそこに座るんだ。
こんなにも広い大広間でよりによって俺の視線の先に.......。
今、俺の目に映っているのは汚い笑みを浮かべながらこちらを見ている榊たち。
「バイキングでもぼっちかよ。」
「もう帰れよ。陰キャが......。」
「ハッハッハッ、飯がまずくなるよなぁ。」
本当に最悪だ.....。
俺がお前らに何をしたっていうんだ。
何でこいつ等はこんなに性格が悪いんだ。
俺は席を変えようかとも思ったが、それはあいつ等に負けたような気がするしと、ここに留まる......。
尚も聞こえてくる奴らの陰口と汚い笑みに俺はさらに心が沈む。
本当に本当に最悪だ。
それに俺の周囲の席には誰もまだ座ってないから......あいつ等の顔が丸見え。
もしかしたらもう誰も座らないかもしれない。
そうなれば俺はあいつ等の顔と悪口を堪能しながらの最悪のディナー。
本当に最悪だ......。
そんなことを考えながら、無駄な抵抗ではあるだろうけどもあいつ等の顔がとにかく視界に入らないようにとスマホをいじくっていると.......聞いたことのある声が俺の耳には入ってきた。
「ま、間宮くん。ここいいかな。」
スマホから視線を外すとそこには山本サヤ。
「あ、ああ.....。」
唐突すぎたから少し驚いたが、断る理由はない。
俺はすぐに了承の返事。
でも.....なんで。
ほんとにここでいいのか?
そして俺の前に彼女は静かに座る。
彼女の顔を見ると、少し俺は朝のことを思い出してしまう。
まぁ.......別に何もない。
ないのだが.......手が熱くなる。
とりあえず榊の取り巻きである高砂と守谷は俺の視界から消えた。
ただし俺の目にはさっきとは打って変わって鬼のような形相をした榊がまだ映り込んだまま.....。
「チッ」
舌打ちまで聞こえてきた。
ほんとこいつは気分が悪いな........。
そんなことを考えているとまた俺の耳には知っている声。
((間宮くん。こんなところにいたんですか。もう! 探しましたよ。って山本さんも! とりあえずお隣いいですか))
((あぁ、アリスがいいなら......。))
((やったー。間宮くんの隣。間宮くんの隣!それに山本さんもいるし最高です。))
そう言って俺の隣にちょこんと座ってくる彼女。
お昼ぶりだな......。
それにそのアクセサリーほんとにずっとつけてるんだな......。
そして今度はそんな光景に、俺は昼のことを思い出してしまう。
まぁ......アクセサリーをあげただけだ。
あげただけ.......。
「あ、アリスちゃん。ふふ、いつみてもほんと可愛いね。」
「フフ、ヤマモトさんこそホントにかわいいでス。」
何と言うか、微笑ましいな.....。
しかし........少し視界をずらすとそこには般若の様な顔をした榊。
「ぶっ殺す.......」
なんでそんな物騒なことを言われなければならないんだ......。
俺は何にもしていないっていうのに。
本当に何なんだろうかこいつ.......。
というか視線をちょっと移動させるだけでなんでこうも環境が変わる.....。
はぁ.........
また俺の口からは大きなため息がでてしまう。
えっ........
するとまた知っている声と同時に今度はそんな榊も見えなくなる。
「ま、間宮健人、ようやく見つけたわ。あら山本さんに、確か......アリスちゃんね。ここお邪魔するわね。」
「う、うん。」
「ハ、ハイ」
そう。山本の隣に座ったのは隣のクラスの渋谷アリサ。
「ふふ、間宮健人、あなたのこともっと知ってあげるわよ」
そしてまた彼女は俺に笑みを向けてくる。
「うわっ......渋谷さんが笑ってる。」
「ちょっと!それどういうことよ山本サヤ。」
「け、ケンカはダメでスよ。フタリとも...」
いつの間にか目の前ではあたふたとしているアリス。
「大丈夫だよ。喧嘩なんてしないよアリスちゃん。」
「そ、そうよ。こんなことでこの私がケンカなんてするわけないじゃない。」
「そ、そうデスか。よかったデス!」
何か騒がしくなってきたな......。
もう榊たちの声も姿も聞こえないし見えない。
変わりに何かものすごい数の視線を感じるけども、きっと彼女たちのせいだろう......。
いや絶対そうだろうな。
でもとりあえず、あいつ等が視界に入らなくなったのはでかい。
ご飯もおいしく感じる......。
とりあえず、このご飯が終わればあとは自室に帰って寝るだけ。
はぁ.......一日がほんとに長く感じるな。
_______ って、ほんとにこの視線はちょっと......やばい。
それと、ま、まじでやめてくれ。
いつの間にか何をしているんだ。一体。
「あ、シ、シブヤさん。ダメです、ダメデスよ。ぜったいダメデス。ズルいデス!」
「ほ、ほんとに何をやってんの渋谷さん。ま、間宮くん。こっちのモンブランの方がおいしいよ!そっちは食べちゃダメ」
「な、何言ってんよ。間宮健人こっちのショートケーキが一番おいしいわ。私が言うんだから間違いないの。ほらアーン」
「い、いやマジでなにしてんだ。も、もうお腹いっぱいだから何もいらないし。」
ま、まじで何だよ。この状況。
一体何が起きている。
熱い.......。
身体が......熱すぎる。
ほ、ほんとに何だこれは。
それに視線が痛い。
か、かなりの殺気もまじってる。
色々とやばい.....。
俺は気がついたら大広間を飛び出して自室へと走っていた......
そして先生に後からかなり怒られたのだった.......。
お、俺は何もしてない。
「......。」
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