第9話 【最弱】


 ガラガラガラガラっ


 「失礼!」

 「おっ、おはよう。どうした?もしかして朝から俺に会いに来てくれたとか?」


 でもやっぱり昨日の『ザ・ホワイトギャンブラー』はかなり面白かったな。

 家に帰ったらもう一回読み直すか。

 いつものように机の上に突っ伏して目を閉じている俺の脳裏には、昨日買って読んだ漫画の光景が色濃く離れない。


 「ちょっとあんた、この教室に眼鏡のこう.......何て言ったらいいのかしら、全く強そうに見えないんだけど喧嘩がめちゃくちゃ強い男の子いない?」


 それにしてもあのシーンはかっこよかったな。

 主人公がまさかあんな巧妙な罠を敵にしかけていたなんてな。

 全読者が騙されていたことだろう。

 かなりスカッとして気持ちよかったし、本当に最高の漫画だったな。

 次出るのは3カ月後か......


「ねぇ.....誰も知らないの?」


  ん? さっきから誰かが何か言ってるみたいだけどどうしたのだろうか。

 

 「山本さん、顔が広いあなたなら知ってるんじゃないの? そんな男の子知らない?」

 「し、知らないなぁ。ご、ごめんね。」


 「ほんとに?」

「ほ、ほんとに。」


  この声は確か.......。 


 「ん?そこの机で寝てる子は誰?ちょっと顔をあげなさい。」


 この命令口調.......。確実に渋谷さんだろ。

 また来たのか。

 あいかわらず騒がしい人だな。


「ねぇ、ちょっと」

 

 もしかして昨日のことかな......? 


 何かうるさいし、俺は寝たフリを止めて重い頭をしぶしぶ机の上から起こそうとする。


 ってえ?

 あ、あがらない。


 「え、えっと、この子は絶対違うと思うよ。かなりおとなしい子だし、喧嘩なんて一度もしたことないんじゃないかな。寝てるようだし、このままそっとしてあげた方がいいと思うな。うん、強さなら多分このクラス最弱かも。」

 

 この声。

 山本.......なんで俺の頭をおさえている。

 意味がわからない。

 それに何気なくひどいこと言ってくれてる......。   

 

 「ハッハッハ、確かにそいつはないわ渋谷さん。このクラスってかこの学校最弱だろ。」

 「確かに、そいつもカツアゲされてたもんな。」

 「おう。絶対にそいつではない。共通点は眼鏡だけだな」


 ほんとに言いたい放題いいやがって。

 俺がお前らに何をしたよ......。

 話の全容がわからないからあれだけど。

 弱い弱いって何で俺こんなにけなされてるんだよ.......。


 まぁ、どうでもいいか。

 おさえつけられていて頭もあがらないし、もし昨日のことならめんどくさいことに巻き込まれるのはごめんだ。


 このままでいるか。


 (ごめん、ほんとごめん。)

 って、俺にしか聞こえていないぐらいであろう小声で山本がさっきから謝ってきているが、そもそも何でこんなことしているんだ。

 やっぱり意味がわからない.......。


 「はぁ......ほんとにどこにいるのよ。どこ探してもいないじゃない。おかしい絶対この学校の私と同じ学年の男だったのに。良いことしたんだから名前ぐらい名乗りなさいよ。ほんともう!」


 「おいおい、今度は誰をさがしているんだよ。そうイライラするなって可愛い顔が台無しだぜ渋谷さん......ってまた無視?」

 

 あ、顔をようやく上げられた。


 って、もういなくなってる。

 ほんと嵐のような女性だな.......。


 とりあえず意味がわからなかったけど。

 俺の精神的HPは朝からダメージを喰らいまくりだ


 もう今日は帰ってやろうかな......。

 いや、マジで。


 

 

 

 

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