平凡な聖夜

そして、時は流れて早くも街は聖キリストの誕生祭1色。あちこちで目がくらみそうなくらいのイルミネーションが瞬いていた。

俺の店の近くには広場があるから、でっかいクリスマスツリー目当てに目の前の通りも、そのついでに店にもカップルが結構くる。

みんなすごく幸せそうで、ちょっと羨ましくなるけど、こんな日はいろいろと予定をたてねいるだろうから、服を買いに来る人なんかなかなかいなくて、今日は一日暇だった。

たまに珍しくお客さんが来ても、暖をとりにくるくらいで服は全くと言っていいほど売れていない。

まあ、のんびりできていいか、なんて思いながらレジの椅子に腰掛けて、今月のファッション雑誌をぱらぱらと読んでいた。

それから数十分くらいたったかなと思って、何となく顔を上げたとき、目の前の時計の短針は9の字をさしていた。

そろそろ店を閉めないといけないということに気づいて、俺は雑誌を椅子の上に置いて立ち上がった。

こんな聖なる夜だと言うのに、特に大した予定もない俺は、ケーキでも買って家で食おうかとしか考えていなかった。

ひとりの時間は好きだから、別に虚しくなんてならないけど、やっぱり誰か…女じゃなくても、友達とでも話しながら過ごしたいなって思うもんで。

そうやって懐かしい同級生や、学外の友達なんかの顔を思い浮かべていた時、ふいにあの子の顔が頭の中を横切った。

そうしたら、なんだか笑えてきて

「元気にしてるかな」

なんて、そう呟いた声は、店の中に静かに響いてそのままどこかへ溶けていった。

カーテンを閉めて、店全体の明かりを消して、黒のコートを羽織って店の扉にかかったOPENの文字をひっくり返した。

外は本当に凍えそうなくらい冷えていて

オシャレは我慢って言うけど、目の前を通り過ぎて行った素足の女性達を見送ってから

『風邪だけはひかないように』

って心の中で考えていた。

どっかでケーキ買って帰ろう、そう思って1歩踏み出した時だった

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