第4話 初デートはどっちと?
雨の中、
「
「うん。二人とも気を付けて。あんまり役に立てなくてごめんね」
当初の不安通り、さすがに三人で一本の傘を使うのは無理があった。真ん中にいた僕はともかく、双子の姉妹は体の半分弱が濡れてしまっている。
「ちょっと待ったああああ!」
突然明さんが声を上げた。
「なに何事もない感じで帰ろうとしてるのよ。二人のデートの約束をこの目と耳でちゃんと確認するまでは家に帰しません!」
「うぅ……」
「お姉ちゃん、子津くんは恩人なんだから困らせたらダメですよ」
「そんなこと言って透子も逃げようとしないの。恩人だと思うなら、恩返しにデートくらいしてあげてもいいでしょ?」
「いや……透子さんが嫌なら無理に……」
「
僕が一番の当事者のはずなのに発言を遮られてしまった。これがスクールカースト上位の者の力か。太刀打ちできる気がしない。それは透子さんも同じようで
「で、デートじゃなくても図書委員の時に何かお返しすればいいんじゃ」
「そんなの普段と変わらないじゃない。特別な恩返しをするなら休日のデート。これしかない! それとも透子、硝くんとデートするのが嫌なの?」
「嫌じゃない……けど、何していいかわからないし」
僕はほっと胸を撫で下ろす。良かった。透子さんに拒絶されてるわけじゃなかった。
「そんなに考えることないって。映画を見たあと、喫茶店で感想でも話せばいいんじゃない? ウチもデートしたことないからよく知らないけど」
「ええ!?」
思わず大声を出してしまった。明さんデートしたことないの? こんなにモテそうなのに。
「そんな驚く? バスケ部の練習が忙しいし、休みの日に二人きりで出掛けたいと思うような男子もいないし」
意外だった。風間が好き説はなくなったから、他の男子と付き合ってる可能性を考えてたんだけど……もしかして僕にもチャンスがある!?
「デートしたことないのに、私にデートしろって言うんですか?」
髪の毛の隙間からちょっとした怒りの炎が垣間見える。僕も同じ気持ちだよ透子さん。
「ダメ? それならウチが硝くんとデートするけど」
「どういう流れなの!?」
本当に明さんは
「いつもみたいにウチが新品を貰っちゃっていいの? 透子だってたまには新品がいいでしょ?」
なんか物扱いされてるけど今は気にしないでおこう。双子だからお
「お姉ちゃんがそこまで言うなら……子津くん、よろしくお願いします」
顔を真っ赤にした透子さんがペコリと頭を下げる。僕が新品である点が刺さったらしい。
「こちらこそ、初めてのデートでうまくエスコートできるかわからないけどよろしくね」
「はーい。これで約束成立。そうだ硝くん、連絡先教えてよ。透子だけ知ってるのはズルいじゃん?」
「え? 透子さんも僕の連絡先知らないけど」
「はあああああ!?」
両手を上げて大げさに驚く明さん。確かに一年間同じ委員会をやってて連絡先を交換してないのは驚きかもしれないけど、そんなにリアクションしなくてもいいのに。
「マジで!? 同じ図書委員なんだよね? 初めて会った日に交換しなかったの? 毎日会ってるのに?」
僕と透子さんが連絡先を交換していなかったことに、驚きを超えてもはや混乱している様子だ。
「特に困ることもなかったし」
「また図書室で会えるからいいかなって」
「
「う、うん」
言われるがままにスマホを取り出し、IDを交換するモードを起動した。明さんは右手で、透子さんは左手で画面をタップする。双子でも利き手が違うんだと新たな発見があった。
「よし。登録完了っと。二人のデートなんだから待ち合わせとかは二人で決めてよね。すでにデートは始まっているのだ」
ふふんと得意げに笑っているけど明さんもデート未経験なんだよな。なんでこんなドヤ顔で語れるんだ。
「このデートは……子津くんへのお礼だから、私がいろいろ決めてもいいですか?」
お互いに奥手でデートプランが決まるか不安だったけど、まさか透子さんが積極的に動くとは思わなかった。人生初のデートを女の子に任せてしまうのはどうかと思うけど、僕へのお礼ってことになってるし……。
「待ち合わせの場所と映画は透子さんが、ご飯を食べるところは僕が決めるってどうかな? 全部を透子さんに任せるっていうのも悪い気がするし」
「はい! そうしましょう」
透子さんがニコリと微笑む。ひとまず第一関門の『どっちがプランを立てるか』はうまい所に着地できたみたいだ。
「むふふ。二人の初デートの成功を祈っております」
「もう、お姉ちゃんからかわないでください!」
「透子さんに楽しんでもらえるように頑張るよ」
ここでうまくいけば、透子さん経由で明さんの中の評価が上がるかもしれない。別の人の好感度を上げるためにデートするっていうのは気が引けるけど、透子さんと練習すれば自信が付くかもしれない。
「それじゃあウチらはこっちだから。また明日ね」
「子津くん、今日はありがとうございました」
「さよなら。気を付けて帰ってね」
僕は明さん達とは反対方面への電車に乗った。今日一日の出来事を脳内で繰り返し、主にあの感触を集中的に思い出していると
ブブッ! ブブッ!
スマホがカバンの中で震えた。
『子津くん、改めてありがとうございました』
『透子とのデート楽しんでね』
二人同時にメッセージが届いた。僕のスマホに女子から、それも二人から来るなんて……!
どうだ浅倉! 諦めなければ試合は続行できるんだ。
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