第10話【パーティー】


 間宮健人。またこの男の子は何かしたのだろうか。

 全く強そうに見えないけどめちゃくちゃ強い眼鏡の男の子......。


 確実に間宮君でしょ。


 すごいな......。

 あの渋谷さんにあんなに追いかけまわされるなんて。

 何故だかわからないけど、とっさに隠しちゃった。


 ふふ、ほんとにおもしろい。

 いつも机の上で寝ているこの男の子は頭も良いし喧嘩も強いし、一体何者なの?


 「おーい、サヤ、今日トモキくんがイベントするみたいだけど、サヤたちも来るだろ!」


 そんなことを考えていると唐突に私、山本サヤの耳には榊の声が聞こえてくる。


 トモキくん、彼は高校生ながら色んなパーティーを企画する他校のカリスマ。

 彼の企画したイベントには色んな高校の人気者が集まり、この辺りの地域で目立っている私や榊たちにもよく声がかかる。


 だから集客もすごく、毎回100人程の高校生たちがパーティーには参加していると思う。

 おそらくトモキくんは高校生ながらお金もたんまり稼いでいるのだろう。

 顔もかなりかっこいいし、私の攻略対象の一人だ。


 正直、トモキくんから告白されたら、ちょっと考えてしまうかもしれない。

 なんだかんだで、もう少しで落とせそうな気はするんだけどね。


 「キャーッ、トモキ君のパーティー!!」

 「絶対行く!ねっサヤももちろん行くよね!!」


 周りの友達たちもこれでもかとはしゃいでいる様。


 「もちろん!!」


 返事はOKに決まってる。

 トモキくん。今日こそ私に告白させてあげる。

 ふふ、もう少しで私の女としてのレベルがまた一つ上がる。


 そして数時間後、学校も終わり、私たちはトモキくんの開催するイベント会場に向かった。


 ______ん?


 会場の最寄り駅につくが、なぜかこんなところに間宮くん。

 え?もしかして彼もパーティー?と思ったが私はすぐに勘違いに気づく。


 思いだした。


 ここは間宮くんのバイト先であるドクマナルドの最寄り駅でもあるのだ。

  実際、間宮くんは私たちとは別の方向に向かって歩いていった。


 それはそうよね。そんなキャラじゃないし......。

 まぁイベント帰りにでも寄ってあげようかな。

 そしてそんなことを考えたりしながらも少し歩いていると、すぐに私たちは目的地の会場に。


 すでに、会場には大勢の高校生たち。

 きらびやかな照明に照らされ、大音量の音楽がながれている広大なフロア、豪華な食事。

 華やかな空間に憧れ、背伸びをしたい高校生たちにはうってつけの空間。

 その高校生たちの一人である私も、この空間にはテンションがあがる。


 しかも私たち招待組は参加費がかからない。

 最高だ。


 _____パーティーがはじまってどのくらいの時間がたっただろうか。


 私はこの数時間の間に色んな男たちに声をかけられた。

 いわゆるナンパってやつだ。


 大勢の男の子たちが私を誉めたり、持ち上げたりで必死に口説いてくる。


 最高に気持ちが良い。

 そんなことを思ってる最中に聞いたことのある声が私にはまた聞こえてくる。


 「おー、サヤじゃーん!!。来てくれたんだ。楽しんでくれてる?」


 振り返ると、そこにいた声の主はこのイベントの主役であるトモキくん。

 

 やっぱりトモキくんはかっこいい。


 男女問わず大勢の高校生たちの憧れの的なだけある。

 あぁこのトモキくんを攻略できれば、ほんとにどれだけ私は気持ちが良くなれるのだろうか。

 

 考えただけでゾクゾクしてくる......。


 そんなことを考えながら私はいつもの様に猫なで声をつくり上目遣いで彼に視線を向ける。


 「もちろん。トモキくんのイベントなら参加するに決まってるじゃん。今日も最高にかっこいいね」


 そしてそこは百戦錬磨のトモキくん。

 

「サヤもいつもどおり最高にかわいいな」


 一切動じずに私の頭をなでてくる。


 大抵の男の子ならこれでイチコロなのに

 やっぱり強い。


 「あ、そういえば」

 そんなことを考えていると、彼は何かを思い出した素振りで私に耳元に口を近づけてきた。


 「今日、終わってから時間ある?ちょっと話したいことがあるんだ。10時頃に閉めるから、その辺りにVIPルームにでも来てよ」


 え?


 なんだ.......。私の今までの攻撃も全部トモキくんに聞いてたんじゃん。

 ふふ、他の人より何倍も時間がかかったけど、所詮は彼も男。

 私はついに彼も攻略?とさらにテンションが高まる。


 「うんっ」


 そして、そうありったけの上目遣いで返事をする私に、彼は嬉しそうな顔をしながら事務室がある方向へと歩いて行ったのだった。

 


 ______それからさらに数時間



 もう周りの学生たちも皆食べて、はしゃいで、踊って、ナンパして、楽しそうにハイになっている。

 榊や守谷、高砂たちも、いつも以上にさらにテンションが高い。


 「サヤ、ナンパされたら、すぐに俺に言えよ、俺がいつでも守ってやるからな、俺の御姫さまっ」

などと榊なんかは極限までに恰好をつけている。


 「サヤ、俺たちもそれなりに強いんだぜっ」

 守谷や高砂もわかりやすく調子にのっている様。


 でも、今日も私はそんな榊たちに寛容な心で笑顔を向ける。

 あなた達もそれなりのレベルだけれど、トモキくんはレベルが違う。

 あと数十分でそのトモキくんを攻略。その期待で頭がいっぱいだ。


 そして、もうその時がくる。時間は夜の10時


 次々とイベントを楽しんだ高校生たちが帰っていく。


 「ちょっと今日は寄ってかえるところがあるから先に帰っててね」

 そうとびっきりのあざとい笑顔をつくり榊たちとも出口で別れる

 ふふっ、鼻の下伸ばしちゃって。

 悪いけどあなた達はもういいの。

 

 そして皆が帰路についていなくなった頃、私はトモキくんの待つVIPルームに意気揚々と向かう。


今日は最高に気分が良いと、彼の待つ部屋のその扉をあけると中にはトモキくん.......ともう一人?


ニヤニヤとした色黒の悪そうな顔の怖いなおじさんがいる。


ん........?


そして不思議そうに首を傾けている私に目の前のトモキくんが口を開く


「サヤ、今日はよく来てくれた。やったな、お前は雁田さんに選ばれたんだ。」


へ? 選ばれた?


私にはトモキくんが何を言っているのが全くわからない。


「俺もお前のことは良い女だと思ってたんだが、俺の目に狂いはなかったようだな。ちょっと雁田さんの相手をしてくれたらいいんだ。もちろんやってくれるな。うまくいった暁には俺の女にしてやってもいいぞ。ハッハッハ」


「え?」

 彼は意味の分からないことを言いながら私に向かって笑ってくる。


 な、なにこれ?

 普通じゃない......?


 しかもいつの間にか、彼らの周りにはチンピラのような風貌の男たちがたくさん。

 汚い笑みを私に向けてくるチンピラの様な男達が.......。


 そして私は今、自分が立たされている状況をようやく理解。


 私がとっさにその場から逃げるように走りだそうとすると、続々と私の進路に入ってくるそのチンピラ風のイカツイ男達。

 

 ダメだ、多すぎる.......。


 完全に私は逃げ場を失ってしまった。

そして気がつけば私の目からは涙がボロボロとこぼれ落ちている。


「いいねぇー可愛い女の子の泣き顔」

 すると雁田と思われる男が私をまくし立てるように更に汚くあざ笑ってくる。


 いや、嫌だ。怖い。


 私が恐怖から号泣しているとまた私に向かって口を開く雁田。


 「お嬢ちゃんにチャンスをあげよう」


 「チ、チャンス?」


 「そう。チャンスだ。鬼ごっこをしよう。どこに隠れても、何をしてもいい。この会場で1時間私たちに捕まらずに逃げ切ったらお嬢ちゃんを解放してあげよう。.......ただし、捕まったのなら君の身体、好きにさせてもらうよ」


 そう言いながら尚も醜悪な笑みを浮かべ続ける雁田。


 「嫌っ!!!!やめて!!!!!!!!!!!」

 私は全力で拒否の意を唱える。

 本当に意味がわからない。


 「うるさい。君に拒否権はないんだよ」

 しかし、そんな言葉はおかまいなしとばかりに私にニヤニヤと向かってくる雁田たち。


 駄目だ.......。自然と身体が震えてくる。


 するとまた口を開くトモキ

 「悪いな、サヤ。こんだけの会場借りるのも無料じゃないんだよ。スポンサーが必要でな。今日お前が雁田さんの相手をしてくれたら、俺は安く会場が借りられ、お前は雁田さんによって気持ちよくなれる。そしてさらには俺の女になれる。Winwinの関係だろう。」

 

 気がつけば彼も汚い笑顔で私に迫ってくる。


 私はこうなったら警察に電話するしかないとスマホをとりだすが、先ほどからの恐怖で手元がくるって地面に落としてしまう


 すぐさま、トモキに蹴り飛ばされ没収される私のスマホ。


 「3分やる。その間に隠れてもいいよ」

 そう言いながらニチャァと口角をあげる雁田という男。

 私はとにかく逃げるしかないと全力で走り出す。


 しかし案の定、出口は封鎖されていた。


 でも、逃げるしかない。

 どこかに隠れなければならない。

 でもどこに隠れても見つかる未来しか見えない。


 私は頭が回らなくなる。


 私はどうしたら良いかわからなくなって、結局2階の奥まったところにある女子トイレの一室に鍵をかけて身を縮めた。


 怖い、怖い、怖い、怖い。

 恐怖で私はもうなにも考えられない。


 ある程度の時間はたっただろうが、もう私には時間の感覚なんてものはない。


 そんななか、トモキの声が、叫び声が遠くからは聞こえてくる


 「サヤァァァァ、喜べぇぇぇぇ30分経ったぞぉぉぉぉ。 あと30分だぁぁぁぁ ハッハッハァァァ」


  狂ってる。この男完全に狂ってる。

 な、なんで私こんな男に......

 いやだ。いやだ。怖いよ。


 「さらに面白いこと教えてやるよぉぉ。ゲームの始めにおまえのナイトである榊たちに、おまえの携帯から『助けて、今まだ会場にいる。本当にやばい』って送ったら、ついさっき、あいつらここに来たんだがどうなったと思うぅぅ?」


 もう意味わかんない。

 何が起きてるかもわかんない。

 

 「教えてやれぇぇ」

 次は違う男の声が聞こえてくる


 「ハッハッハッ。さっき山本サヤさんはいませんかっ?いるはずなんですけど?ってガキが3人きたんだけどよぉぉ。ちょっと凄んでやったらすぐ帰っちまったよ。

『『間違えました』』だってよぉぉぉぉぉ、ギャハハッハッハッ」


 「ちなみにまじでなんもないから警察とかには連絡しない方がいいよ。君らが恥かくだけだからね〇×高校の榊くんと、守谷くんと、高砂くんって拳をポキポキならしながらトモキから聞いてた情報で脅したら『『そ、そんな、警察なんて、滅相もございません。間違えだったんですぐに帰ります』』だってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


すると

「ギャハハッハッハッぁ、あんなに『俺は強い、いつでもサヤを守ってやるから』なんて、あいつらイキってたのによぉぉぉぉ。ほんとざまぁねぇなぁ。ハッハッハッ」とトモキがまたも醜悪な笑みで爆笑をしている


「サヤちゃ~ん、おトイレまだ終わらないんでちゅか~」

いつの間にか雁田の声も唐突に聞こえてくる。


  え......?


 私はとてつもない絶望感に襲われる。わ、私の居場所がすでにばれている。


 「ハッハッハッ雁田さーん。早すぎますよ。サヤちゃんが微かな希望にすがりついてるのに」と外でトモキもさらに笑っている。


「だって、今までの子もこのトイレに隠れる子めっちゃ多かったじゃーん」


私は更なる恐怖で手足が震える

もうあとがない......。


汚いやつらの汚い笑い声がさらに一層多きく聞こえてくる


「フィナーレだ。お前らも上にあがってこーい」

トモキが楽しそうに声を荒げている.......。


もう終わりだ。私は身体から完全に力が抜ける


ん?


 「なに、よくわからないやつが入り口に現れた?ん、何?どうした?おい返事しろ」

 

 え? な、何。

 何故か何か焦っているように思えるトモキの声が急に私の耳に。


 「おい、お前らもみてこい、侵入者なら手段は問わねぇ、ボコボコにしろぉ」


 「ヒュー、ハッハッハッハッァァ任せろぉぉ」


 何人かチンピラが走っていく足音が今度は聞こえてくる


 すると、数秒後

「いたぞぉぉぉぉぉぉ、半殺しにしてやるぁぁぁ」

 またもやチンピラ達の声


 そしてまたも数秒後


 「ドカッ、バキッ、ガンッ ボゴォ、バシィ、ドゴォン!!!!」


 激しい打撃音と共にチンピラ達の声が聞こえなくなる


 さらに数秒後

 「誰だおまぇー、何者だコラァ、雁田さんやっちゃってください」

 とトモキの声


 私はいったい外で何が起こってるかわからない。

 全くわからない。


 すると、

 「コラァァァ、ボウズぅぅぅぅぅ生きて帰れっと思うなァァ」

 と雁田の叫び声が聞こえてくるが


 「グハァ」


 すぐに雁田の声もしなくなる。


 「まじで、テメェ、何者んだ、金か金目当てか?な、なら交渉しよう。おい、止まれ、おい、お前こんなことしてタダですむと..グハァッ」


 トモキの声も気がつけば聞こえなくなる


 足音がこちらに近づいてくる


 その音だけが私の耳に届いてくる。


 そして気づけば

 私の隠れているトイレの前で止まる足音


 そして

 「あけてください」

 という声が聞こえてくる


 え、嘘でしょ........?


 私はこの声を知っている。


 最近、私はこの声を知った。


 恐る恐る扉を開ける私


 そしてそこには

 

 ____やっぱり、あの眼鏡の男の子がいた。

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