第21話【ドイツ】

(( ))内の言葉はドイツ語です。

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 今日の私はとてつもなく気持ちが高揚しています。

 日本に来てからいちばんかもしれません。


 今日も私の隣の席でずっと自分の机から離れない間宮くん。

 基本的に授業中以外は寝ているか本を読んでいるかの間宮くん。

 あいかわらず私には全く興味を示さず、まだ一回もお話したことのなかった間宮くん。

 正直、私の第一印象は変わった子でした。

 そして彼はやはり周りからは「ぼっち」と呼ばれています。

 いまだにこの「ぼっち」という言葉の意味はよくわかっていませんが、あまり良くない意味だろうことは皆の顔を見ていればわかりました。


 榊くんに至っては「ぼっちはダメ」と間宮くんに指を指した後に嫌な顔で手でバッテンをつくっていました。


 でも今日わかりました。


 「ぼっち」は全然ダメな人ではありません。

 「ぼっち」もとい間宮くんは......とてもすごい人です。


 _____時は少し遡ります


 今日も私は皆がしゃべりかけてくれることの大半を理解できずに、ほとんどの会話でしっかりとした返事ができていませんでした......。

 いや、今日も笑顔を返すだけで精一杯でした......。


最近の私はずっと「ごめんなさい」を言ってばっかり......。


皆からは「大丈夫、大丈夫」と言ってもらえますが.......やがて大丈夫じゃなくなるのは目にみえています。


会話ができないのですから。

話をしていることの理解ができないのですから。


 特に今日はいつもよりわからないことが多く、パニックになりかけ、そんな自分自身に惨めさを感じて落ち込んでしまっていました。

 情けないとは思いますが......。


 だって......皆が言っていることが本当にわからない。

 最近は寝る間も惜しんで勉強を頑張っていますが、成長が全く感じられません......。

ほんとに頑張ってるのに......。


 もうどうしようもないと思ってしまっていました。

 私はバカすぎですから......。



((死にたい))

 

 そして、そんな自分の無能さに私はつい、ドイツ語で泣きそうになりながらそのようなことを口にしてしまっていました。


 こんなこと言ったら神様に怒られちゃうのに。 


 すると隣の席で寝ていた間宮くんの肩が、突然ピクッとなりました。

 

 ((どうした、大丈夫か?))


 私に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声が聞こえてきます。

 大丈夫ではないけど大丈夫です。


 「だいじょうブデす」


 こう返事するしかありません......。

 ここで大丈夫ではないんです、とても困っています。助けてくださいと素直に言えたら、どんなに楽でしょうか.....。


 日本語が話せない上に、思ったことを素直に言うこともできない私......ほんとにダメな子です。


 「ハァ......」


 ため息まで漏らしてしまいたした......。

 神様、ほんとにごめんなさいです。

 

 ((そうか、死にたいなんて言葉が聞こえてきたから.......。大丈夫ならいいけど))

また小さな声が聞こえてきます。


 「はい、だいじょうブデす、ゴめんナさい」

 何度も言いますが大丈夫じゃないんですけどね。


 って、え?

 え.......!?


私は脳に電流が走った感覚に襲われます。


え?

今、隣の席から聞こえてきた声って.....


 え?う、うそ?


 ド、ドイ、ドイツ語?


 ((ま、間宮くん、あなたはまさかドイツ語を話せるの))

 私は即座に隣の席の男の子に問いかけます。


 そして、その質問に机の上から顔をあげた間宮くんが口を開きます。


 ((少しだけなら))


 う、うそでしょ。

 あ、あ......


 私は驚きに言葉がでません。


 しかも、ま、間宮くんのドイツ語.......とても流暢です。

ドイツ人の私が違和感なく言語として認識しているのですから。


 ((ドイツに住んでいたことがあるの? なんでそんなにドイツ語うまいの?))


 久しぶりに家族以外とおしゃべりができることにテンションがあがってしまった私は柄にもなく色んな質問を繰り返してしまいます。


 ((いや、それなりに勉強した。ドイツへは何回か旅行にいったくらいだ。だから、自分ではうまく話せているかわからない。))


 ((いやいや、すごく上手だよ、びっくりだよ。すごい。すごいよ。ドイツ生まれかと思ったよ!))


 ((それは言い過ぎだ))


 ((私なんか日本語をいくら勉強しても上達しないのに...))


 ((そうなのか.......。ちなみに......))


 「アリスちゃ~~ん、ダメだよ。ダメ。ぼっちなんかとお話したら」


 突然の大きな声が間宮くんの言葉を遮るように聞こえてきます。

 榊くんの声。


「アリスちゃん、何かお困り?」

 私はついつい心の中で思ってしまいました。


 榊くん、あなたに今、困っていますと....


 あっ......気がつけば間宮くんはまた眠ってしまいました。


 ざ、残念......。

 もっとお話ししたいのに。

 ほんとに......もっと、もっと。


 ふふっ、でも私はいまだに興奮状態が冷めません。

 さっきまでとは正反対。自然と笑みが零れ落ちてしまいます。


 ふふふっ、 間宮くん......やっぱりとても不思議な人です。



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