鈍感ぼっちくん ～今日も嫌々学校へ向かう～（改定版）

第3話 【悪魔現る】

　今日も俺は教室で一人ぼっちである。

　本日の休み時間は１人で黙々と読書に励んでいる。

　まぁ、実際には本を読んではいない.....。

　読書に集中しているフリをしているだけだ......。

　途中までは本当に本を読んでいたのだがな......。

＿＿＿＿「ぼっち君、昨日めちゃくちゃカツアゲされてたんですけど」

　　　　「見た目通りかよぉ」

　　　　「ハッハッハッハッハッハッ、まじで受けるなそれ！」

　次々と自分の耳に入ってくる陰口のおかげで文字が脳に入ってこなくなり、頭が真っ白になってしまったのだ。

　ただし、こんなことはいつものこと。

　俺は、周囲には動じていない様に見せるために、慣れた素振りで澄ました顔をつくり、読書に浸っているフリをする......。

これは、俺が身につけた数あるぼっちスキルの一つであるエアー読書である。

　そして案の定、昨日のカツアゲの話題で盛り上がっているのはクラスの上位グループである榊や守谷、高砂たちだ。

　俺は昨日のカツアゲされていた俺を嘲笑う高砂の顔を思いだす。

　俺を心底バカにした薄ら笑い。

　思い出しただけでも拳に力が入る.......。

「まじで情けねぇよ。喧嘩の一つもできねぇのかよ」

「カツアゲされるとか、もう人として終わってんだろ」

「男じゃねぇよな。男じゃ」

　イキっている榊達の周囲にいる何も知らない有象無象な奴らも、彼らに同調するように俺に冷ややかな目線を向けてくる......。

　ヤンキー達に目もあわせられず、無言で逃げる様に改札を通り抜けていった榊達が俺の脳裏には甦ってくるが.....俺は黙って読書をしているフリを続ける。

　その後も奴らはあの後の顛末を知らない為に俺への陰口で盛り上がって楽しんでいた。

　俺の耳に届いている時点でもはや陰口とは言えないが.......。

　「なぁサヤ、今日は俺らと一緒に帰ろうぜ。もし何かあったら俺が守ってやっからよ」

そう言ってシャドーボクシングの素振りをしている榊が今、俺の目には映っている。

　「ヒューかっくい～」

　その横には澄ました顔で榊を持ち上げる高砂。

　すると

　「ん～、確かにこわいけど、今日は大丈夫かな。」

　すぐに女性の口から榊に対する返答が聞こえてくる。

　意外にも即答で断られたな.......。

　榊の表情が気になった俺は読んでいるフリをしていた本から目線を一瞬外す。

　するとそこには誘いを断られたくせに何事もなかったかのような澄ました顔の榊。

　まぁ、そんな顔にもなるよな。

　そんな滑稽な榊を、本を盾にじっと見つめていると、近くから誰かの視線を俺は感じる。

　そして、そっとその感じる視線の先に目を向けると......そこには先ほど目の前で榊の誘いを秒で断った山本サヤ。

　完全に目があったが、すぐに俺は目をそらす。

　不思議だ......というか正直怖い。

　実は俺はこの山本と今日、何度も目が合っている。

　山本サヤ、榊達と同じクラスの上位グループに位置する女性。

　麻栗色の髪に、恵まれた容姿をもった男ウケのするあざとい女。

　俺は心のなかでこの女のことを【小悪魔ビッチ】と呼称している。

　いつも見ている感じでは、榊や高砂などはこの山本に好意をもっているだろう。

　まぁ、山本のあざとさを見ていれば榊達が山本を好きになってしまうのもわからなくはない。

　山本にあの笑顔で甘ったるい声をかけられてボディタッチを連発されている男達を見ていれば、彼女の男をたぶらかす技術のすごさは嫌でもわかる。

　小悪魔というよりはもはや悪魔.......。

　そしてそんな山本と俺は今日、朝から本当にによく目が合う。

　2年になってもう3ヶ月ほど経っているが、今まで1日たりとも山本と目があった記憶が俺にはない。

　なのに今日は5回以上、既に彼女と目があっている。

　それだけなら、まだ良い。

　さっきなんて目があった瞬間、ニコッと俺に向けて彼女は微笑んできたのだ。

　俺は当然、彼女に微笑まれるようなことはしていない。

　というより今のいままで、山本に声をかけられたことも、笑顔を向けられたことも俺にはない。

　彼女からすれば、俺は本当に空気と同等の立ち位置にいる存在だろう。

　認識されていたかすらあやしいレベルだ。

　多分冗談抜きでされてなかっただろう.......。

　ほんとに不思議だ。

　そんな山本からの意図のわからない微笑みに俺はまたも寒気がし、無表情でぼっちスキルである机の上で寝たフリを発動するのであった......。

　「.......。」