過去に浸る夜

その日は家に帰ってから、いつものように飯を食って、風呂に入って、適当に髪を拭いてからソファーに寝っ転がって携帯のトークアプリをつけた。

上の方にあるのは見慣れた名前、もちろん連絡をとっていなかったあの子の名前はないうえ、野郎の名前ばっかで、さらに虚しくなった。

少し下がってしまったテンションのまま、指を上下に動かして、あの子の名前を探した。

そして見つけたあの子とのトーク画面はずいぶんと下になってしまっていた。

トークを開いて最後の日の話の内容を見たら、もう半年以上あの子と話していないことに気づいた。

なぜか胸が締め付けられる。

『祝!23歳の誕生日おめでとうございます!』

『ありがとー!』

そんな俺の誕生日の会話は、あの子の仕事の話、面白かった動画の話…なんて、誰とでもするような世間話。

『それでは、素敵な1年を!』

『うん』

そんな会話で、俺の誕生日も、あの子との会話も終わっていた。

よく考えれば…いや、考えなくたって分かってたはずだった。

あの子が、俺の店のことを知っているはずなんてなかったんだ。

あの子は店の場所も、それに名前も、なにより、俺自身の店ができたことさえも。

あの子が知っているはずはなかったんだ。

だって俺は、あの子に俺の店のこと、夢を叶えたこと、なにひとつ伝えてないんだから。

馬鹿だった。

ひとことでも伝えておけばよかったんだ。

『夢叶えたんやで』って。

『自分の店、できたんやで』って。

…でも、あの子なら。

あの子なら俺のことを見つけてくれるんじゃないだろうか。

そうして俺にまた、おめでとうを言ってくれるんじゃないだろうか。

そんなことは有り得ないのに、夢みたいな妄想を繰り広げる俺は、ただただ身勝手で。

ただただ

…意気地無しだった。

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