第124話 勇者達

 解放軍は拓真に遅れて旧魔王城を制圧した。


 王城の屋上から、封印の地を眺めるナーシャの元へ伝令がきた。


「アナスタシア王女殿下、勇者タクマ様は先に封印の間へと向かったとのこと」


「わかりました。他にも伝令を頼めますか?」


 伝令の男はひざまずいて顔をあげる。これは肯定を意味していた。


「Bランク以下の冒険者、及び騎士達はこの本陣にて後方支援。それ以上は勇者様の元へ参りましょう」


「了解しました」


 ナーシャの命を受けた伝令は、各ギルドマスターや種族長の元へ駆けていった。


 風が吹いて、綺麗な金色の髪がさらさらと流れていく。言い様のない郷愁に胸を痛めるナーシャ、そんな彼女の元へ男が近付いた。


 ──ギルドマスター、アルだった。


「近くに行っても僕らは支援くらいしかできないよ? それでも行くのかい?」


 ナーシャは振り返って微笑んだ。


「世界を救うのに、異界の人間に任せっきりというのを、私は善しとしません。タクマさんは帰ると言ってました。救ってもらって、はいさよなら……薄情ではありませんか?」


「確かにそうだね。あ、そうだ……君に言われていたこと、きちんと手配しておいたよ。今頃世界中にあれが行き渡ってるはずだよ」


 ナーシャはアルに感謝を述べた後、王城の中へ入っていった。


「せめて祈りだけでも……か。彼女は良い君主になりそうだ」


 アルもナーシャの後を追った。


 ☆☆☆


 モルドとの戦闘は熾烈化していた。


「"地獄の炎よ、我が剣となりて敵を薙ぎ払え"──【フラムヴェルジュ】!」


 モルドは軽薄そうな男の声で詠唱を行い、巨大な炎の剣でこちらを攻撃してきた。


 射線上にいた俺はエリアルステップで避けた。炎は地面を大きく抉って爆風を生んだ。


 回避中、ルナの声が直接脳に響いてきた。


『タクマ、今のは16代勇者の秘奥義【フラムヴェルジュ】ニャ』


「またか! ってことは、受けた技を真似できるってことか?」


『わからないニャ。ルナはフォルトゥナの遺したデータベースから参照してるだけニャ!』


「速度、威力、全部最高レベルじゃねえか!」


 舌打ちしながら回避する。さっきから避けることしか出来ていない。このままじゃじり貧で、いつかはやられてしまう。なんとかしないと!


 モルドは両手を合わせて光の剣を取り出した。


「僕の剣技、受けてみよ! 【光剣クラウソラス】!」


 目で追うのがやっとな速度でモルドが迫ってくる。そして拓真の身体へ剣を振りかぶった。


「待ってたぜ! 接近戦! 【反撃剣リベンジソード】!」


 剣と剣が触れ合い、反撃効果でモルドに爆風が殺到する。黒煙から吹き飛んだモルドが空中で回転して石柱に対して横向きに着地。


 その隙を狙う雪奈とライラを一蹴して距離を取った。


「今度は"僕"か。さっきから一人称がブレまくってるよな」


「気にするな、大した意味はないから」


「気にはなるだろ。俺の予想なんだがな、勇者の技を使う時だけは口調を変えないといけない……違うか?」


 拓真の予想を聞いたモルドは一瞬真顔になったあと、笑いながら手を叩いた。


「さすがは勇者ってやつだね。まぁ大体合ってるよ。だけどやはり大した意味じゃないだろ? だって、対策の立てようも無いんだからさ」


 モルドの言うことは正しかった。どのくらいの技が使えるかはわからないが、炎が使えるのなら氷や水も使えるということだ。


 それはつまり、弱点らしきものが存在しないという意味でもある。


「さあて、君らの実力は大体わかった。ここからは1人1人削らせてもらうよ」


 モルドはオズマへと剣先を向けた。


ほふれ、銀の波濤はとう──【シルバーストリーク】!」


「オズマーッ!!!!」


 剣先から銀の魔力が竜巻のように伸びてオズマに殺到した。


 オズマは大剣を盾にするが、ジリジリと後退して石柱ごと押し潰された。

 攻撃が終わり、仲間の姿がはっきりしてくる。オズマの全身は斬り傷だらけで、大剣を杖のようにしてなんとか立っていた。


「……ぐはぁ! タ、タクマ……俺は大丈夫だ」


「待ってろ! 今回復してやるからな!」


 オズマの元に駆けようとした瞬間、ライラの悲鳴が聞こえてきた。


 視線を向けると、ライラも銀の魔力によって倒されてしまった。全てが秘奥義クラスの技なのに、攻撃のスパンが早すぎる。


 闘気を飛ばして自動治癒の印を2人に付与する。モルドはそんな俺達をつまらなそうに見ていた。


「ハッキリ言って、君らは歴代勇者より弱いね。あ、それとも……僕が強くなりすぎちゃったのかな?」


「ラッキーパンチでイキってんじゃねえよ。まだ俺と雪奈が残ってる」


「兄さんと私のコンビネーション、目に焼き付けて下さいね?」


 雪奈の手を握る。それだけで戦略の数々が伝わってくる。敵の力はほぼ才能の集合体と言ってもいい。この世界を旅して俺は何度かその才能とやらの力を目の当たりにすることが多かった。


 だからかな、何となく才能を超える方法がわかるようになったんだ。


「じゃあ、コンビネーションとやらを見せてもらおうか?」


 剣先を今度は雪奈の方へ向けてきた。俺は雪奈を信じている。だからこそ、脇目も振らずに前へと駆けた。


「チッ! 正気かよ!? 屠れ、銀の波濤──【シルバーストリーク】!」


 エリアルステップで距離を詰めてDeM IIデムツーを下から振りかぶる!


「くっ! 【ディメンションウォール】!」


 モルドは手をかざして次元の壁を作って剣を防いだ。ギリギリと音を立てながら振り抜いた拓真は、そのまま剣をブーメランのように投げ放った。


 向かう先はモルドの上空、そこにはすでに雪奈が落下体勢に入っており、拓真の投げた剣を左手でキャッチしたあと落下の勢いそのままに、二刀流で斬り込んだ。


「僕が攻撃したのは残像だったのか!?」


 ──ザンッ!


 雪奈はモルドの左腕を斬り落とし、続けて雪月花を繰り出す!


「俺様が負けるわけにはいかない! 【ロックスキン】!」


 ルナの念話によれば防御に絶対的な自信を持つ75代勇者の技らしいが、そんなの関係ない。硬いのなら、砕けばいいことだ。


 俺は身体を横にずらしてそれを避けた。


「【パワースマッシュ・剛】!」


 言葉なんて必要ない。オズマがこのタイミングで身体に鞭打ってまで技を放つのは折り込み済みなんだ。


 衝撃波がモルドを飲み込む。オズマの放った技は俺に対して喧嘩を売るつもりで編み出したらしく、攻撃力は低いが、闘気を含めた全てのバフを解除する効果があるとのこと。


「な、なんだと! 強化バフが剥がれた!?」


 雪奈と俺のコンビネーションだが、他のやつが加勢しないとはいってない。オズマとライラが怪我を押してまで支援することまで折り込み済みなんだよ!


「神罰執行します。──【秘奥義ミスティックアーツ最後の審判ラストアーク】」


 モルドの正面からは雪奈が、そして背後からはライラが渾身の攻撃をしていた。


 モルドが跳躍の体勢に入った。上に逃げる気か、だがそれも知っている。地面に手をついて水と土属性を練り込んで自作スキルを作り上げる。


【自作スキル・スワンプカーニバル】


 モルドの足元に泥が広がり、すぐに膝まで埋まっていく。


「我は神! この世界を浄化する存在なんだぞぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 モルドを中心に光と氷の爆発が巻き起こった。


「タクマさん!?」


 ライラがヴァルキリー状態を解除して胸に飛び込んできた。身体を受け止めると、ライラは自分で立てなくなった。


 疲労と極度の魔力消費、そして身体のダメージが重かったようだ。

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