第25話【アルバイト2】


 「いらっしゃいま......せ。」

 「てりやきバーガーセットを所望します。」


 「か、かしこまりました。てりやきバーガセットですね。お飲み物はどういたしましょう。」

 「アイスコーヒーでお願いします。」


 「かしこまりました。」


 「あと追加でチョコパイもお願いするわ。」

 

「か、かしこまりました。」


 まじか.......。

 なんでここにいる。

 

 渋谷アリサ.......。


 今......俺の目の前にる彼女は、凛とした表情でテリヤキバーガーセットが出来上がるのを待っている。


 以前に尾行された山本の時とは違って偶然.......?

 でも普通に学校からは遠いだろ。

 もしかして家がこの近くなのか?

 

 あと俺って、やっぱり眼鏡と髪型でかなり印象が変わるのか?

 自分ではあまり違いがわからないが、バイト仲間からは別人のように違うとよく言われる.......。

 彼女の反応を見る限りでは、信じられないがやはりそうなのだろうか。

 俺に......気づいていない?


 「お待たせいたしました。てりやきバーガーセットでございます。」

 「どうも。」


 信じられないが、本当に俺だとは気づいていなさそう。

 そのまま店内の空いている席へと向かっていく彼女。

 俺に気づいていたら最近の彼女なら絶対に何かしら絡んでくるはずだ。

 自意識過剰かもしれないが.......。


 とりあえず、今日は全然人が来ないな。

 まぁ......そういう日もあるか。


 って、めちゃくちゃおいしそうにハンバーガーを頬張ってる.......。

 俺の目に映るのは今まで見た彼女の中では一番の笑顔の渋谷アリサ。

 見た目によらず、ハンバーガーとかジャンクフードが好きなのか?

 というか......ほんとにおいしそうに食べるな。 

 あと、意外にてりやき頼んでたな。


 「ケント......何見てるネ?」

 俺がそんな彼女についつい目がいってしまっていると、隣からは女性の声が聞こえてくる。


 「いや、ごめん。何でもない。」

 駄目だ。仕事に集中しなければ。


 でも今日はほんとに客がこない。


 「ケント.....。ああいう子タイプカ?」

 「いや......別に」

 

 「中々美人な子ネ。私に匹敵するレベルネ」

 「......。」


 今、俺に話しかけてきてた女性は中国人の蘭さん。

 親の仕事の都合上こっちにやってきた他高の1年生みたいだ。

 彼女はつい先日、このバイト先に入ってきた。

 日本語がかなり流暢のあたり、おそらくこっちでの生活もそれなりにもう長いのだろう。


 「何かいうネ。ケント。」 

 「まぁ......そうですね。」


 目の前で俺の返答に何故か嬉しそうにしている彼女は確かに、渋谷アリサに負けず劣らずの美人。

 自分でそういうことを言ってしまう点は少し残念な感じもするが、まぁやはり普通に美人ではあるので俺の言葉も嘘にはならない。


 「ケント、来週のシフトは決まったカ?」

 「あぁ、もう提出したよ。」


 「わかった。また確認しとくネ。」

 「.......。」


 店長でもない蘭さんからよくわからない言葉が聞こえてくる。

 確認.......?

 というか最近この子とよくシフトが被るな.....。

 まぁ何でもいいか。


 「間宮くん。お客さん少ないみたいだし、ちょっと別のこと頼んでいい?」

 「はい!かしこまりました店長。」


 「なんか、私に対する態度と違うネ......。」

 「.......」

 そう言って俺にジト目を蘭さんは向けてくる。 

 

 確かに、俺は店長などの大人や普通に客に対してならはっきりとスイッチを入れられるのだが.....どうしても蘭さんみたいな歳が近い客じゃない子に対しては明るく話せない。


 多分、学校で長年ぼっちだから同年代くらいの子には自動的にぼっちスイッチが入ってしまっているのだろう。

 実際、ここで蘭さんなどに明るく接して....あとから実は学校でぼっちをしていることがばれるのも恥ずかしいし。

 あえて彼女などには、いつもの学校と差異がでないような接しかたをするように意識をしている節もなくはない。

 まぁ、現状それでもうまくいってるし。

 まぁ.......いいか。


 そんなことを考えていると俺はふと店内のどこかから視線を感じてしまう。

 反射的にその視線の感じる方向に目を向ける俺。


 あっ........。

 今、俺の瞳に映っているのはポテトを片手にこちらを見つめてくる渋谷アリサ。

 完全に俺のことを凝視している。

 な、なんで。


 「間宮くん、この作業お願いしていい?」

 「は、はい店長。」


 店長の口から俺の名前が出た瞬間、俺を凝視する彼女の身体がピクッと小さく震えた気がする。


 「あの娘。さっきからケントのこと見ているネ。知り合いカ?」

 「い、いや。別に」

 ま、まぁ顔は知っているけど。

 そして尚も彼女は俺のことを見つめてくる。

 今度はチョコパイを片手に......。


 「ちょっと行ってくるネ」

 え、いや、なんで.......。


 「ちょ、ま......いらっしゃいませー」

 ちょ、嘘だろ。なぜこのタイミングで客がくる。

 

 来店したお客様に接客をする俺の視界には渋谷さんの方へと歩いていく蘭さんの姿。


 「フィレオフィッシュですね。かしこまりました。」

 

 俺の視界の端では何かを話し合っている彼女たち。

 チラチラと渋谷さんは俺のことを見ている。


 「ポテトのLもですね。か、かしこまりました。」

 そして今度は驚いた表情をする渋谷さんが俺の目には映っている。

 い、嫌な予感しかしない。


 「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

接客を終えたお客さんがレジから遠ざかっていく。


 そして今........俺の目の前には渋谷ありさが立っていた。


 「あ、あなた本当に間宮健人なの。」

 「......。」


 「全然いつもと違うじゃない。」

 「......。」


 「ってこの人から聞いたけど.......。私が知り合いじゃないってどういうことよ間宮健人!」

 「.....」


 「ってか私のこと完全に気づいてたわよね。ならレジする時点で声かけなさいよ!」

 「.....」

 

 やっぱり俺のこと気づいてなかったみたいだな......。

 そして蘭さん、何よけいなことしてくれてんだ.....。

 とてつもなく余計なこと......。


 あと、なんで顔赤くなってんだ。

 この人、なんか辛いもんとか食ってたっけ......。


 そして普通に騒がしい......。

 

 「な、何かいいなさいよ!間宮健人」

 「お客様、他の方のご迷惑にもなりますのでもう少しお静かに願います。」

 俺は笑顔でそう彼女に言葉を返す。


 「そ、そういうことじゃないわよ!てか、そ、その笑顔......反則じゃなぃ」


 ん?そういうことじゃない?

 ってか最後の方が声が小さすぎてよく聞こえなかった。

 何だこの声量の緩急は......。


 「ケント、ところで結局この子はケントの何ネ」

 「え.....ただの隣のクラスの子だけど。」

 普通にそれ以上でもそれ意外でもない。


 「な、何よそれ。ただのって何よ。ら、lineも交換したじゃない。」

 「ケントのlineなら私もしってるネ」

 「ってかあなたは間宮健人の何なのよ。し、しかもケントってし、下の名前で」

 「ん?私? 私はケントのパ-トナーね。よく一緒にシフトにも入っているしネ」

 「パ、パートナー!? ど、どういうことよ間宮健人!」


 いや俺がどういうことだ。

 今は何の話をしている.....。

 確かに蘭さんとシフトにはよく入っているが.......このバイトにパートナー制度なんてあったけ?

 あと、なんでそんなに渋谷さんは興奮している?


 「どうしたの間宮くん?」

 「あ、店長。何でもありません。」

 

 ちょっとうるさすぎたな......。


 「ま、間宮健人、また学校で色々と聞かせてもらうかね。ほんとにその見た目も含めて色々と!」

 「.......」


 そう言って彼女はそそくさと店から出て行った......。


 まじか。

 何を聞くんだよ......。

 

「ケントも大変ネ」

 

 いや、よくわからないけど。

 蘭さん.....。多分あなたのせいだぞ。

 

  

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