第26話【電車】
ふぅ......今日も無事に終わったな。
いや......無事ではなかったか。
俺は夕方の渋谷アリサとの出来事を思い出してしまう。
「ケント、この後あいてるカ?」
そして次に明日のことを考えて俯いている俺の耳には蘭さんの声。
ん?
「え? 空いてるとは?」
「今日こソ、ちょっと近くでご飯でも食べないカ?」
さっき帰宅後の予定を聞かれたのはこの為か。
録画をしていたドラマを見るだけだと答えてしまったな。
まぁ、でもそれも大事な予定ではあるしな.....。
「すまない。今日はちょっと。」
「ドラマ見るだけだロ.....。明日でもいいじゃないカ」
そう言って彼女はまた俺のことをジト目でみつめてくる。
さ、最近彼女にはこの目をされることが多いな。
まぁ、ごはんぐらいいいか......。
この近くなら同じ高校の奴らもいないだろうし。
今まで何度か誘われた際も全部断ってたしな.....。
「じゃあ.....。行くよ。」
「フフ、やったネ。ケントと一緒にご飯ヨ。」
そして目の前には、そう言って俺に満面の笑みを向けてくる彼女。
でも、ほんとにこの娘は愛嬌がいいな。
俺と一緒にご飯に行くだけでそんな顔がつくれるんだから。
ただ.....その愛嬌は俺に使うだけ無駄だろうけどな。
というか何で俺はこの娘にこんなに懐かれているんだろうか。
よくわからない。
つい最近あったばかりで特別何かがあったわけでもない。
そのはずだ。うん。そのはず。
少なくとも俺は.....そう認識している。
でも不思議と過去にどこかで会った気もしなくはないんだよな。
でもやっぱり何も思い出せないということは何もない.....のだろう。
「じゃあ行くネ。」
「あぁ。」
俺は財布の中身を確認する。
「ケント、一駅分だけ電車乗るけどいいカ?」
「あぁ。」
別にそれぐらいなら問題はない。
____扉が閉まります。
「フフ、ケント何でそんなに離れるネ。」
「いや......別に。」
「もっとこっち寄るネ。」
「......」
今、俺に微笑みを向けてくる彼女は気づいていないのだろうか。
自分が周囲の男から集めている数多の視線を......
やはり一般的にみても彼女は美人なのであろう。
おそらくこの視線が普通になってしまっている。
そしてそんな彼女の横に俺みたいな冴えない奴が立っていたらどうなるかもわかって欲しい。
また陰口の対象になってしまうだろう......。
「もう、私がいくネ」
そんなこと考えているといつの間にか彼女の方が俺の隣に距離をつめてくる。
「フフ、ケント中華料理好きカ?」
「うん。まぁ」
中華料理はかなり好きだが視線が......。
「あと、何でケントはバイト意外ではそうやって暗い恰好するネ?何か理由あるのカ?」
「普通に......落ち着くからだけど。」
「そ、そうカ....。まぁ別に全然いいけどネ。」
でも、ほんとに視線がすごいな.......。
耐えられなくなった俺は周りからの視線を避けるように顔を上にあげる。
「......」
って、それにしても彼女のポスターばっかりだな。
大変だろうな......。
あいつ、俺のことなんてもう記憶の欠片にも残っていないだろうな。
ほんとにスターになってしまった......。
「ドコ、見てるネ。あっ朝桜坂47のミキちゃんネ。ファンか? とりあえず、もう降りるヨ。」
「あぁ。」
そして電車を後にして歩く俺達2人。
「ここネ。」
歩き出して数分後、俺の目の前には少し古びた中華料理店。
「えっ......ここって」
え?
そう。彼女に連れて来られたこの場所を俺は知っていた.......。
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