第18話【待ちなさいよ】


 ま、間宮健人。

 な、なによ。私に対して、こ、このそっけないlineの返事は......。


 私、渋谷アリサは今日も思い通りにいかない。

 

 ま、間宮健人。

 ほんとにあなたって人は........。


 私は基本的に今まで何をしても一番だった。

 そしてこの進学校でもそれは変わらないと思っていた......。


この学校に入学して初めての定期試験でも確実に1番は私だと疑わなかった。自分的にもその自信はあった。


 それがどうだ......。

 私の点数は一位の箇所には記載されていない。

 え?に、2位?


 次もその次の定期テストも

 に、2位?


 う、嘘でしょ......。

 ありえない。

 だ、誰よ、毎回、毎回、私に屈辱をあじあわせてくれるこの1位は......。


 私は我慢ができなくなって先生にしつこく問い詰めた。

 それはもうしつこく1位は誰なのかと。


 ようやく折れてくれた先生から出た人物の名前は『間宮健人』 

 それ以上の情報は教えてくれなかったけど、だ、誰?

 何人かのクラスメイトの友達に間宮健人がどんな子かを聞いたりもしたけれど、皆の口から出る言葉は私と同じ『誰?』だった。

 色々と教室の目立った奴をさりげなく見て回ったりもしたけれどもわからなかった。


 今度は全国模試。

 私の順位は全国で30番。

 私達だけではなく、全国の3年生も受けている試験。

 2年でこれなら上出来だろう....と思ってしまっていた。


 一応おそるおそる先生に私は尋ねる。

 今度こそこの学校の1番は私で間違いないかと


 先生は残念そうに苦笑いで首を横にふる。

 ま、まさか。


 そう。先生の口から出てきた言葉は


 『間宮健人』


 私は膝から崩れ落ちた。

 誰よ.....。間宮健人って。


 しかしつい最近、私はその間宮健人と遭遇することになる。


 弟がカツアゲされた。

 ここらへんで問題になっていた危ないチンピラ達に。

 しかし弟はその日、無傷で自宅に帰ってくる。

 

 話を聞くと同じ学校の男の人に助けてもらったらしい。

 弟はその男がすごく強く相手を全員ワンパンでぶっ倒してくれたんだと騒いでいた。


 ワンパン?

 調べてみるとパンチ一発で相手を倒したという意味らしい。

 すごい。


 聞けば私の隣のクラスみたい。

 名前はわからないとのこと。

 とりあえず、姉として大切な弟を助けてもらったんだからお礼ぐらいはしてあげないといけないと思い、私は翌日隣のクラスに乗り込んだ。

 

 そして私の弟を助けたのだと名乗り出たのは隣のクラスの榊とかいう男。

 弟を助けてもらってこんなことを思うのも何だが、どうもうさんくさい......。

 でも自分だと言い張るので一応は信じることにした。

 それからあいつはとてもしつこく私に絡んできた......。

 人気がある男だそうだけど、私から見ればやっぱりうさんくさい。


 そしてとある日の帰り道、私は心配をかける弟の為にも帰り道を共にしていた。

 私はこう見えても強い.....と思っていた。

 お父様のおかげで勉強も武道も小さいころから英才教育を受けてきたから。

 何かあっても私が弟を守ってあげれると.......。


 そして最悪にも異常事態が発生する。

 そう。以前に弟を襲った奴が仲間を連れて報復にきたのだ。

 でも、私ならなんとかできる.....と思っていた。

 しかし現実は残酷。

 私は恐怖で身体がうまいように動かなかった。

 気がつけば羽交い絞めにされて身動きができず、情けなくも誰かに助けを求めて叫んでいた。


 私は何も強くなかったのだ......。

 そして周りには誰もいない。

 もう終わりだと思った.......。

 

 するとそこに現れたひとりのさえない眼鏡。

 眼鏡......ほんとにもう終わりだと思った。

 せめて助けを呼んできてと思っていたら、その眼鏡はこっちに近づいてくる。


 そしてチンピラが何か騒ぎだしたと思ったら数十秒後......


 私たちの周りにはチンピラ達が全員うずくまっていた。

 それはもう一瞬だった。


 鬼のような速さでチンピラ達を次々と一撃で仕留めていく眼鏡。

 私は驚きで言葉がでてこない。


 すると弟から声が聞こえてくる。

 この前僕を助けてくれたのもこの人だと。

 

 やっぱりあいつじゃなかったんだ。

 でもそんなことを思っていると眼鏡はすごい速さへその場から立ち去っていく。


 とっさに私が待ってと叫んでも眼鏡は無視。

 あの時のことは衝撃すぎて鮮明に覚えている。

 まさに嵐のように彼は私達を通りすぎていったのだ。

 だから.....クラスバッチなども見落としてしまった。

 覚えているのは顔だけ。 


 そして翌日、昨日の出来事で彼の顔を覚えた私は彼を必死に探した。

 お礼ぐらいさせなさいよと。今回は躊躇なく。

 何よりも何故か彼のことがかなり気になったのだ.....。


 まずは以前に弟が見たクラスバッチのクラス。隣の教室だ。

 勢いよく教室に入る私。

 しかし....彼はいなかった。

 おかしいとは思ったけどいないものはいない。

 いたのは榊だけ。

 すぐに奴のlineはブロックしてやった。


 その後も他のクラスを探すも彼は現れない。

 ほんとになぜ......?


 すると、私があんなに頑張ったのにも関わらず弟があっけなくお目当ての人物をいとも簡単に見つけた。


 やっぱり隣のクラスだった。


 そこには本当にあの時の眼鏡がいた。

 気がつけば前のめりになって彼の名前を尋ねる私。


 すると彼の口からでた名前に私は驚愕。


『間宮健人』


 そう。それは私が長い間、気になっていた男の名前だった。

 

 私は柄にもなく興奮した。

 何故かわからないけど死ぬ程に。

  

 しかし彼は表情を何一つ崩さずに私のお礼は必要ないという。

 なんでよ間宮健人。


 初めて現れた、すべてにおいて私より優れた存在。


 この男ともっと話したい。

 この男のことをもっと知りたい。

 この男ともっと近づきたい。


 私が他人にここまでの感情を持ったのは初めてだ。

 彼に近づくと、胸が異常にドキドキする。

 おかしい。


 私は色んな男に告白をよくされる。

 だから自分でいうのも何だけど、容姿もそれなりのはず。

 なのに何であんたは私に全く興味をしめしてくれないのよ間宮健人。


 私ばっかり......おかしいでしょ。


 本当に、本当に待ちなさいよ間宮健人!

 

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