第11話【無双】

 場所は変わって数時間前。

 ドクマナルドでバイト中の俺は、さっき最寄り駅で見た山本たちのことを思い出していた


 そういやあいつら、この近くの施設で行われるパーティーイベントに参加するって言ってたな......。

 

 正直ああいうイベントの何が楽しいのかがわからない。

 まぁ、人それぞれか。


 でも、たまに開かれているあれ、あんまいい噂きかないんだよな。

 何でも、可愛い女の子がレイプされたとか。

 まぁ、あくまで噂だし、そもそも俺には関係ない。


 俺こと間宮健人は雑念を振り払い仕事に集中する。

 笑顔で楽しくお客様の対応を頑張っていると時間はすぐに過ぎてくれるから。


 「いらっしゃいませ~」


 そして俺が元気なあいさつで次の客も迎えようと声を張ると、目の前には8人程のいかにも悪そうなチンピラ集団。


 「ご注文は何に致しますかぁ~」

 悪そうなチンピラにも俺は萎縮せずにいつもどおりの接客で対応する

 バイトとはいえ、それがプロだ。


 すると

「あぁぁぁん?、お前ニヤニヤしやがってなめてンのかコラァ」

 

 マジか.......。

 教科書通りのイチャモンを俺につけてくる彼ら。


 「とりあえずポテトM」

 「かしこまりました。ポテトMですね」


 「あぁぁぁん、Lだって言ってんだろうが、カスか耳ついてんのかァ」

 

 ほんと、テンプレ通りだな。

 逆に恥ずかしくないのだろうか.........。


 「ギャハハッハッハッ、そんぐらいにしといてやれや」

 完全に俺で遊んで楽しんでいるチンピラ


 無事注文が終わるもまたチンピラは騒ぎ始める。


 「ギャハハッハッハッ、まじキメェ」

 「だろ~」


 他のお客様もいるし、ちょっとうるさすぎる。

 そろそろさすがに注意しなければとカウンターを離れようとした瞬間、チンピラたちからの気になる会話が俺の耳には入ってくる。


 「ギャハハッハッハッ、そういやよ、今日のイベントの生け贄は相当な上玉みたいじゃねぇか」


 「ハッハッハ、確か〇×高校の山本サヤとかいう奴だったっけ」


 「トモキくんも、悪だねぇ。その娘、雁田さんにボロボロに犯されて、一生もんの傷負っちゃうとか可哀想だねぇ」


 「ってもお前もいつもどおり、おこぼれもらうんだろぅ」 


 「あったりめぇだろ、今日はいつにもまして上玉なんだから」


 「今回の獲物も、恥ずかしいとこ撮りまくって脅迫して、飽きるまで遊んでやるぜ、ヘッヘッヘ」


 「雁田さんを怒らせねぇようにホドホドにな、あの人、怒らせっとまじ怖ぇ武闘派だから。」


 「「「「ギャハハッハッハッハッハッハッ」」」」


 「10時決行だから遅れんなよぉ、今日のゲームも楽しみだぜぇ。可愛い女の泣き叫ぶ顔たまンねぇなぁぁぁ」


 「金ももらえるし、女の子はヤれるし、最高だぜぇ」


 次々とゲスな会話が嫌でも俺の耳には入ってくる

 「まだ、時間あんなぁ、飯も食ったしちょっくら遊んでから行くかぁ」

 

 そして結局彼らは、騒ぐだけ騒いでドクマナルドを後にした.......。

 もちろん、ゴミは放置して.......


 それにしても、聞きたくないことを聞いてしまった.......。


 俺には関係ない、俺には関係ないと考えるも、さっきのチンピラたちの会話が

 脳にこだまして接客に集中できない。


 結局、ずっとそのことが気になってしまって今日は何度か普段はしないようなミスをしてしまった。


 そして仕事が終わり時刻は10時。

 眼鏡をかけ、前髪をおろし、帰路へ向かう俺。


 本来ならもうとっくに最寄駅で帰りの電車に乗り込んでいる時間だが、俺はそこにはいない。


 そう。気づけば俺の身体は最寄り駅とは逆方向、山本サヤ達がいるイベント会場へと向かっていた。


 関係ない、俺には関係ないと何度も心に念じたが聞いてしまったことを忘れることはできない。


 ここで、あの時聞いたことを無視すれば俺はきっと、後々後悔し、寝付けない日々を過ごすことになるだろう。

 

 さすがに、今回のはカツアゲとかそういうレベルじゃなくやばい......。


  そう、俺は彼女を助ける為にイベント会場に向かうのではない。

 自分が後悔しない為に彼女の元に向かうのだ。


 幸いにもここらへんの地理に関しては俺はわりと詳しい。

 バイト帰りによく探索をするからだ。

 俺は迷いなく道を進んでいく。


 さっき榊たちとすれ違ったような気がしたがきっと人違いだろう、暗くてよくみえないし。


 _____そして数分後、俺はイベント会場の入り口にいた。


 悪そうなチンピラが入り口に二人。

 こいつらの顔は知っている。

 さっきドクマナルドで騒いでいた奴等の一味だ。


 ここで間違いないだろうと俺は確信する。


 「山本サヤはここにいるか」

 こいつらチンピラに俺は冷静に声をかける。


 すると

 「何だこのシャバ僧、ここはテメェみたいな奴が来るところじゃねぇんだ殺すぞ」

 チンピラのうちの一人がすぐに汚ない言葉を浴びせてくる。


 もう一人は「トモキさん、また変な奴が入り口に現れましたけど」などと誰かと話をしている。


 すると、ふいに、さっき汚ない言葉を投げかけてきた方のチンピラが俺に拳を放ってきた。

 

 いきなりかよ.......。


 正当防衛だと遅いパンチを軽く回避して鼻っ柱に右ストレートをカウンターで決める俺。


 チンピラは俺の拳一発で地面に塞ぎこむ。


 さっきの恨みがある俺はもう片方も2秒で沈める。

 そして扉を開けて中に。


 山本を見つけるため廊下を歩いていると、

 「ヒャッハァァァァァァァァ」

 視界には数人で俺目掛けて走ってくるチンピラたち。

 世紀末かよ.......。


 こいつらも、さっきドクマナルドで騒いでいたチンピラたちだ。

 当然、先ほどの恨みがある


 拳や鈍器で俺に向かってくる彼らの攻撃を俺は蝶の様によける。

 

 遅すぎる。


 そして、ありったけの拳の殴打を彼らに浴びせる。

 俺の拳の弾幕は、彼らチンピラを一瞬で地面にぶっ飛ばす。


 ピクピクピクと、全員立ち上がれない。

 声のする方に向かって階段を上がっていく俺。


 2階に上がると、色黒のおっさんと、同い年くらいのイケメンがいた。


 彼らが何か必死に叫んでるなと思っていると

「殺すぞこら、小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 おっさんの方が刃物をもっていきなり突撃してくる。


 あまりにも急だったが、その突きは俺には見切れない速さではない。


 冷静に刃物を回避した俺は全力の一発をおっさんの顔面にぶちこむ


 「グハァッ」

 きれいに地面を転がっていくおっさん。


 力尽きてくれたか。彼が立ち上がる気配ない。


 そして最後に向かってきたイケメン。

 彼が一番弱かった.......。

 瞬殺だった。


 二人のいた場所の前には女子トイレ。


 ここかと思い。 

 俺は躊躇もなく女子トイレに入っていく。

 おそらく人生で最初で最後だろう。


 入った先には一つだけ扉のしまった個室。

 中からは微かに息づかいが聞こえ人の気配がする。


 「あけてください」

 俺は彼女がいると思い、しまっている個室に声をかける。


 すると、ギッーッと扉がゆっくりと開き


 案の定、そこには瞳から涙を流し肩で息をしながらプルプルと震えている


 山本サヤがいた.......。

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